ゆんたろす

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10/28/2023, 10:12:39 AM

-紅茶の香り-

ある日突然家に現れた同居人は個性でこちらの世界に来たのか、はたまた違うのか、全く分からないが
順応力が高く、元の世界に戻るまで私の家にそのまま住むことになった。
同僚や先輩には生活力が無いため心配されていたが
彼のおかげでなんとか部屋が樹海から脱する事ができている。



任務が終わり、深夜。閑静な住宅街にある家にそっと戻るとふわっとした甘い香りに包まれた。

「おかえりっす」

ぶかぶかのカーディガンを着た同居人がへらっと笑って私を迎え入れる。

『ただいま、アモン』

そのまま脱衣所に向かいシャワーを浴びて部屋着に着替えてリビングへ向かう。
髪の毛を乾かしていないのを見てアモンは私を椅子に座るように促す風邪引くっすよ、とタオルで私の頭をふき始めた。

髪の毛を優しく触りながら、アモンはご飯は食べるか、明日の予定を聞いてくる。

自由に過ごしていいと言っても彼はこの行為をやめないでいる。
こちらとしてもご飯や掃除をしてくれるのはありがたいが。

もう夜中だからご飯は明日食べる、と言うと髪の毛をふきおわったアモンはキッチンに向かった。
ピッとIHが起動する音が聞こえ、少しすると甘い香りがまた強く香ってきた。

「ハニーミルクティー、どうぞっす」

なるほど、家に帰った時の甘い匂いはこれだった。

お礼を言い、1口含むと程よい甘さが口いっぱいに広がり、小さい幸せが舞い込む。

『おいし』

「よかったっす」


10/26/2023, 11:41:31 AM

-愛言葉-

『ん…』

身体の痛みで目が覚める。
確か昨日敵の攻撃を受けてしまいボロボロの状態で家に帰宅したのは覚えてる。
ショートに送ってもらい、アモンにベッドへ運んでもらってそれから…

ベッドの端を見ると、アモンが寝ていて
サイドテーブルには飲み物と薬が置かれていた。

『アモン…ベッドで休んで大丈夫だよ』

優しく肩を揺らす。パッと目が開き、ガバッと起き上がるアモンに驚いてむせた。傷が開いた感覚がして思わず呻く。

「!!!大丈夫っすか!?」

『大丈夫…ちょっとむせただけ。お水取ってもらっていいかな?』

これ以上心配かける訳にはいかない為、水を貰ったあと、汗をかいて着替えたいからと部屋を出るように伝える。
渋っていたアモンに、恥ずかしいから!早く!と明るく声を掛けるとアモンは渋々部屋の外に出た。

気配からして、扉の前にいるけど、姿が見えないからこちらが何をしていても大丈夫だろう。
生々しい傷をアモンに見せるわけにもいかないし。
服を脱いで、傷口を治療する。
リカバリーガールの能力のコピーは本当に有難い。
でも自分の治癒力を使うためどっと疲れる。開いてるものを閉じるから、2日はベッドの上だろう。

「着替え終わったっすか…?入っていいっすか…?」

と、5分もかからずアモンから声がかかるから、
急いで着替えて、いいよと返事した。
声を掛けるとすぐ開くドア。アモンに傷の経緯を説明し、
今から2日くらいは動けないことを伝えた。
その間は私に構わず、自由に生活して欲しいと伝えると
ポロポロと涙を零すアモンにぎょっとする


「俺…要らないっすか?…役立つから…だから」

『違う違う、動けないからその分自由に生活してってことだよ…大丈夫、私…は…君が必要、だから…』

それでも泣き続けるアモンに、続ける

『アモン、私は君を置いて死なないよ、約束する、…そうだ、元気になったら、薔薇の展示会、行こっか…私、薔薇の種類とか分からないから、教えてもらいたいなぁ…』

だから

『2日間で治すから…だから、絶対、行こうね、約束』

そこから文字通り2日で復活した彼女にアモンは約束をすることにした
いつか彼女が自分の世界に来た時に庭の花を紹介すると。






それからというと
どちらかが怪我をしたり、弱った時には元気になったらやりたいことを相談して、元気になったらすぐに実行するというルールを作った。
好き、なんて言葉で表現するより実現した愛情表現をお互い楽しむ日々を楽しんだ。

10/25/2023, 12:39:27 PM

-また明日-

少し前に彼女より先に起きて、朝食の準備をする。
コーヒーをサイフォンで淹れるのにも慣れた。
昨日の食器を元に戻しながらテキパキと準備を進めていると
2階から鳴る電話の音に気づく。
静かに急ぎ足で2階へ。布団を被っている彼女らしき物体に声をかけ、ぽんぽんっと軽く叩く。

「おはようっす。電話、鳴ってるっすよ」

唸り声とともに伸びる手にスマートフォンを渡した。
最近の俺と彼女のルーティンである。

彼女は“ヒーロー”という職業らしい。
ヒーローが職業?なんて最初は耳を疑ったが、テレビという映像を映す家電に映し出される彼女を見て驚いたのはここに来て数日後。
のそのそと布団から出る彼女に挨拶をし、1階へ。
目玉焼きと焼きたてのトーストを並べ、コーヒーを注ぐ。
テレビを付け、使い終わった食器を洗っているとこの家の家主が降りてきた。

『アモン、今日もありがとう…』

「いいえ、先にご飯食べるっすか?顔洗ってからにします?」

『ん…すぐ顔洗って食べる…』

「了解っす」

朝少し早く起き、家の仕事をすることは
ここに居候している身として、精一杯の恩返しだ。
そんなことしなくていいのに、と言われたが
彼女は1人で暮らしてはいけないくらい生活力が皆無の為やらざるを得ないということにしてやんわり押し通した。


一緒に席に座り食事を摂る。
朝の時間に今日の予定を話す彼女に穏やかな日常を感じる。
テレビでみる映像での彼女はキラキラ輝いていて、強くてかっこよくて、この生活がずっと続くと思っていた。


『た…だいま…』
「!!!?その傷…!!」

その日同じヒーローに抱えられ包帯ぐるぐる巻きで帰ってきた姿に、平和な日常などは無いと思い知らされた。

「お前が同居人か」
「は…はいっす…」
「こいつのこと…よろしく頼む。」

そう言い残すと、彼女の同僚らしき人は帰って行った。


『へへ…しくった』

「…ボロボロじゃないっすか…」

全身が包帯に覆われ歩くのがやっとの状態な彼女に朝の面影はなかった。
思わず涙が零れる。ここは平和な世界ではないのか、俺がいる世界よりも遥かに文明は発達しているのになんで。

『身近な人を泣かせるなんて…ヒーロー失格だね、…すぐ治して頑張るから…ごめんね』

「…!!」

力なく笑う彼女にはっとした。
彼女たちヒーローがいるからこの世界は平和に見えるんだと。
街の人たちを守ってるから、平和なのだと。
テレビの中のフィクションではなく、現実の世界だと。

弱々しい彼女を優しく抱えてベッドへ移動する。
一人で行けるよ、と言う彼女の言葉を軽く流し、寝かせる。
起き上がろうとする彼女を制して休むよう言った。

最初は抵抗していた彼女も、徐々に言葉が少なくなる。
疲れているのだろう。すぐに意識を手放した。

「また明日…」


俺が元の世界に戻るまでは、彼女と、彼女との生活を守ろう
と誓った日だった。

10/24/2023, 11:34:00 AM

-行かないで-

「最初、こちらの世界に来た時は戸惑ったっす」

寂しそうに笑ったアモンは、私の問いに答えず話し始めた。
何を話せばいいのか、言葉が出てこなくてただ黙ってアモンの言葉に耳を傾ける。

「こっちの世界は東の国の文化に似ていて、俺のいた世界とは違って文化も発展していてムカつくくらい平和な世の中でだと思ってたけど…守ってくれる人間がいるから、平和だったんすよね」

『…アモン…』

「テレビってやつで活躍を見た時に敵を捕まえて、皆から賞賛されている人間が、私生活は家事も出来なくて酷い有り様なんて、笑っちゃうっすよほんと…俺と同じ部屋に住む人より世話が焼けるっす」

アモンはゆっくりと私に近づき、目の前に立つと私の肩におでこを付ける。段々と声が震え始めるのを聞くとたまらず抱きしめた。

『アモン…私、アモンがいないとダメだよ…だから…』

行かないで、という前にアモンの指が私の唇に触れる。
涙を流しながら首を振ったアモンに、本当にこれは夢なのかと錯覚してしまった

10/23/2023, 10:43:24 AM

どこまでも続く青い空

ヴィランにより破壊された建物での救助活動が無事に終わり、解散になると近くでパトロール中だったデクとショートに会った。
雄英を卒業してからお互い事務所は違うが定期的に任務が被ることが多い。
デクとショートが私の姿を見てぎょっとする。

「なにがあったの!!!」
『へ?』
「お前、今自分がどんな顔してんのか分かってんのか」
『…どゆこと?』

お前、あの時みたいになってんぞ。

ーーーーーーー

ヴィランによって引き起こされた爆破事件。
泣き叫ぶ人々の声が響いた。私の意識はただひたすらに全員助ける方向に向いていた。文字通り全員助ける、はずだった。私には自信があったのだ。優先順位を考え一人一人的確に救助していった。
「たすけ…て…」
小さな、か細い声が聞こえ、振り向くと、大きな瓦礫の下に足が挟まって動けなくなっている女の子。
『待ってて!私が今助ける!!!』
すぐに駆けつけ、瓦礫をどかす。
『…!!!』
「おねぇ…ちゃ…」

両足は無惨にも潰れていて、もはや足の原型も留めておらず、出血も激しい生きているのが奇跡のような少女。
『今、助けるよ、大丈夫、大丈夫。』
私の能力は他人の能力をコピーできる能力
リカバリーガールのコピーをしていたため治癒はできる。
『血が…止まんない…!!』

「あの…ね…おねぇちゃ…」
『今、助けるから!!すぐ他の回復班が来る!止血をして、お姉ちゃんの能力ですぐ!治すから!!』

「さ……むく…なって…きた…」
『寝ちゃダメだよ!頑張ろう!!…っなんで!!

なんで血が止まんないの…!!!!』

爆破の影響で救助隊も到着に手間取っており、現場には私1人しか居なかった。
それでも、それでも、ヒーローだから。
みんなを救いたい。

布で出血部を出来るだけ止血し、治癒をしながら
飯田くんの個性、エンジンを同時に使うことが出来れば…
どちらを取る…治療を優先か、救助隊の所まで全速力で抱えて走るのがいいのか
迷うな迷うな迷うな…迷うな!!!迷うな!!!!!

ーーーーーー

『…!!!!』

フラッシュバックした光景のあとは何も覚えてない。


目を覚ますと、綺麗な青い空が広がっていた。
隣にはアモンが座っていて、私が目が覚めたことに気付くとふわっと笑う。

「お目覚めっすね」
『アモン…』

今まで会いたかった彼がそばにいる。
嬉しくて、嬉しくて、仕方ないのに…

『夢、なんだよね…』
「……」

アモンは寂しそうに笑った。


--------…
MHA世界軸×aknk

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