「はーい、主様ちょっと来てくださいな~」
『ハナマル?どうしたの?』
「そろそろそのぉ~…あれだ、肌寒くないか?」
『いや、全然大丈夫だよ?』
「そっかそっか、そろそろこの世界も寒くなってくるから、風邪引かないようにな?」
こちらの世界で過ごすことに慣れてき
続きはあとで
-声が枯れるまで-
あちらの世界に行った時は早く戻らなくては、と思っていたけど
こんなにも突然戻るなんて。
目眩がしたと思ったら気付くと自室のベッドに横たわっていた。
畳み掛けの彼女の洗濯物、最後まで畳んであげたかったな、なんてぼんやりと自室の天井を見つめると、点滴のバッグが目に入る。あれ?なんで俺に点滴なんて…
ガチャっとドアが開く音が聞こえたが、首が横に動かない。
カシャ、と義手の音が聞こえたからボスキさんだろう。
目を見開いたボスキさんが慌てたように駆け寄ってきた。
「お前…目が覚めたのか…」
「は…?…っ…ゲホッ…」
声が出なくて思わずむせる。
ボスキさんが言うには俺は3週間ほど眠りから覚めなかったとの事だった。起き上がろうとすると身体が鉛のように重く、声も出しづらいことで、ずっと眠り続けていたという事にも納得せざるを得なかった。
俺が目覚めたことを知って、皆が代わる代わる見舞いに来てくれた。
部屋を見ると、みんなが持ってきてくれた色とりどりの花で囲まれていて、今までとても心配を掛けたんだ、と少し罪悪感が生まれる。
俺が見ていたのは夢、だったのか。彼女は、現実ではなかったのか。でも鮮明に覚えているのはなぜなのか。
彼女と出会って、一緒に過ごした時間がもう戻ることは無いと今と思うと一層寂しさが込上げる。
夢だったとしても…あの生活が自分にとっての幸せだったのだ。
あの人が主様だったら良かったのに。まだこの屋敷に居ない、悪魔執事の主様を勝手に彼女であればいいと思うのはなんとも自分勝手だが、そう願っていたかった。
1ヶ月後、身体が随分動くようになって、今まで出来なかった花の手入れをしようと庭に出たが花鋏を忘れたことに気づいた。
いつまでもあの日々を引きづってか、仕事にいまいち力が入らず周りにも心配されているのもあって、そんな自分に嫌悪すら抱く。
再び自室に戻ると、自分のベッドの上に丁寧に畳まれた服と書き置きが目に入った。恐らく、フルーレだろう。
その書き置きを見た瞬間テーブルを見た。
アモンさんが寝ていた服を洗濯しようとしたらポケットから
読めない字が書いてある紙を見つけました。
テーブルに置いておきます。
それと、シャツの裏側のほつれた所、不格好に直されていましたけど、次からは俺に直させてくださいね。
テーブルの紙を取ると
彼女の世界の、彼女の字で、
なにかが書かれていた。
夢じゃなかった、夢じゃなかったと確信がもてた。
東の国の字だろうか。ハナマルさんなら読めるだろうか。
急いでハナマルさんがいるであろう見張り台へ走った。
「ハナマル…っさん…!!!」
息を切らしながら紙を渡すと、瞬時に察してくれたハナマルさんはこの紙に書いてある言葉を読んでくれた。
「…アモンへ
子供が傷つかない、幸せな世界になるように私もこの世界の子供たちを救えるように頑張るから。君が憧れてくれたヒーローになり続けるから。だから…またいつか会える日まで」
今までぼんやりと思い出すだけだった彼女との思い出が、彼女との日々が、溢れるように鮮明に思い出されていく。
手紙を読み終えるとハナマルさんは俺に戻し、また何かあったら言ってくれ、と見張り台を降りていった。
脳内で、何度も何度も彼女の声で変換される。
いつか、また会える日までって
「いつになるんすか…俺は…俺は…!!」
貴方に会いたくてたまらないのに
声が枯れるまで、彼女の名前を呼べばまた出会えるだろうか。
この屋敷の主人になってくれるだろうか。
溢れるこの想いは、誰に伝えればいいのだろうか。
それならばいっそ…
「夢であれば良かったのに…!!」
--------…
MHA世界軸×aknk
-始まりはいつも-
「おはようございますっす、主様」
『んー…おはよう……アモン……』
いつもスマホから聴こえる声が、今日はなんか…はっきりと聞こえるような…音量の設定いじったっけ…なんて
目を開ける前にぼんやりと思いながらスヌーズを使うのに手探りでスマホを触ろうとすると誰かの手に触れた。
一人暮らしの生活でありえない感触にばっと覚醒してガバッと起き上がると
「うわっ!!…びっくりしたぁ…」
目の前に会いたくて会いたくて仕方がなかった張本人が驚いた顔をして私を見ていた。
…これは夢である。間違いない。だってここは私の部屋だ。
デビルズパレスではない。夢見がちの私だって流石に現実と区別はできる。
『今日はいい日だ…好きな人の夢を見るなんて…』
「…へへっ、主様に好きって言われるなんて、光栄っすね」
すごい、私の脳。本当に画面越しでしか見ていなかった彼が、動いて私の頭を撫でている。
それがなんだか心地よくて、もう片方のアモンの手に触れまたうとうとし始める。
『夢ならもう少しだけ…』
触れたアモンの手をベッドへ引き寄せる。
あ、主様??さっきよりもっと近くで焦ったような声が聞こえた。
すんっと鼻で息を吸うと薔薇の香りがする。
アモンってきっとこんなふうに服も薔薇の香りがするよね。
なんて素敵な夢なのだろう。
『もう少し…一緒に寝ようね、アモン』
アモンの胸に腕を回し、ふたたび意識が朦朧としてくる。
これはいい夢だから、もう少しだけ、もう少しだけ、とアモンの胸に顔を埋めた。
昨日、ベルガモットのアロマを焚いたけど、夢の補正なのか。
また今日も寝る前に同じアロマを焚こう…
「…うーん…夢じゃないんだけどなぁ……困ったっすね…」
再び起きた後、アモンが本当にこちらの世界にいて、
これこそが現実なんだと知るのは、あと数時間後
--------…
aknk
主様がデビルズパレスに来てから1ヶ月。
初めは皆の事が怖かったし、突然の異世界についていけず3日間熱を出したのはいい思い出だ。
今日も指輪をつけてあちらの世界へ向かうと、担当執事であるアモンが出迎えてくれた。
「お帰りなさいませっす、主様」
『ただいま…』
未だにお帰りなさいませ、と言われるのは慣れないが
今日の予定や明日の天気を告げるアモンを見つめていると、
視線に気付いたアモンがきょとんとした顔をする。
「いかがなさいましたっすか?」
『い、いや…なにも…』
見つめすぎたのがバレて少し恥ずかしい。
今から自分がやることについてはバレていないようだ。
冷えた自分の片手を頬にあて、もう片方の手はズボンのポケットに触れる。
今日は…アモンの誕生日だ。
プレゼントは薔薇のネックレス。問題はどう渡すかである。
買ったのはいいが、どうにかして驚かせたい。
「主様?今日は夜、俺の誕生日パーティーが開かれるのでそれまではゆっくり休んでいてくださいっす」
『え!?あ、うん』
思わずこちらが驚く。本人から誕生日パーティーと言われ、サプライズのハードルが一気に上がった。
誕生日パーティーの時に渡せば驚いてくれるかな…なんて考えていたが…
今は日付を越え真夜中の時間帯。
少し前にパーティーは終わったのである。
サプライズしようとしたが、なかなかアモンは人気者だ。
ほかの執事達からのプレゼントや貴族様からも豪華なプレゼントが届いていて、喜ぶアモンの姿を見ていたら
自分のプレゼントが少し恥ずかしくなったのだ。
パーティー会場ではポケットから出せずにいた小さな箱を
-秋晴れ-
からっとした秋の昼下がり、デビルズパレスの庭には色とりどりの落ち葉が地面いっぱいに広がっていた。
いつものように屋敷に来て、窓から外を見ているとノックの音が聞こえた。
返事をすると開くドア。ドアの向こうには本日の担当執事が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、主様。今日は早いお帰りっすね」
『今日はアモンが担当なんだね。よろしく。』
軽い挨拶を交わし、今日の予定についての説明が始まる。
仕事のし過ぎでぼやぼやしている頭に、アモンの声が全く入らず
また窓の外に目を移すと、いち早く私の不調を察したアモンがブランケットを取り出した。
「主様、働きすぎっすよ」
ふわっとブランケットが私を包む。
アモンの匂いがする布に包まれて、思わず笑みがこぼれる。
「なーに笑ってるんすか」
『ふふっ、なんか、癒されるなぁって』
疲れている時は自分の心に素直に。これはアモンやほかの執事たちとの約束事で、習慣づいていた。
私が素直な言葉を言うと、アモンは少し照れたような顔をした。
他愛もない話をしていると、またノックの音が聞こえた。
「失礼いたします。主様、お帰りなさいませ。」
『ハウレス、ただいま。』
「少し、アモンをお借りしてもよろしいでしょうか?」
ハウレスはアモンに用があったようだ。
二つ返事をしてアモンとハウレスを見送ったあと…私はブランケットに包まれたまま布団にダイブした。
日頃のオーバーワークによる眠気が限界だったのである。
アモンの匂いに包まれながら、眠りに落ちてしまったため
私は窓の外の黒い影には全く気づかなかった。
ーーー……様
ーーーるじ様
「主様……」
『……ん……ごめ…寝てた』
いつまで寝てしまったのか、ブランケットに包まりながら起き上がるとアモンが戻ってきていた。
何時か問うと30分も経っていないとのこと。
「起こしてすみませんっす、主様。…今から庭に出ませんか?ご用意しているものがあるっす」
いつもだったら日がどっぷり沈むまで寝かせてくれるアモンが起こすのなんて珍しく、眠い目を擦りながら快く了承した。
外は寒いから、とアモンがマフラーを用意してくれたがブランケットを手放さない私に、嬉しそうにため息をついた。
アモンに連れられ庭に出ると、落ち葉がこんもり山を作っていて、ぱちぱちと音を立てながら綺麗な火をあげていた。
周りにはデビルズパレスの執事たちが勢揃いしていた。
『わ、焚き火!綺麗…』
「喜んでいただけて光栄っす」
「お待ちしておりました、主様」
ベリアンが挨拶をし、後からほかの執事達が続く
みんなの服装も執事服ではなく、オータムカラーのセーターや、シャツ、ジャケットを着ていた。
そういえば、アモンもいつもの執事服ではなくオータムカラーのセーターを着ている。
「主様!今日は焼き芋パーティーっすよ!」
「主様~見てくださ~い!綺麗な紅葉を見つけたんです~!」
「主様、本日も素敵なお姿を拝見できて幸せです」
主様、主様、と次々に執事たちが声をかけてくれて、驚いていると
「皆、主様に会いたかったんすよ」
とアモンが耳打ちしてくれた。
ハウレスが皆を制すると、庭のテラスへ案内される
テーブルには紅茶のセットとまだ湯気が立っている焼き芋が皿に乗せられていた。
「アフタヌーンティーとして少々不格好かと思いますが、焚き火を見ながら是非お楽しみください」
ハウレスがそう言うとベリアンが紅茶を注いでくれた。
お礼を言い、焚き火の方に目をやるとラムリが落ち葉を撒き散らしてナックが怒っていたり、バスティンが軍手をせずに焼き芋を取ろうとしてロノに止められていたり、
ラトとフルーレが焚き火を仲良く見つめていたり、
各々が自由にしてるのを見て、こんな時間がずっと続けばいいのに、なんて思った。
フェネスが追加の落ち葉を持ってきた時につまづいて空にふわっと落ち葉が舞った。
『……綺麗』
「ふふっ…主様、パーティーは楽しんでいただけていますか?」
私の反応を見たベリアンが尋ねる。
『すごく素敵なパーティーだよ。ありがとう。』
「それは良かったです。実はこのパーティーの企画はアモンくんなんです。」
『アモンが?』
てっきり、ロノ辺りかと思っていたけど、アモンが企画したということを聞いて驚いた。
「最近、主様が窓の外を見ることが多いとアモンくんに相談されたんです。」
主様はお疲れですと窓の外をぼんやり眺めることが多いので
と言うベリアン。周りの執事たちも各々自由な行動を取っていたが、気づくとチラチラとこちらの様子を伺っていることに気づく。
確かに疲れていると気づいたら外を見ることが多かったが、みんなそこについて触れてこなかったし、気づかれていないと思っていた。
『気を使わせちゃってごめんね。』
「いいえ、私たちも主様と過ごす時間が息抜きになるので、このような企画を立ててくれたアモンくんに感謝ですね」
ベリアンの視線の先にはボスキの世話を焼いているアモンの姿が見えた。私もそちらを見るとすぐに気付いたアモンはボスキと何かを話してこちらを向き、笑顔で手を振ってくれた。
ボスキは無表情だったが手を振ってくれていて、嬉しくて2人に手を振り返した。
仕事が辛くても、帰る居場所がここにあるんだ、なんて少し肌寒いこと考えながら紅茶を啜る。
ふわっと優しい風が通り、木からまたひらひらと色付いた葉が落ちてくる。ゆったり弧を描くように沢山の葉が落ちる中に彼らが迷い込んだようなそんな光景をみて空を仰いだ
--------......
aknk