ゆんたろす

Open App

-声が枯れるまで-

あちらの世界に行った時は早く戻らなくては、と思っていたけど
こんなにも突然戻るなんて。
目眩がしたと思ったら気付くと自室のベッドに横たわっていた。
畳み掛けの彼女の洗濯物、最後まで畳んであげたかったな、なんてぼんやりと自室の天井を見つめると、点滴のバッグが目に入る。あれ?なんで俺に点滴なんて…
ガチャっとドアが開く音が聞こえたが、首が横に動かない。
カシャ、と義手の音が聞こえたからボスキさんだろう。

目を見開いたボスキさんが慌てたように駆け寄ってきた。
「お前…目が覚めたのか…」
「は…?…っ…ゲホッ…」

声が出なくて思わずむせる。
ボスキさんが言うには俺は3週間ほど眠りから覚めなかったとの事だった。起き上がろうとすると身体が鉛のように重く、声も出しづらいことで、ずっと眠り続けていたという事にも納得せざるを得なかった。
俺が目覚めたことを知って、皆が代わる代わる見舞いに来てくれた。
部屋を見ると、みんなが持ってきてくれた色とりどりの花で囲まれていて、今までとても心配を掛けたんだ、と少し罪悪感が生まれる。
俺が見ていたのは夢、だったのか。彼女は、現実ではなかったのか。でも鮮明に覚えているのはなぜなのか。
彼女と出会って、一緒に過ごした時間がもう戻ることは無いと今と思うと一層寂しさが込上げる。
夢だったとしても…あの生活が自分にとっての幸せだったのだ。
あの人が主様だったら良かったのに。まだこの屋敷に居ない、悪魔執事の主様を勝手に彼女であればいいと思うのはなんとも自分勝手だが、そう願っていたかった。

1ヶ月後、身体が随分動くようになって、今まで出来なかった花の手入れをしようと庭に出たが花鋏を忘れたことに気づいた。
いつまでもあの日々を引きづってか、仕事にいまいち力が入らず周りにも心配されているのもあって、そんな自分に嫌悪すら抱く。
再び自室に戻ると、自分のベッドの上に丁寧に畳まれた服と書き置きが目に入った。恐らく、フルーレだろう。
その書き置きを見た瞬間テーブルを見た。

アモンさんが寝ていた服を洗濯しようとしたらポケットから
読めない字が書いてある紙を見つけました。
テーブルに置いておきます。
それと、シャツの裏側のほつれた所、不格好に直されていましたけど、次からは俺に直させてくださいね。



テーブルの紙を取ると
彼女の世界の、彼女の字で、
なにかが書かれていた。
夢じゃなかった、夢じゃなかったと確信がもてた。
東の国の字だろうか。ハナマルさんなら読めるだろうか。
急いでハナマルさんがいるであろう見張り台へ走った。

「ハナマル…っさん…!!!」

息を切らしながら紙を渡すと、瞬時に察してくれたハナマルさんはこの紙に書いてある言葉を読んでくれた。

「…アモンへ
子供が傷つかない、幸せな世界になるように私もこの世界の子供たちを救えるように頑張るから。君が憧れてくれたヒーローになり続けるから。だから…またいつか会える日まで」

今までぼんやりと思い出すだけだった彼女との思い出が、彼女との日々が、溢れるように鮮明に思い出されていく。
手紙を読み終えるとハナマルさんは俺に戻し、また何かあったら言ってくれ、と見張り台を降りていった。

脳内で、何度も何度も彼女の声で変換される。
いつか、また会える日までって


「いつになるんすか…俺は…俺は…!!」

貴方に会いたくてたまらないのに

声が枯れるまで、彼女の名前を呼べばまた出会えるだろうか。
この屋敷の主人になってくれるだろうか。

溢れるこの想いは、誰に伝えればいいのだろうか。
それならばいっそ…

「夢であれば良かったのに…!!」



--------…
MHA世界軸×aknk
















10/21/2023, 11:18:51 AM