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1/20/2024, 8:09:31 PM

#海の底
 
 
 
 ちいさな人魚の子どもが、尾びれを止めてふり返りました。
 なにか、光った気がしたのです。
 泳ぎよって、そっと拾いあげてみます。
 
 オレンジ色の、丸い石です。
 ほんのり、透きとおっています。
 手のひらにのせると、サラサラします。
 
 この石のことは知っていました。これは
「お日さまのかけら」です。ときどき、海のなかに落ちています。波にとけたお日さまの光が、長い
あいだ海をただよって石になるのだそうです。
 年長の子どもたちのなかには、宝もの入れ
いっぱいにこの石を集めている子もいます。羨まし
くて仕方ありませんでした。自分の巣穴にもどって
くると、人魚の子どもは枕元の砂を掘りおこして、
ちいさな二枚貝の宝箱に、石を大切に しまいまし
た。
 
 つぎの朝。
 人魚の子どもは肩からポシェットをさげると、浅瀬へ泳いでいきました。大人たちに見つからないよう、こっそりと。
 
──ぜったいに、陸へ近づいてはいけません。
 
 人魚の子どもたちは、生まれたときから言い聞か
されます。
 ニンゲンは人魚たちの兄弟です。大昔、陸にあがった人魚たちの尾びれが裂けて、ニンゲンになったのです。けれど、人魚たちとちがって陸の兄弟は
乱暴です。やさしい海に見捨てられて、すべてを呪っているのです。呪いのせいで、陸の上だろうと海の上だろうと、好き勝手に暴れまわるのです。人魚たちはみんなそう信じています。

 それなのに、この子どもの人魚は、かまわず
泳いでいきます。

 ちいさな入り江までくると、ちゃぷんと海から顔を出して、尾びれで水面をぱちゃぱちゃ鳴らしまし
た。砂浜を歩いている影が、顔をあげてふり返りま
した。
 ニンゲンの子どもです。
 人魚の子どもに気づくと、こちらへ両腕を大きくふりました。砂浜からは桟橋が一本、まっすぐのびています。その先端まで歩いてきます。
 泳ぎよった人魚の子どもに、バナナの葉っぱの
帽子を持ちあげて、ニンゲンの男の子がニッと笑い
ました。

 この人魚の子どもだって、やっぱりニンゲンは怖いと思っています。
 でも、この男の子だけはとくべつです。命の恩人
なのです。
 はじめて入り江に迷いこんだときのことです。
ニンゲンの罠にひっかかって、痛くて暴れて泣いていたら、逃がしに来てくれたのです。海に飛び込んで、尾びれにギシギシ噛みついてくる見えない糸を、一本ずつ切ってくれたのです。

 きょうも男の子の足元には、大きなバケツが
置いてあります。
 先端に針のついたニセモノの魚、こわれたビーチ
サンダル、ボロボロのビニール袋、空き瓶空き缶がたくさん、あの恐ろしい透明な糸も、ぐるぐる巻き
で入っています。男の子は『ゴミ』と呼んでいます。『ゴミ』がなんなのか、人魚の子どもには
わかりません。

 人魚の子どもは、肩にさげたポシェットを
あけました。
 いちばん底から、二枚貝の宝箱をとりだします。そのなかの、いちばんの宝ものを、大切につまみ
あげます。
 きのう見つけた、お日さまのかけらです。
 明るい陽の光をあびて、きらきらオレンジ色に
かがやいています。海のなかで見るより、ずっと
鮮やかで、すてきに見えます。
 人魚の子どもはニコニコ笑って、桟橋の端っこで
しゃがんで待っている男の子に石を見せました。
男の子は、人魚の子どものいちばんの友だちです。
人魚の子どもが海から持ってくるものを、いつも
キラキラした目で熱心に眺めてくれます。だから、いちばん最初に教えたかったのです。だって、
「お日さまのかけら」を見つけたのです!

 男の子は、人魚の子どもが嬉しそうにかかげた
オレンジ色の石を見たとたん、凍りつきました。
 だれかの尾びれに引っぱたかれたような、
おかしな顔をしています。
 それから、唇をかみました。悔しそうに、恥ずかしそうに、まっ赤な顔をクシャクシャにしました。
 男の子がなにを言っているのか、人魚の子ども
にはわかりません。陸の言葉は、人魚にはヘンテコ
すぎるのです。
 でも、とても怒っていることはわかります。声がとげとげしています。悲しそうでもあります。
まっすぐな茶色い目に、涙がにじんでいます。
 オレンジ色にかがやくお日さまのかけらを睨みつけて、男の子が言いました。
 
『ゴミ』
 
 バケツを、こちらへ突きだしてきます。
 
『ゴミ』
『ゴミ!』
『ゴミ!!!』
 
 男の子の手が伸びてきて、むりやり石を奪い取ろうとしました。人魚の子どもはあわてて海にもぐりました。
 すこし沖合いの波間から顔をだして、信じられない気持ちで男の子を見つめました。
 追いかけてくる様子はありません。桟橋の端から身を乗りだして、バケツを抱えて、男の子が泣きながら叫んでいます。
 
『ゴミ!!』
『ゴミ!!!』
『ゴミーッ!!!!──────
 
 人魚の子どもはわけがわからず、一目散に海の
底へ逃げ返ってきました。
 こわくて、悲しくて、巣穴にとじこもって
ワアワア泣きました。もう二度と陸へは近づき
ませんでした。

 
 やがて男の子は大人になって、ニンゲンたちの
なかでも、とても偉いニンゲンになりました。
 彼の施策により、海辺の大量のゴミはすっかり姿を消し、捨てられた釣り糸にからまって命を落とす
たくさんの海の生きものたちもいなくなりました。海は少しだけ賑やさを取り戻し、人魚たちは少しだけ、ニンゲンを信じるようになりました。

 おなじ頃、海の底で人魚がひとり、二枚貝の小さ
な宝箱をあけました。
 はるか頭上でかがやく海面に、半透明の石を
すかしました。オレンジ色のやわらかい光を
見上げ、しくしく痛む胸の底から、ちいさな泡を
吐きました。
 
 


 
 
 
 


1/17/2024, 8:50:20 PM

#木枯らし
 
 
 凍えるほど寒い、冬の朝。
 スズメが一羽、庭木で目を覚ましました。
 仲間たちはまだ、同じねぐらにひと固まりに集まって、うとうとしています。けれどこのスズメだけは、朝焼けの空から冷たい風がビュウビュウ吹いてくるのに気づくと、あわてて飛びあがりました。
 スズメが飛んでいったのは、道端の掲示板です。
 掲示板には、すこし色あせたポスターがまばらに
貼られています。その中の一枚に、会いにいったの
です。
 黒いインクで刷られた貼り紙です。
 なにが書いてあるのか、スズメにはわかりませ
ん。
 
──ボクにも、わからないよ。
 
 首をかしげて覗きこんでいるスズメに、貼り紙
が答えました。
 
──どんな役目があるのか。なぜここに貼られたのか。考えていたこともあったよ。ボクはとくべつな
貼り紙なのかもって。けど、貼られちゃったから、ここにいる。それだけさ。けっきょくの
ところ。
 
 さみしそうな声でした。
 よく見ると、他より地味でみすぼらしい感じがします。カラフルなポスターのなかで、この一枚だけ、黒一色だからかもしれません。
 四隅をとめるはずの画鋲も、なぜか三つしかありません。左上がいつもヒラヒラ垂れています。
 自分みたいだと、スズメは思いました。
 スズメも、左の羽がすこし短いのです。ヒナの
ときにケガをして、左側だけうまく育たなかった
のです。
 きのうの夕方も、スズメはこの貼り紙に会いに行きました。明日はきっといい風が吹く、そう
渡り鳥たちが話していたからです。

 かまわないさ、と貼り紙が笑いました。
 けろっとした笑い方でした。胸がざわざわ
しました。
 
──ボクはむしろ、吹き飛ばされてしまいたい。貼られたから、貼りついていただけ。きっとこの掲示板も、すっきりするだろうさ。
 
 明け方の空を、スズメは必死に飛びました。
 強風にあおられて、左の羽がうまく動きません。ちっとも前に進んでいる気がしません。それでも
がむしゃらに羽ばたきました。
 

 スズメが掲示板にたどり着いたのは、すっかり陽がのぼった後でした。
 朝日に照らされた掲示板には、見慣れない空間が
空いています。ひとつだけ残った画鋲に、ちいさな切れ端がヒラヒラしています。黒い印刷のなごりが、ほんのすこし付いています。

 ビュウビュウ、風が吹いています。
 道ゆく人間たちも、散歩中の犬も、ゴミ箱を
ねらうカラスたちも、強い風にちょっと顔をしかめながら、いつもどおりの朝を過ごしています。

 ぽっかりあいた穴に気づいて涙を一粒こぼしたのは、小さなスズメだけでした。
 
 
 
 
 




1/15/2024, 8:10:22 PM

#この世界は
 
 
 
 ピピは、人魚の子どもです。
 海のずっとずっと深く、陽の光のとどかない、
まっ暗な谷底にすんでいます。
 昔は人魚たちも、浅瀬の明るい海にすんでいたのです。けれど、陸の兄弟たちは乱暴で、ひっきりなしに戦争をしていますから、彼らのすむ地上はとうとう毒まみれになり、その毒は海まで流れこんで、人魚たちも浅い海を捨てねばならなくなったのです。

 ピピは目をさますと、巣穴からそっと顔をだしました。
 するりと岩の割れ目をぬけて、しずかに泳ぎだしました。
 ピピがたてる小さな波におどろいて、プランクトンたちが星屑のように光っています。そのまたたきに、薄っぺらいナイフのような小魚たちが食いつきます。その小魚を、猛毒の腕でクラゲがからめとります。そのクラゲを、影のようにしのびよった大魚が丸呑みにします。
 ピピは、この谷底で生まれました。
 わずかな光があれば、暗闇のむこうまで見通せます。プランクトンの光がまぶしいくらいです。尾びれを蹴って、しずかに泳いでいきます。上をめざし
て泳いでいきます。
 やがて、ふしぎなほど明るい光が見えてきま
した。
 ここはまだ、深い深い、海の底です。陽の光はとどかないはずです。けれど巨大なサンゴに守られたその街だけは、海のうえの世界のようにまばゆくかがやいているのです。
 人魚のすむ都です。
 冷たく暗い海の底で、あの場所だけは光でみちています。海藻がたくさん生えます。生きものも
たくさんいます。けれどあの街に住めるのは、ひと握りの強い人魚たちだけです。弱い人魚たちは、海の底のさらに深い谷底に、みじめな巣穴を見つけるしかありません。
 サンゴの壁のむこうから、門番たちがピピをにらみました。
 するどい銛の先が光りました。
 ピピは街に近づきすぎないよう、距離をとって泳いでいきます。
 
 街の光はやがて、闇の底に見えなくなりました。
 ピピは尾びれをとめません。
 首からさげたポシェットがピピのおなかで跳ねています。ポシェットには、小さな貝殻がひとつ、入っています。青く光る、ふしぎな貝殻です。きのうの夜、巣穴の入り口で見つけました。
 貝殻を拾いあげたとたん、古い歌が胸いっぱいにあふれてきました。どこで聞いたか覚えていません。明るい海と、その上にひろがる海面をうたった歌です。海面は青い色をしているらしいのです。この貝殻と、おなじ色です。
 巣穴の奥で、ピピは一晩中、貝殻をながめて
いました。
 そうして、決めました。
 海面を目指すことを。
 光を、見にいくのです。
 
 小さな尾びれで、ピピは泳ぎつづけます。
 ピピの腕はやせ細って、胸にはあばらが浮いています。尾びれはくすんで、ウロコがあちこち剥げ落ちています。もうずっと食事をしていません。お腹いっぱい食べたことが、生まれてから一度もありません。
 海面を見てどうするのか、ピピにはわかりません。ただ、見てみたいのです。人魚たちがしあわせに暮らしていた浅瀬の光を。その光のなかを、ただ泳いでみたいのです。
 気の遠くなる闇を、ピピは上だけを見て泳いでいきます。

 どれだけ泳ぎつづけたのでしょう。
 はるか頭上に、とうとう、ほのかな光が見えてきました。
 ピピの尾びれは、もうボロボロです。
 ひと蹴りするごとに、ズキン、ズキンと、はげしく痛みます。やぶれた隙間から水がたくさん逃げていきます。
 それでもピピは、懸命に尾びれを動かしました。

 きらきらかがやく水面が、すこしずつ、すこしずつ、近づいてきます。

 ふるえる胸から、歌があふれだしてきます。
 争いを知らなかった頃の人魚たちの、のんきでしあわせな愛の歌です。

 明るい青い光が、ぐんぐん、ぐんぐん、近づいてきます。

 嬉しくて、しかたありませんでした。
 それは陸の毒でにごりきった光でしたが、暗闇しか知らないピピの目には、突き刺さるほどまぶしく見えたのです。








1/14/2024, 6:39:23 PM

#どうして

 
 
 
 いまだに、引っかかっている言葉があります。


 
──どうして、どうして、って。子どもじゃ
ないんだから。

 
 
 小さい頃から、どうして、ばかり言って
きました。
 
 どうして眠くなるの?
 どうしてシャンプーは目にしみるの?
 どうして虫はかわいくないの?
 
 あんまりうるさく聞くせいで、ある日、親から図鑑を渡されました。自分で調べなさいと言うのです。適当にあしらわれた気がしました。子ども心に不信感を抱き、大人なのに完璧じゃないんだと失望したのを覚えています。小学校を卒業する頃には、新品だった図鑑はめくり癖がついてボロボロになっていました。
 その後も、どうして、は相変わらずでした。
 
 どうして目が合うんだろう、こっちは窓に映った彼女を見ていて、向こうは窓に映ったわたしを見ているのに?
 どうして「赤」を表す漢字がこんなに色々あるんだろう?
 carrot(ニンジン)は数えられるのに、corn(トウモロコシ)は数えられない?どうして?
 
 どうして、が純粋に好きなのです。
 見つけると、わくわくするのです。とんでもない秘密が隠されているに違いない。解き明かさねば、おちおち寝ていられない。さながらピラミッドを調査する考古学者の気分です。
 社会人になってからは、「どうして」はより実務的になりました。
 
 どうして、この手順をここに挟むんだろう?
 2、3をすっ飛ばしていきなり4では、どうして駄目なんだろう?
 
 これは重要なことだと、わたしは思っています。マニュアルの根本にある意図を理解しておかないと、咄嗟に対応できなくなります。意図さえ把握しておけば、手を抜いてもよい部分と気合いを入れねばならない部分がはっきりします。すべてに満遍なく注力するなど、人並みが精一杯のわたしのような人間には無謀すぎます。

 以前の職場での話です。

 ある日、他部署にまわした書類が突き返されて、小さな騒ぎになったことがありました。同僚の担当していた案件でした。
 書類についていた附箋には「どうして、こうなるのですか?」と、向こうの担当者からの質問が書いてありました。
 ちょうど、こちらの部署でルーチンの一部を変更したばかりでした。はっきり覚えていませんが、業務でミスが発生したため再発防止として書類のフォーマットを一部変更したとか、チェック工程が増えたとか、そんなところでした。
 附箋をつけた彼の疑問を、わからなくもない
とわたしは思ったのですが、同僚たちは違った
ようです。
 他の担当者はなんのトラブルもなく完成させた書類を返してくれた、細かいことに引っかかって
つまずいているのはあなた一人だけだ。それが同僚たちの一致した意見でした。
 彼の評判があまり芳しくなかったのが、不利に働いたように見えました。理屈っぽいところがあるらしく、とにかく面倒くさい厄介な人だと、担当の同僚たちがこぼしていました。
 附箋上のやりとりだけでは納得できなかったので
しょう。
 彼はわざわざ、こちらの部署までやってきました。案件担当者である同僚のデスクでなにやら話し込んだのち、腑に落ちない顔で帰っていきました。その背中を見送って、先輩がぼやきました。
 
「どうして、どうして、って。子どもじゃないんだから」
 
 ひっぱたかれた気分でした。
 自分に言われたような気がしたのです。
 好奇心なんか持ってはいけない、もう大人なんだから、そう、否定された気がしたのです。
 言い返そうか、悩みました。自分よりずっとベテランの、部署のみんなから頼りにされている先輩です。結局、あいまいな苦笑いを返して、なかったことにしてしまいました。

 
 どうして、と考えるのが好きです。
 やっぱり今でも、変わっていません。
 見つけると、わくわくします。隠された理由を探して、すべてを忘れて夢中になります。
 それでも時々、あの言葉が古傷のように
うずきます。
 ズキンと、ほんの少しだけ、悲しくなって
しまいます。
 
 
 
 
 
 

1/9/2024, 12:41:55 PM

#三日月

 
 
 真夜中、家を出た。
 月明かりのなかを歩いていると誰かに出くわした。紺色のシャツの青年だった。
 
「よい月ですね」
「ええ、まん丸ですね」
 
 わたしたちの頭上にはビスケットのようなお月さまが、ぽかっと浮かんでいる。
 
「こんな晩は、あれが聞けそうです」
 
 あれとはなんだろうと首を傾げると、青年がほら、と目配せをする。疑いながら耳を傾けると、たしかに聞こえてきた。
 
 くわっそん
 くわっそん
 
 ちいさな、やわらかい鳴き声だ。
 
 くわっそん
 くわっそん
 
「なんですか、あれは」
 
 クワッソン鳥ですよ、と青年が答えた。
 
「いい声ですね、久しぶりです。今夜はついている」
 
 クワッソン鳥。
 
「あの声を聞くとね、僕は無性に鳴きたくなるんです。でもあんなふうには鳴けません。なんて優雅なんだろう」
「クワッソン鳥とは、なんですか」
「ご存知ないんですか。この辺りではめずらしいですからね、きれいな鳥です。こんがり焼けたきつね色の羽ではばたくのです。ああやって鳴くのはさみしいからです。仲間を呼んでいるんです。だれだって、独りはいやでしょう。鳥だって一緒です」
 
 くわっそん
 くわっそん
 
 しずかな夜の公園に鳥の声が響いている。
 
 くわっそん
 くわっそん

 たしかにどこかもの悲しい感じがする。
 ギャアッと、とつぜん悲鳴がした。
 ああ、いけません、と青年があわててベンチから立ち上がった。
 
「あなたも帰ったほうがいい。奴がきます」
「やつ」
「フィェーフです。急いで」
 
 ふぃえーふとは何だと訊ねると、駆けだそうとしていた青年は驚いてふり返った。
 
「知らない?フィェーフを?ニュースを見ていないのですか。最近はその話で持ちきりですよ、ああ、だめだ。ごらんなさい」
 
 青年が指差した空を見上げると、ビスケットのようなまん丸な月が、真っ黒な影にムシャムシャ食べられていくところだった。どんどん食べられて小さくなって、公園も街も、たちまち深い闇に沈んでしまった。


 目をあけると、家のソファに座っていた。
 窓の外には欠けたビスケットのような、クロワッサンのような月が浮かんでいた。




 



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