優しくしないで
優しさは時に自分自身さえも傷つける。
優しさの種類は多くある。見て見ぬふりも優しさだと思う人、発言することで相手に気づかせてあげる不器用ながらの優しさもある。それらは全て自分の中での最大限の優しさで相手と接し会話を通じて仲を深めてきたのだろう。
海外の方から見ても日本人は律儀であり優しすぎると
評判がいい一方で悪につけ込まれやすい、優しさの過剰売りだと捉える方もいた。
ある人から「貴方の無意識な優しさは私の感情を強く揺さぶる。好意がないなら優しくしないで」
と言われたことがある。
人から嫌われるのを恐れて八方美人と言われた私の心にこの言葉は深く刺さって抜けなかった。
人は誰しも嫌われたくは無いが、自分が好きでもない人にも好意を持ってほしくない。
人間とは実に欲深く、わがままだが1周回ると案外
そうでも無いかもしれない。
素直な人になりたい。でも嫌われたくもない。
その感情は間違ってはないが、時として人を傷つける
ことには変わりない。
自分が思う優しさと世間が求める優しさにズレはあるが少しづつでも歩み寄れたらいい。
ずる賢く、誠実に生きていきたいと心から思う。
隠された手紙
これは私が生前生きていた時の話である。
居心地
「ミルク〜おいで」私の名前を呼ぶ声がした。
声の主は私が大好きな飼い主の声だ。
私は首だけ顔を上げ眠そうに「にゃ〜ん」と答える。
今日の日差しはとてもポカポカしている。
「ゴロゴロ」と喉を鳴らしまた眠りにつく。
こんなに安心できる場所だと最初は思っても
みなかった。
出会い
私はいわゆる捨て猫だ。前の飼い主の管理が悪くほぼ無法地帯状態になっている所に今の飼い主が運良く引取りにきたのだ。
元々身体が弱く他の子達よりも小さかった。
ご飯もろくに食べられず餓死寸前で拾ってくれた飼い主にはとても感謝している。
今ではすっかり丸々なお腹になって逆に動きずらいとも感じる。
ダイエット必要かな、、、
日常
飼い主は毎日が忙しそうだ。青の服に身を包み餌を食べる。そして重たい箱をもって「行ってきます」と出掛けている。
私はその間構って欲しくて飼い主の足に引っ付くがいつも「また後でね」と剥がされてしまう。
私みたいにゆっくりすればいいのにと寝転びながらお得意のゴロゴロと喉を鳴らす。
今日は隣近所の子と久しぶりに会う。
1週間前位に大きな箱に行ったっきり戻ってきていないが最近の情報によると今日戻ってくるようだ。
毛繕いをしいつもの場所に集まる。
報告
「久しぶりね」そう私は声をかけあの子に頭を擦り付けると
「やっと帰ってこれたよ」とあの子も同じ動作をする。
いわゆる人間の挨拶みたいなものだ。
話を聞くとどうやら足の調子が悪く大きな箱の中で
毛がないものに見てもらってたらしい。
「ところでお前さんの方は大丈夫かい?」
「心臓の鼓動が弱いみたいだし」
そう言いながらあの子は労わるように私に毛繕いを
してくれた。
心臓は産まれた時から悪いのを拾われた時の検査で分かっていた。
飼い主は色々手を尽くしてくれていたので痛みは収まったように思えたがここ最近痛みが酷くなっていくのと同時に先は長くないと感ずいていた。
私が精一杯出来る事といえば沢山甘える事だ。
思い
私は飼い主に拾われてから幸せな3年間だった。
元々1年しか生きられない命を色んな人の手を借りて助けてもらった。もう十分すぎるくらいに、、、
飼い主のキラキラした笑顔が大好きでいつも傍にいたかった。
飼い主が悲しい時も寄り添い
飼い主が笑えるようにイタズラを仕掛けたり
1日、1日がとても楽しく大切な日々だった。
私は飼い主が好きなお花を見つけに最後の力を振り絞って出かけた。
その花はハーデンベルギア 可愛らしい紫のお花だ。
隠された手紙の意味
「お母さんミルク見てない?帰ってきてないの」
ミルクを捜索し始めて1週間前
こんなに帰ってこないのは初めての事だった。
なにか事件に巻き込まれてないか心配で夜も眠れずに
探し続けていた。
そんなある日私は塀の上に1本の花が置いてあるのを
見つけた。
「えっ?こんな所に花?」
それは私が大好きなお花でもありミルクが毎回私のためにくれる大切なお花だった。
私は瞬時に分かった。
ミルクからの最後の手紙なのだと。
大粒の雨が頬に流れ落ち止まらなかった。
私は花を握りしめ名前を呟く。
「ミルク、、」
私の想いを全て伝えれるかどうか分からない
でも伝わるように呟く。
「大好きだよ、貴方のこと忘れない」
「これからもずっとずっと一緒だからね」
そよ風が髪を撫でるように優しくふく。
ふと後ろで「にゃ〜ん」と鳴いた気がした。
私は振り返らず「ありがとう」と心の中で思う。
ミルクは私にとってとても大切な事を教えてくれた
そんなミルクの分までしっかり生きようと決意し
その場を後にした。
これはフィクションです。
バイバイ
これはまだ私が幼き頃の話です。
出会い
「わぁ〜可愛いお人形さんだ!」おもちゃコーナーの棚にあるクマのぬいぐるみに目を輝かせている子供は私だ
年長さんを卒業して春から小学校にあがる。
今日はママと一緒に近くのスーパーで買い物をしに来ていた所だ。
もちろんお気に入りである星の髪留めとうさぎさんの
音がなる靴を履いて。
「ママー、これ買って」
お得意の上目遣いでママの方を見るが
「この前もお人形買ったでしょ!返してきなさい」と
怒られてしまった。
「ヤダヤダ、この前の子とは違うもん」と拗ねながら
必死に抵抗する。
それに見兼ねた母が口を開く。
「もうすぐお姉さんになるんでしょ」といいお腹を
さすった。
そう、もうすぐ妹が産まれるのだ。ママとパパはここの所妹が産まれる準備で大忙しで構って貰えないのでいつも部屋の中一人でお人形と遊んでいた。
「お人形独りだと寂しいもん、、、」
「これで最後にするから」と幼いながらに考え、出した答えを母は感じたのだろう。
「分かった。持ってきなさい」と渋々承諾してくれた。
この出会いが私を大きく変えたのは少し先の話である。
母親の使命
「ただいま〜」
今日は久々に長期休暇が取れたので実家に帰省しにきていた。
「おかえり、長旅で疲れたでしょ、ゆっくり休みなさい」
母は歳はそれなりにとったがまだまだ元気そうで安心
した。
ご飯を食べ、母と話しながら思い出話に花を咲かせていた。ふと母が昔私が産まれた時の話をしてくれた。
生まれた時はかなり命が危険な状況だったらしいのを
大人になって初めて聞かされた。
通常赤ん坊の体重は3000gだか私の場合2500未満で緊急を要するため集中治療室の中に入り管で命を繋いでいる状況だった。
そんな状況もあり、親は当たり前だが必要以上に過保護に育ていくしか不安を拭えなかったのだろう。
母は妹を身ごもった時も不安そうな顔をしていた。
私みたいにまたなるのではないかと毎日神様に祈っていたほどだ。
母の不安を考えるも私は到底想像することは難しかった。
寂しくない
家に帰り早速お気に入りのお人形達と先程買ったクマのぬいぐるみを抱えおままごとごっこをした。
「あなたはパパ役ね」
「あなたは犬役」
「私はうーんとそうだお姫様役だった」
そう言うとパタパタと走って行きパパが作ってくれた
お姫様専用のタンスに手をかけた。
中にはカラフルな色のドレスがあり中でもお気に入りであるピンクのプリンセスドレスに着替える。
「あっ、忘れてた」
そう言うとストローとおもちゃの星を自分で組み合わせて作ったものをもちくるんと回ってみせる。
あのクマのぬいぐるみが来てから私は寂しくなかった。
どんな時でもクマのぬいぐるみを連れて歩いたしママにも話せないお話も沢山した。
そのおかげで元々引っ込み思案な私は話せるようになり
いつしか私の中で欠かせない大切な物になっていった。
思い出
アルバムの写真をめくりながらふと1枚の写真に目が
留まる。
その写真にはクマのぬいぐるみを大事そうに抱えて笑顔で写っている私の写真だった。
「懐かしいな、クマのぬいぐるみ!このぬいぐるみ抱き心地良かったんだよね」そう呟くと
ちょうど台所で食器を洗い終わった母が
「そうそうあんたずっとこのぬいぐるみ離さなくて
大変だったんだから」と笑いながら話してくれた。
けじめ
月日は流れついに妹が生まれる日が1週間後に迫ったある日母から妹のおもちゃを選んで欲しいとおもちゃ屋さんに付き合わされた。
幼かった私は母親を妹に取られることが気に入らなかった。特に許せなかったのは何より今までくれていた愛情が得たえのしれないものに向けられるのがたまらなく
ムカついた。
おもちゃコーナーにはアンパンマンのボールやミッキーのぬいぐるみ、積木などがありどれも私が買ってもらっていないものばかりだった。
でも気づいていた、いつかこうなることを、、
お姉ちゃんとして妹を守らなきゃって、、
「このおもちゃ欲しい」
いつもの私ならまっさきにねだっていただろう。
ただ今はいつもの私と違う。
小さな手を握りしめ、母親の目を真っ直ぐに見る。
「ママ、私のおもちゃあげていいよ」
その言葉に母は目を見開く。
「えっ、どうしたの?」
ママは心配そうに私を見る。
もう決めたんだ、お姉ちゃんになるって
心の中で強く思う。
「わたしね、もうすぐお姉ちゃんになるしいらない」
「あのくまのぬいぐるみにバイバイする」
家に帰り、私はおもちゃの部屋に行く。
今まで使っていた沢山のおもちゃを妹の為におもちゃ箱に一つ一つ詰めていく。
アンパンマンのお絵描きボード、プリンセスのかんむり、ピンクのプリンセスドレス、うさぎさんの音のなる靴、木のピアノ、手作りの杖
そして片時も離さなかった大好きなクマのぬいぐるみ
私はクマのぬいぐるみを力ずよくギュッと抱きしめた。
涙がポロポロと床に落ちる、、
「バイバイしたくない。けどお姉ちゃんだもん」
口に出し確認する。
バイバイという言葉で表すにはあまりにも幼い私にとっては辛いものだった。
妹にあげるおもちゃ箱をもって私は母に渡しに行った。
母は今まで通りの優しい笑みで
「ありがとう、〇〇」と抱きしめてくれた。
途端に今まで我慢してたものが溢れる。
私は母に抱きつきながら泣きわめいた。
今まで子供だと思っていた子はいつの間にか私が思っていたよりもとても大きく成長していたと母は語った。
感謝
「そうだ、あんた身体の方は大丈夫かい?」
「男の子だからよくけるでしょ」
母は私のお腹を擦りながら言う。
そう、私はもうすぐ2人目が産まれる。
まだ私には母親として多くは語れない部分はある。
ただひとつ言えるのは1つの別れはとても大きな成長に
繋がるという事そして命を授かるのは奇跡なんだということ。
幼き頃に経験したことで成長できた私は今母親として第2の人生を歩もうとしている。
この子達が巣立つまで母親が私にしてくれた事をこの子達に出来るように大きな心で包み込んであげよう。
そう私は思いお腹にいる我が子の鼓動を手に感じながら微笑ましく笑う。
フィクションです。
旅の途中
後ろを振り返れば道があり、前を向いても道がある。
人間生きていれば立ち止まる時が多くある。
そんな時は思い出して欲しい、今自分が立ってる場所
こそ長い旅に待つ中間地点なんだと言う事を。
人はみな悩みや苦しみを少なからず抱えている。
色んな事情や考え方がある中で世間の正しさに自分の
価値を当てはめようとする。
自分とは何者なのかを考える事ももちろん大切なことだが世間の常識に囚われない柔軟な考え方を持つのも大事なことだ。
学生の自分、社会人の自分、母親、父親としての自分
どれも人生においての一部分でありそこから学べることは山ほどある。あなたはそれをどう活用しますか?
「上を見ればキリがないし下を見てもキリがない」と
言われたことがある。
だが等身大で勝負するほど持ち合わせてない。
そう思ってる人もなかにはいるのは紛れもない事実だ。
そこで考え方を変えてみてほしい。
最初は誰も能力や才能は持ってはいない。
ただ自分が得意な事、好きな事を沢山学んできた。
それがいい、それこそ本来あるべき姿だ。
まだまだ先は長い、どっしりと腰を構えて進んでいくのも悪くない。
遠回りが一番の近道という人もいる。
捉え方は人それぞれだが周りと比べても何も変わらない
まずは行動するのみ。
行動した先に結果は必ず着いてくる。
世間の目を気にする必要はないが、自分が過ごしやすい環境を自ら作っていく事も自分を守る為の手段だと私は思う。
旅の途中でも進むことは出来る。
背中を押す役割が欲しければ私は快く受け入れる。
貴方自身が望むのであれば。
フィクションです。
まだ知らない君
世の中は色んな理不尽な事が溢れている。
例えばの話だが性別、肌の色、国籍が違うだけで軽蔑の眼差しを向けられる事なんてザラにある。
その状況を見て見ぬふりする大人ぶった奴らがゴロゴロいるのも事実だ。
そんな胸糞悪い世界を嘆きながらも俺は周りの大人達と同じように律儀に生きている。
個性
俺の名前はあさひ 今年で中学3年生になる。名前が抽象的なだけにバカにしてくる奴らも一定数いる。
男らしくないだとか女の子っぽいだとか、、
「はぁ、バカバカしい」
そんな奴らの声にイラつきを覚えながら席に着く。
「帰る前に進路希望の紙を配るぞ」
「しっかり親御さんと話すように」
先生の声に不満の声が上がる。
男子生徒「えーー、今かよ」
女子生徒「進路とかまだ考えてないって」
もうそんな時期か、、俺は配られた紙に視線を落とす。
「おれ、可愛いアイドルになりたいな 」
憧れ
ガチャ「ただいま」
あら、おかえりなさい!早かったわね。
そう問いかけながらも忙しそうに料理を作るこの人は俺の母親だ。最近料理にハマり、凝った料理を研究している最中でよく味見をせがんでくる。俺は腹に入れば飯はどれも同じだと思うが、どうやら違うらしい。
「進路希望の紙が配られたけどまだ分かんねぇや」
俺はそう言い残し自分の部屋へと向かう。
「言えるわけない、可愛いアイドルになりたいなんて」
昔から俺は母が思い描く子供を演じてきた。
髪型や服装、習い事など男らしくなる為の物全て。
だか親の期待とは裏腹に俺は可愛いものが大好きになっていった。
ピンクリボンや、ハート型のネックレスそれだけではなくネイルや化粧にも興味があった。それはそれは女友達が認めるほどまでに。
パソコンを広げ何気にアイドル学校を検索する。
写真に映る人達は性別や国籍は違えど個性が光っていて俺の目には輝いて見えた。
明日あいつに意見を聞いてみようかな、、、
偽り
キーンコーンカーンコーンのチャイムとともにいつも通りの学校生活が始まる。
「なあ、進路希望お前はなんて書いた?」
授業後に無邪気に話しかけてくるこいつは俺の友達
のひかるだ。俺の性格とは正反対で意外にも女子受けはいい方だと聞く。
あいつの問いに準備してた答えとは違う言葉を発する。
「まだ何も決めてねぇわ、イメージ湧かんし」
あいつは俺もと笑いながら答える。
また言えなかった。でも俺が話すことでいつも通りの
日常が壊れるのが俺にとっては何よりも1番怖かった。
そう、これでいいんだ、、、
本心
あれから数日たちクラス全体が進路について本格的に動き始める時期に入った。
授業時間は午前中のみになり休み時間や放課後は机に向かい受験勉強に励む生徒や塾に通いだす生徒も見えた。
そんな中俺は未だに進路の紙は白紙のまんまだ。
成績は上の中で将来は無難にいける大学を親は強く
進めていた。
夢と現実の狭間に揺れ動かされ俺の心は既に限界を迎えようとしていた。
その夜、俺は意を決してひかるに電話をかけた。
「夜遅くにすまん、進路の事でお前に相談がある」
俺は不安な気持ちを押し殺しながらあいつの言葉を待つ
「いや、実話さ、俺もお前に話しておきたい事がある」
意外な言葉に俺は戸惑ったがあいつなりの考えがあると思い口をつぐんだ。
「実はさ、俺ネイリストになりたいんだ」
「その為にネイルの専門学校に行こうと思うんだ」
予想外の言葉に思考が停止する。
「えっ?お前、、、、本気か?」
言いたいことは山ほどあるが上手く言葉が出てこず、
しどろもどろになりながら言葉の意味を理解する。
「もちろん本気だよ、今まで黙っててごめん」
「ネイリストなんて女がするもんだと思ってる奴らも
少なからずいる。ただ俺は自分の行きたい道を進むって決めたんだ。」力ずよく放つ言葉に俺は唖然としながらも何かが腑に落ちた気がした。
今まで隠してて出て来させなかった知らない君、固定概念に囚われて身動きが取れず苦しんでた君、 もう1人の知らなかった自分がその瞬間認められた気がした。
「ありがとう、ひかる」
思わず口に出す俺にあいつは戸惑いながら答える。
「お前だから話してみたんだ」
「きっとバカにせず聞いてくれるだろ」
その言葉に俺は思わず溢れ出る感情を抑えきれなかった
異なる感覚を認めてもいいんだ、そう思えた気がした。
キッカケ
続いては今話題沸騰中のネイリストをご紹介します。
「carさんです」インタビュアの人が紹介するのを
画面越しに私はみる。
和やかに始まるインタビューを聞きながら私はヘアメイクをセットしてもらいお客さんが待つ会場に向かう。
今日の衣装はいつもと違いピンクのきらびやかなリボンが満遍なく散りばめてある衣装に身を包む。
この衣装は母がアイドルなりたての時に一番最初に
手作りで仕上げた大切な物だ。
「本番まで10秒前」
スタッフの声がステージ裏に音響する。
「きゃー、早く会いたい!!ドキドキする」
「新曲も楽しみだわ」
「あの声も仕草も虜になる」
「私もあの子の様なアイドルになりたい」
私のステージを楽しみに来てくれてるファンの声が
聞こえる。
「5秒前」
私は深呼吸をして、マイクをONにする。
今回の楽曲「まだ知らない君」は今の私から世間の目に怯えて将来に悩む子達に送りたい曲。
自分の可能性を信じて夢を諦めずにここまで辿り着いた私のように、、、
この物語はフィクションです。