時雨

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1/29/2025, 12:25:39 PM

日陰

「苛立ち」
俺の名前は創太(そうた)。ごく普通の高校3年生だ。
俺の作品を高く評価する人は腐るほどいるがみんな口を揃えて薄っぺらな感想しか言わない。

俺は美術館が嫌いだ、正確には絵のことを何も知らないやつが大っ嫌いだ。

「ねぇ、あの作品素敵よね!観ているうちに何だか心が落ち着く感覚がするの」

「確かに、あっ!この人知ってる。確かうちの高校の
美術部の人よね」

楽しげに作品を見て回る女子高生を横目に僕は苛立ちを覚えながらそそくさとその場を去った。


家に帰ると締切まじかの作品に取り掛かる。
今回のテーマは「日陰」か、、
一瞬あいつの顔が脳裏によぎる。
「くそっ、今更なんだよ」
苛立ちでペンを握る力が1層強まる。
「時間がねぇっていうのにこの作品さえ出来れば、、」



「繊細」
俺には幼馴染の光太(こうた)がいる。そいつとは生まれた時から仲がいい。というのも親同士が仲良いのもあり、お互いの親が忙しい時には泊まりに行く仲だ。

小、中、高校も同じで部活も美的センスを買われ美術部に入部。
違うクラスだが、お互い群を抜いて表彰は数しれず。
競い合ってきた中だがライバルでもあり親友だ。

光太の絵は悔しいがとても心を掴まれる。繊細ながらも目を引きつける色合い、感覚、一筆一筆がまるで自我を持ってるような美しさがあり思わず吸い込まれそうだ。

俺の作品も光太は「俺には真似出来ないよ」というが
真似しようと思えばいくらでもかける。
歪んだ感情に失笑を覚えながらも一瞬一瞬をあいつと
大切に過ごしていた。


「決断」
もうすぐ美術部員にとって一生に一度の大きな大会が
ある。
それは絵画コンクールだ。各地方の代表者1名が課題に
沿った作品を持っていき評価を競うものだ。

もちろん候補には俺と光太が選抜され1週間後に控える
予選選考の作品を作らなければならなかった。
テーマは「日向」
単純だが個性や感性を問われるテーマだ。さらに日陰の次に難しいと言われる作品でもあり幾つもの作品を表彰台に上げてきた俺たちにとっても最難関だ。


その夜珍しく光太から作品についての相談の電話がかかってきた。

「もしもし」
「もしもし」
「珍しいな、お前から相談なんて」
「そうか?俺はいつも通りだけど」
「もしかして今回はさすがのお前でもビビってんのか」
光太の様子がおかしかったのを察し冗談交じりに話す。
「かもな」
珍しく素直な光太の声を聞き不信感が襲う。
「なぁ、ほんとにお前大丈夫か?」
「なあ創太今からいつもの公園に来れるか」
「えっ、あぁ、わかった」
突然の誘いに混乱しながらもいつもの公園に向かう。

いつもの公園って行っても砂場しかない質素な公園だが俺たちにとっては思い出深いものがある。

「ごめんな、呼び出して」
深刻そうな表情で謝る光太に俺はなんて返していいかわからず答える。
「まあ、びっくりはしたけど明日は休みだし別に、、
それにずっと美術室にこもってもアイデアとか
浮かばねって笑笑」
明るく振る舞う俺に光太は少し笑顔になったがまたすぐに暗い表情になる。
少しの間沈黙になる。
「俺さ」
重々しく口を開く光太を俺は横目に見る。
「今回のコンクール辞退しようと思う」
当然の言葉に息が詰まる。
「はっ?何でだよ、」
「まだ予選にも出てねぇだろ!!逃げるのかよ」
苛立ちのあまり声がはる。
光太は淡々と言葉を繋げる。
「俺もう手が動かねぇんだ、、」
俺は状況が理解出来ず光太をみる。
「どういうことだよ、、説明しろよ」
それから光太から発せられた言葉は今でも鮮明に覚えている。
高校1年の時に突然発症した事。病名は手根管症候群。
それから期待が重すぎて既に苦しんでいたこと。
昔から一緒にいる俺が知らなかった光太だった。
「何で何も教えてくれねぇんだよ」
悔しさのあまり唇を噛みすぎて口の中に血の味がした。
もっと早く気づけていれば、、そう考えても現実は変わらない。
気づけば俺は走り出していた。光太を公園に残していったまま。あの時の光太はどんな顔をしてたかは想像が
つくが思い出したくもない、、
きっといつも通りの優しい顔で俺を見てくるはずだ。



「壊れ」
あの日以降光太を俺は避けるようになった。俺は使命感からか放課後は毎日美術室に籠り作品に無我夢中で取り掛かり、休日も家にこもり作品と向き合った。
あいつを忘れるために。
一方光太は日に日に手が動かくなりついには美術部を辞めた。それと同時に治療に専念するため学校を辞めた。


それから月日が流れ絵画コンクールまで残り1ヶ月を切った。
俺は最後の仕上げに取り掛かる。太いペンを持ち一筆一筆丁寧に書く。

でも何かが足りない。
心の中で俺に呼びかけてくる奴がいるのを無視して作品に取り掛かる。

朝から作品に取り掛かって12時間以上が経過した。

「ふぅ、あと少しだ」

自画自賛ではあるが俺の作品は個性的ではある。
しかし芸術的でとても力強く一筆一筆が重い作品だ。
「誰にも越えさせない」
あいつが美術を捨てたあの日強く俺は胸に誓った。

ご飯を食べ気分転換に夜風を浴びに外に出る。
今日の風は冷たくあの頃と同じだ。
ふと隣の家に目を配る、、あいつの家だ。

「今は出掛けてるだろうか、いや、どうでもいい」

変な感情に苛立ちを覚え家に戻ろうと取っ手に手をかける。その時、、、


「気づき」

「よぉ、元気」
聞き覚えのある声だが心が痛む
「タイミング悪すぎだろ、、」
溜息をつきながら声をする方を向く。
「お前も出掛けてたのか?」
あの出来事が無かったかのように話しかけてくるあいつに苛立ちを覚えながら答える。
「いや、気分転換に、、ちょっとな」
「まあいいや、久々に付き合えよ」
そう言いながらあいつは大きな買い物袋を抱えあの頃のように笑う。
その笑顔に罪悪感を覚えながら付き合うことにした。
「どこに行くんだよ」
そうぶっきらぼうにおれは答えるとあいつは
「そりゃいつもの公園だろ!行こうぜ」
と先を歩く。
距離はあるがその距離感が今はちょうど良かった。

いつもの公園に着くとあいつは
「ほらよ、お前これ好きだったろ」
と呑気に飲み物までくれるお人好しさだ。
「ありがとう、てかお前今日の夜は家1人なのか?」
俺は気まずさに思っても無いことを口走る。
「えっ!?おぉ、、」
あいつもびっくりしたようでモゴモゴ答える。
少しの沈黙の後、、、あいつが
「あの時はごめん」
「ずっと謝りたかった、無責任なことをしてごめん」
その言葉に偽りはなく真っ直ぐな目をして俺を見る。
おれも謝りたかった。ずっと心の引っ掛かりがあった。見て見ぬふりをした。
「おれも、、あの時は酷いこと言った、、、すまん」
「逃げずに戦ってきたお前に気づけなかったし
何もしてやれなくて悔しかった」
素直な気持ちが涙と一緒に出てくる。
そんな俺を光太は静かに抱きしめ
「やっと聞けた、、お前の本心」
と笑う。
その言葉は震えていたが確かにおれと光太の溝が埋まってる気がした。


「日向」
次の日の朝俺は美術部の顧問に頭を下げこの作品の作り直しをお願いしに行った。
顧問はもちろん憤慨だったが俺は強い意志で伝えた。

「一緒にこの作品を作りたい奴がいます」

光太「なあこの角度おかしくないか?なんか物足りないというか」

創太「はぁ!俺の美曲にケチつけるのかよ」

光太「ケチというか意見だよ」

創太「はいはいお前の方が優秀ですもんね」

光太「はぁ、なんでそうなるかな」

いつもの日常が戻ってきた。
あいつは学校はやめたが、ちょくちょく遊びに来れる
許可が降りた。
手は相変わらず動かないがあいつなりに美に対して向き合っていて俺は嬉しくなった。

そして月日は流れコンクール当日。
一緒に作った最高の作品を運びながら光太は俺に
問いかける。
「なんで創太の作品を作り直すんだよ」
「俺創太の前の作品の方が好きだったのに」
不貞腐れたような顔をしながら納得がいかない光太に
俺は可笑しくもなりながら答える。
「未完成じゃ作品にならないだろ」
俺の言葉に光太は難しそうな顔して
「どこが未完成だよ」
と答えたがあいつが俺の言葉を理解するにはまだ先の話のようだ。



「日陰」

「この作品残念だったわね、特別賞だって」
「私はこの作品好きなんだけどな〜」
「まあ所々に線が歪んでちゃね」

3人の婦人たちの会話を聞きながら俺と光太は
顔を見合せ笑う。

この価値を分かってるのは俺たちだけでいい。
そう思えた作品だった。
他の人達には到底知ることの出来ない物語がぎっしりと詰まっている。

この作品には俺の名前のみあるが、この作品の裏には
もう1人、、俺の1番大事な奴が関わってる。

この事実は変えられないし例え周りに理解されなくても良いと思えるほど濃い日々だった。

そんな俺の人生を変えた唯一無二の作品名


それは「日陰」



ここまで読んでくださりありがとうございます。

これはフィクションです。

高校生の厚い友情を初心者ながら書いてみました。


貴方の日陰に光が差し込みますように

では、、、

1/29/2025, 9:19:02 AM

「貴方の帽子」
咲かぬ花
横たわる冷たい花。
傍には古くなってボロボロになっている。
貴方のお気に入りの帽子がある。
「ふふっ、懐かしい」伏し目がちに貴方を見る。
けれども返事はかえってこない。
代わりに和やかな風が耳を撫でる。
「今日もいい天気よ。こんな日は帽子を被って
外にお出掛けしたいわね」
「・・・・・・・・・」
「ねぇ、覚えているかしら?貴方に初めて手編みで帽子をあげた時の事、普段のぶっきらぼうな顔じゃ想像つかないくらい無邪気な子供のような笑みで喜んでくれたわね」貴方との思い出をページをめくるように思い出す。
途端に大粒の雨が頬を流れる。
「なんで、先に、、、」

戸惑い
ごく普通の日常、ごく普段の会話特に何も変わらない
いつも通りの日常に訪れた突然の出来事。
その日の私達はいつも通り健康診断に行くために病院を訪れていた。
レントゲン、血液検査など検査を済ます。
「今回の血糖値上がりすぎよ貴方、お酒も程々にっていつも言ってるのに、はぁ、、」
「ちょっとばかし会社の話で盛りあがり過ぎてな、次は気をつけるわぃガッハッハッ」
たわいもない話をしながら待合室で待っていると
先生に呼ばれた。
普段はそのまま会計を済まし病院を出るが、この日は
先生や看護師の顔が少し曇ってみえたが気のせいかと
思い診察室に入る。
診察室に入ると先生が重い口を開く。
「あの、突然の事で驚かれるとは思いますが、旦那さんの血液検査の結果、癌が見つかりました。」
「えっ、、」
突然の事で頭が混乱する。
「癌って、どうして、、」
普段から食生活がみだれてるわけでもない、不規則な生活をしているわけでもない。ただお酒の量が人よりも多かっただけだ。と自分に言い聞かせる。
そんな様子を見兼ねた先生が口を開く。
「癌は治療すれば治りますが旦那さんの場合ステージ4でしてかなり進行してしまっており治療は難しいかと、、我々もできる限り最善を尽くします。」

それから私たちには想像を絶する生活を余儀なくされた
抗がん剤の強い副作用による嘔吐や脱毛
大好きなお酒も飲めず食べれるのは味のないお粥
貴方はみるみるやせ細っていきやがて管を通しての栄養しか取れない状態になっていった。
それでも右手には必ず私が編んだ帽子を握りしめていたのを亡くなる直前に看護師さんに聞いたときは声が枯れるまで泣いた。
日常が壊されたあの日の出来事は今だ心に深い爪痕を
残していった。


貴方の帽子
月日が流れ、今日は貴方の墓参りに行く。
コスモス色のワンピースに身を包み頭には私が編んだ
貴方の大切な帽子を被り向かう。

今まで貴方がくれた大切な宝物を抱きしめて、、



ここまで読んでくださりありがとうございます。

詩を書くつもりが小説みたくなってしまいました笑

実は言うとこの物語はフィクションでもあり1部は実話を交えて書かせて頂きました。

少し表現がおかしいところもあると思いますが暖かく
見守ってくれると嬉しいです。



また読んでくださった皆様の元に素敵な作品を届くようにゆったり更新しながら書いていこうと思います。



では、、、