まだ知らない君
世の中は色んな理不尽な事が溢れている。
例えばの話だが性別、肌の色、国籍が違うだけで軽蔑の眼差しを向けられる事なんてザラにある。
その状況を見て見ぬふりする大人ぶった奴らがゴロゴロいるのも事実だ。
そんな胸糞悪い世界を嘆きながらも俺は周りの大人達と同じように律儀に生きている。
個性
俺の名前はあさひ 今年で中学3年生になる。名前が抽象的なだけにバカにしてくる奴らも一定数いる。
男らしくないだとか女の子っぽいだとか、、
「はぁ、バカバカしい」
そんな奴らの声にイラつきを覚えながら席に着く。
「帰る前に進路希望の紙を配るぞ」
「しっかり親御さんと話すように」
先生の声に不満の声が上がる。
男子生徒「えーー、今かよ」
女子生徒「進路とかまだ考えてないって」
もうそんな時期か、、俺は配られた紙に視線を落とす。
「おれ、可愛いアイドルになりたいな 」
憧れ
ガチャ「ただいま」
あら、おかえりなさい!早かったわね。
そう問いかけながらも忙しそうに料理を作るこの人は俺の母親だ。最近料理にハマり、凝った料理を研究している最中でよく味見をせがんでくる。俺は腹に入れば飯はどれも同じだと思うが、どうやら違うらしい。
「進路希望の紙が配られたけどまだ分かんねぇや」
俺はそう言い残し自分の部屋へと向かう。
「言えるわけない、可愛いアイドルになりたいなんて」
昔から俺は母が思い描く子供を演じてきた。
髪型や服装、習い事など男らしくなる為の物全て。
だか親の期待とは裏腹に俺は可愛いものが大好きになっていった。
ピンクリボンや、ハート型のネックレスそれだけではなくネイルや化粧にも興味があった。それはそれは女友達が認めるほどまでに。
パソコンを広げ何気にアイドル学校を検索する。
写真に映る人達は性別や国籍は違えど個性が光っていて俺の目には輝いて見えた。
明日あいつに意見を聞いてみようかな、、、
偽り
キーンコーンカーンコーンのチャイムとともにいつも通りの学校生活が始まる。
「なあ、進路希望お前はなんて書いた?」
授業後に無邪気に話しかけてくるこいつは俺の友達
のひかるだ。俺の性格とは正反対で意外にも女子受けはいい方だと聞く。
あいつの問いに準備してた答えとは違う言葉を発する。
「まだ何も決めてねぇわ、イメージ湧かんし」
あいつは俺もと笑いながら答える。
また言えなかった。でも俺が話すことでいつも通りの
日常が壊れるのが俺にとっては何よりも1番怖かった。
そう、これでいいんだ、、、
本心
あれから数日たちクラス全体が進路について本格的に動き始める時期に入った。
授業時間は午前中のみになり休み時間や放課後は机に向かい受験勉強に励む生徒や塾に通いだす生徒も見えた。
そんな中俺は未だに進路の紙は白紙のまんまだ。
成績は上の中で将来は無難にいける大学を親は強く
進めていた。
夢と現実の狭間に揺れ動かされ俺の心は既に限界を迎えようとしていた。
その夜、俺は意を決してひかるに電話をかけた。
「夜遅くにすまん、進路の事でお前に相談がある」
俺は不安な気持ちを押し殺しながらあいつの言葉を待つ
「いや、実話さ、俺もお前に話しておきたい事がある」
意外な言葉に俺は戸惑ったがあいつなりの考えがあると思い口をつぐんだ。
「実はさ、俺ネイリストになりたいんだ」
「その為にネイルの専門学校に行こうと思うんだ」
予想外の言葉に思考が停止する。
「えっ?お前、、、、本気か?」
言いたいことは山ほどあるが上手く言葉が出てこず、
しどろもどろになりながら言葉の意味を理解する。
「もちろん本気だよ、今まで黙っててごめん」
「ネイリストなんて女がするもんだと思ってる奴らも
少なからずいる。ただ俺は自分の行きたい道を進むって決めたんだ。」力ずよく放つ言葉に俺は唖然としながらも何かが腑に落ちた気がした。
今まで隠してて出て来させなかった知らない君、固定概念に囚われて身動きが取れず苦しんでた君、 もう1人の知らなかった自分がその瞬間認められた気がした。
「ありがとう、ひかる」
思わず口に出す俺にあいつは戸惑いながら答える。
「お前だから話してみたんだ」
「きっとバカにせず聞いてくれるだろ」
その言葉に俺は思わず溢れ出る感情を抑えきれなかった
異なる感覚を認めてもいいんだ、そう思えた気がした。
キッカケ
続いては今話題沸騰中のネイリストをご紹介します。
「carさんです」インタビュアの人が紹介するのを
画面越しに私はみる。
和やかに始まるインタビューを聞きながら私はヘアメイクをセットしてもらいお客さんが待つ会場に向かう。
今日の衣装はいつもと違いピンクのきらびやかなリボンが満遍なく散りばめてある衣装に身を包む。
この衣装は母がアイドルなりたての時に一番最初に
手作りで仕上げた大切な物だ。
「本番まで10秒前」
スタッフの声がステージ裏に音響する。
「きゃー、早く会いたい!!ドキドキする」
「新曲も楽しみだわ」
「あの声も仕草も虜になる」
「私もあの子の様なアイドルになりたい」
私のステージを楽しみに来てくれてるファンの声が
聞こえる。
「5秒前」
私は深呼吸をして、マイクをONにする。
今回の楽曲「まだ知らない君」は今の私から世間の目に怯えて将来に悩む子達に送りたい曲。
自分の可能性を信じて夢を諦めずにここまで辿り着いた私のように、、、
この物語はフィクションです。
1/30/2025, 2:48:41 PM