時雨

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隠された手紙

これは私が生前生きていた時の話である。

居心地
「ミルク〜おいで」私の名前を呼ぶ声がした。
声の主は私が大好きな飼い主の声だ。
私は首だけ顔を上げ眠そうに「にゃ〜ん」と答える。
今日の日差しはとてもポカポカしている。
「ゴロゴロ」と喉を鳴らしまた眠りにつく。
こんなに安心できる場所だと最初は思っても
みなかった。

出会い
私はいわゆる捨て猫だ。前の飼い主の管理が悪くほぼ無法地帯状態になっている所に今の飼い主が運良く引取りにきたのだ。
元々身体が弱く他の子達よりも小さかった。
ご飯もろくに食べられず餓死寸前で拾ってくれた飼い主にはとても感謝している。
今ではすっかり丸々なお腹になって逆に動きずらいとも感じる。
ダイエット必要かな、、、

日常
飼い主は毎日が忙しそうだ。青の服に身を包み餌を食べる。そして重たい箱をもって「行ってきます」と出掛けている。
私はその間構って欲しくて飼い主の足に引っ付くがいつも「また後でね」と剥がされてしまう。
私みたいにゆっくりすればいいのにと寝転びながらお得意のゴロゴロと喉を鳴らす。
今日は隣近所の子と久しぶりに会う。
1週間前位に大きな箱に行ったっきり戻ってきていないが最近の情報によると今日戻ってくるようだ。
毛繕いをしいつもの場所に集まる。


報告
「久しぶりね」そう私は声をかけあの子に頭を擦り付けると
「やっと帰ってこれたよ」とあの子も同じ動作をする。
いわゆる人間の挨拶みたいなものだ。
話を聞くとどうやら足の調子が悪く大きな箱の中で
毛がないものに見てもらってたらしい。
「ところでお前さんの方は大丈夫かい?」
「心臓の鼓動が弱いみたいだし」
そう言いながらあの子は労わるように私に毛繕いを
してくれた。
心臓は産まれた時から悪いのを拾われた時の検査で分かっていた。
飼い主は色々手を尽くしてくれていたので痛みは収まったように思えたがここ最近痛みが酷くなっていくのと同時に先は長くないと感ずいていた。
私が精一杯出来る事といえば沢山甘える事だ。


思い
私は飼い主に拾われてから幸せな3年間だった。
元々1年しか生きられない命を色んな人の手を借りて助けてもらった。もう十分すぎるくらいに、、、
飼い主のキラキラした笑顔が大好きでいつも傍にいたかった。
飼い主が悲しい時も寄り添い
飼い主が笑えるようにイタズラを仕掛けたり
1日、1日がとても楽しく大切な日々だった。
私は飼い主が好きなお花を見つけに最後の力を振り絞って出かけた。
その花はハーデンベルギア 可愛らしい紫のお花だ。


隠された手紙の意味
「お母さんミルク見てない?帰ってきてないの」
ミルクを捜索し始めて1週間前
こんなに帰ってこないのは初めての事だった。
なにか事件に巻き込まれてないか心配で夜も眠れずに
探し続けていた。
そんなある日私は塀の上に1本の花が置いてあるのを
見つけた。
「えっ?こんな所に花?」
それは私が大好きなお花でもありミルクが毎回私のためにくれる大切なお花だった。
私は瞬時に分かった。
ミルクからの最後の手紙なのだと。
大粒の雨が頬に流れ落ち止まらなかった。
私は花を握りしめ名前を呟く。
「ミルク、、」
私の想いを全て伝えれるかどうか分からない
でも伝わるように呟く。
「大好きだよ、貴方のこと忘れない」
「これからもずっとずっと一緒だからね」
そよ風が髪を撫でるように優しくふく。
ふと後ろで「にゃ〜ん」と鳴いた気がした。
私は振り返らず「ありがとう」と心の中で思う。

ミルクは私にとってとても大切な事を教えてくれた
そんなミルクの分までしっかり生きようと決意し
その場を後にした。

これはフィクションです。



2/2/2025, 1:45:49 PM