バイバイ
これはまだ私が幼き頃の話です。
出会い
「わぁ〜可愛いお人形さんだ!」おもちゃコーナーの棚にあるクマのぬいぐるみに目を輝かせている子供は私だ
年長さんを卒業して春から小学校にあがる。
今日はママと一緒に近くのスーパーで買い物をしに来ていた所だ。
もちろんお気に入りである星の髪留めとうさぎさんの
音がなる靴を履いて。
「ママー、これ買って」
お得意の上目遣いでママの方を見るが
「この前もお人形買ったでしょ!返してきなさい」と
怒られてしまった。
「ヤダヤダ、この前の子とは違うもん」と拗ねながら
必死に抵抗する。
それに見兼ねた母が口を開く。
「もうすぐお姉さんになるんでしょ」といいお腹を
さすった。
そう、もうすぐ妹が産まれるのだ。ママとパパはここの所妹が産まれる準備で大忙しで構って貰えないのでいつも部屋の中一人でお人形と遊んでいた。
「お人形独りだと寂しいもん、、、」
「これで最後にするから」と幼いながらに考え、出した答えを母は感じたのだろう。
「分かった。持ってきなさい」と渋々承諾してくれた。
この出会いが私を大きく変えたのは少し先の話である。
母親の使命
「ただいま〜」
今日は久々に長期休暇が取れたので実家に帰省しにきていた。
「おかえり、長旅で疲れたでしょ、ゆっくり休みなさい」
母は歳はそれなりにとったがまだまだ元気そうで安心
した。
ご飯を食べ、母と話しながら思い出話に花を咲かせていた。ふと母が昔私が産まれた時の話をしてくれた。
生まれた時はかなり命が危険な状況だったらしいのを
大人になって初めて聞かされた。
通常赤ん坊の体重は3000gだか私の場合2500未満で緊急を要するため集中治療室の中に入り管で命を繋いでいる状況だった。
そんな状況もあり、親は当たり前だが必要以上に過保護に育ていくしか不安を拭えなかったのだろう。
母は妹を身ごもった時も不安そうな顔をしていた。
私みたいにまたなるのではないかと毎日神様に祈っていたほどだ。
母の不安を考えるも私は到底想像することは難しかった。
寂しくない
家に帰り早速お気に入りのお人形達と先程買ったクマのぬいぐるみを抱えおままごとごっこをした。
「あなたはパパ役ね」
「あなたは犬役」
「私はうーんとそうだお姫様役だった」
そう言うとパタパタと走って行きパパが作ってくれた
お姫様専用のタンスに手をかけた。
中にはカラフルな色のドレスがあり中でもお気に入りであるピンクのプリンセスドレスに着替える。
「あっ、忘れてた」
そう言うとストローとおもちゃの星を自分で組み合わせて作ったものをもちくるんと回ってみせる。
あのクマのぬいぐるみが来てから私は寂しくなかった。
どんな時でもクマのぬいぐるみを連れて歩いたしママにも話せないお話も沢山した。
そのおかげで元々引っ込み思案な私は話せるようになり
いつしか私の中で欠かせない大切な物になっていった。
思い出
アルバムの写真をめくりながらふと1枚の写真に目が
留まる。
その写真にはクマのぬいぐるみを大事そうに抱えて笑顔で写っている私の写真だった。
「懐かしいな、クマのぬいぐるみ!このぬいぐるみ抱き心地良かったんだよね」そう呟くと
ちょうど台所で食器を洗い終わった母が
「そうそうあんたずっとこのぬいぐるみ離さなくて
大変だったんだから」と笑いながら話してくれた。
けじめ
月日は流れついに妹が生まれる日が1週間後に迫ったある日母から妹のおもちゃを選んで欲しいとおもちゃ屋さんに付き合わされた。
幼かった私は母親を妹に取られることが気に入らなかった。特に許せなかったのは何より今までくれていた愛情が得たえのしれないものに向けられるのがたまらなく
ムカついた。
おもちゃコーナーにはアンパンマンのボールやミッキーのぬいぐるみ、積木などがありどれも私が買ってもらっていないものばかりだった。
でも気づいていた、いつかこうなることを、、
お姉ちゃんとして妹を守らなきゃって、、
「このおもちゃ欲しい」
いつもの私ならまっさきにねだっていただろう。
ただ今はいつもの私と違う。
小さな手を握りしめ、母親の目を真っ直ぐに見る。
「ママ、私のおもちゃあげていいよ」
その言葉に母は目を見開く。
「えっ、どうしたの?」
ママは心配そうに私を見る。
もう決めたんだ、お姉ちゃんになるって
心の中で強く思う。
「わたしね、もうすぐお姉ちゃんになるしいらない」
「あのくまのぬいぐるみにバイバイする」
家に帰り、私はおもちゃの部屋に行く。
今まで使っていた沢山のおもちゃを妹の為におもちゃ箱に一つ一つ詰めていく。
アンパンマンのお絵描きボード、プリンセスのかんむり、ピンクのプリンセスドレス、うさぎさんの音のなる靴、木のピアノ、手作りの杖
そして片時も離さなかった大好きなクマのぬいぐるみ
私はクマのぬいぐるみを力ずよくギュッと抱きしめた。
涙がポロポロと床に落ちる、、
「バイバイしたくない。けどお姉ちゃんだもん」
口に出し確認する。
バイバイという言葉で表すにはあまりにも幼い私にとっては辛いものだった。
妹にあげるおもちゃ箱をもって私は母に渡しに行った。
母は今まで通りの優しい笑みで
「ありがとう、〇〇」と抱きしめてくれた。
途端に今まで我慢してたものが溢れる。
私は母に抱きつきながら泣きわめいた。
今まで子供だと思っていた子はいつの間にか私が思っていたよりもとても大きく成長していたと母は語った。
感謝
「そうだ、あんた身体の方は大丈夫かい?」
「男の子だからよくけるでしょ」
母は私のお腹を擦りながら言う。
そう、私はもうすぐ2人目が産まれる。
まだ私には母親として多くは語れない部分はある。
ただひとつ言えるのは1つの別れはとても大きな成長に
繋がるという事そして命を授かるのは奇跡なんだということ。
幼き頃に経験したことで成長できた私は今母親として第2の人生を歩もうとしている。
この子達が巣立つまで母親が私にしてくれた事をこの子達に出来るように大きな心で包み込んであげよう。
そう私は思いお腹にいる我が子の鼓動を手に感じながら微笑ましく笑う。
フィクションです。
2/1/2025, 4:19:01 PM