刹那
瞬きのひとつも許さぬと、疵を遺して君は逝く
快晴
本日ハ晴天ナリ。
ラジオからひび割れた声がする。燦々と降り注ぐ陽光は眩しくて、蝉の声は相も変わらず喧しい。
あの子達もね、命を繋ぐことに必死なのよ。
大好きだったおばあちゃんの声が聞こえる。こめかみを伝って流れる汗が、畳に新しいシミを作る。ぜいぜいと響いている音は私の喉からだ。
おばあちゃん。おばあちゃん。私もね、私も生きることに必死だったの。死にたくなかったの。
「だから、許してくれるよね」
たくさんたくさん振り下ろした腕が痛い。お母さんの血で汚れたワンピースはもう着れない。
「お父さんが帰ってくる前に家を出ないと」
喚き続けているラジオを消した。
沈む夕日
閉じきれていないランドセルが、パカパカ音をたてて駆け抜けていく。きゃらきゃらと甲高い声が尾を引いて、丘の向こうに消えていく。
明日あした。また明日。
小さな足跡がいくつも重なって、分かれて増えていく。
「あれまあ。ひとぉり忘れてら」
「いんや。己が離れてやったのさ」
これから先はあやしの時間だ。
夜の帳をじっと眺め、長く伸びた影法師が笑った。
星空の下で
「またね」
それだけを残して君はいなくなった。だいぶ暖かくなった風に誘われて、花弁のように、いやに軽やかな足取りで。遠い、遠い場所へといってしまった。
ねぇ。君は今、なにを思っているんだろう。つらくはないだろうか。かなしくは、ないだろうか。
だいぶん暖かくはなってきたけれど、夜風は未だ冷たいばかりだから。ひとりぼっちで凍えていないだろうか。
望遠鏡をいくら覗いても、君の姿だけは見えないんだ。
幸せに
「どうか、どうか──」
祈るように指を組んだ母親の口から漏れ出る言葉を、私はまるで呪いのようだと思いながら聞いていた。
他人の願う幸福がどんなものかなんて、その本人でない限り分かりはしないのに。それなのに彼女は、彼女の描く幸福を私に与えんとするのだ。
どうか、どうか。この子が幸せになりますように。
頭を垂れて繰り返す女の背中を見つめながら、私は私の願う幸福のために刃を振り下ろした。