ナナシ

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幸せに

「どうか、どうか──」
 祈るように指を組んだ母親の口から漏れ出る言葉を、私はまるで呪いのようだと思いながら聞いていた。
 他人の願う幸福がどんなものかなんて、その本人でない限り分かりはしないのに。それなのに彼女は、彼女の描く幸福を私に与えんとするのだ。
 どうか、どうか。この子が幸せになりますように。
 頭を垂れて繰り返す女の背中を見つめながら、私は私の願う幸福のために刃を振り下ろした。

4/1/2023, 6:28:51 AM