ハッピーエンド
鳴り響いた喝采は、僕らの偉業を称えるもの。
世界の平和を取り戻した勇者一行に相応しい盛大なセレモニーが開かれたその場で、国一番の美姫であり恋人である人と抱き合い、仲間や国民に祝福されながらこの先の幸せを思う。
でも、僕は知っている。
これらは全て魔王が行った暇つぶし。彼は倒されていないし、世界は平和になっていない。そもそも僕を勇者だと示した国王自体、魔王が化けたもの。本物はとうの昔に土の中らしい。
道理で出来すぎているわけだよなぁ、と思ったのは秘密の話。種さえ分かれば不思議でもなんでもない。
作り物でもない限り、こんな結末は訪れないんだから。
見つめられると
単純に、怖いと思った。
もともと人間の目は嫌いだけれど、彼の目は他の誰よりも恐ろしかった。猛禽類が獲物を捕捉した時の、あの目。いのちのひとつも逃さないというような、あの目に見つめられると、僕は、僕は、僕は──
My Heart
ぱきん、と何かの割れる音がして、私はそっと手のひらを広げる。それから、そこにある罅割れたものを見て、たったひとつの吐息をもらした。
あれだけ必死に守っていたものは、こうも簡単に壊れてしまうらしい。
そう思うと今までの全部が馬鹿らしくなって。怯えていた自分がひどく愚かに思えて。
手のひらに残っていたそれを払い落として捨ててしまえば、さっきまでうるさかった世界が遠退いていく。あれだけ怖かったクラスメイトが影法師になっていく。
ああ。初めからこうしておけば良かったんだなぁ。
静かになった人間の輪の中でカラカラ笑った。
ないものねだり
あたし、あたし頑張ったの。
どんなに難しいことだって、どんなに苦しい時だって。なんにも言わずに頑張ったの。できるように努力したの。きちんとやってみせたの。
なんでもできるようになったの。
そうしたら褒めてもらえるんでしょう。偉いねって、言ってもらえるんでしょう。認めてもらえるんでしょう。
こんな。こんな出来損ないのあたしでも、他の子みたいに抱きしめてもらえるんでしょう。
なんにもできないあの子達みたいに、生きてるだけで偉いんだって。やさしく褒めて頂戴よ。ねぇ。
好きじゃないのに
「ねぇ、私のこと好き?」
自分の欲しい言葉を言わせようとして、媚びるように少し潤んだ上目遣いで訊ねてくる君は、もう少し大人になったほうが良いと思う。
だけど、指摘されて膨れっ面になるような、そういうところ。好きではないけど、嫌いでもないよ。
きっと、多分。