GASP

Open App
10/22/2023, 11:52:33 PM

『衣替え』

 オレはカシオスを倒してペガサスの聖衣を手に入れた。それを纏って敵と戦ってきたんだが、少し前に不思議なことが起きた。
 ある日いつものように聖衣を纏うと、聖衣の形が変わっていたんだ。
 それまでは古代ローマの拳闘士のプロテクターのような、言ってしまえば無骨な感じがしたものだったのに、それとは全然違うものに変わっていた。
 青味がかった銀色といった聖衣の色は、白を基調に赤を差し色にした華やかなものに変わった。全体の形も変わっていたけど、特に変わったのはマスクだ。以前はヘッドギアのような形状だったマスクが、ヘルメット型に変わった。それはペガサスの頭部を模したような形で正直嫌いではなかったけど、さすがに気味が悪いので魔鈴さんに聞いてみた。
 魔鈴さんはオレの疑問を聞くと明らかに狼狽えた。この人が動揺する姿なんて初めて見たかもしれない。魔鈴さんはしばらく逡巡した後、「大人の事情」と答えた。
 魔鈴さんがそんな煮え切らない答えを言うのも初めてだったので、オレは深く追及した。すると魔鈴さんは仕方無しにといった態度で、「アニメ化の影響」「おもちゃ屋の思惑」とか言って、「あんたもガキじゃないんだから受け入れな」と言ってきた。
 そんな事言われても、オレには何のことだかさっぱり分からない。誰か、どういうことなのかオレに教えてくれよ!

10/19/2023, 11:48:00 PM

『すれ違い』

 思えば、二百五十年以上生きているというのに、お前と語り合った時間はほんの僅かであったのぅ。
 儂が黄金聖衣を賜って間もなく聖戦が始まった。そして聖戦が我々の勝利で終わると、儂は仮死の法を受け冥闘士どもの監視をすることとなり、お前は新たな教皇となり、聖域の復興と後進の育成を一手に引き受けることとなった。言葉を交わすことはおろか、顔を合わせることもなかった。
 そうこうしている内にお前は死んでしもうた。人はいつか死ぬ、我々はちと長く生きすぎたとはいえ、その死に目に会えんかったのは残念じゃった。
 そして、久しぶりに会えたと思ったら敵味方に別れることになるとは想像もせんかったわい。昔からお前とはすれ違ってばかりじゃ。運命とは皮肉なものじゃのぅ。
 ――だが、顔を合わさずとも、言葉を交わさずとも、お前と志を違えたことは一度もない。二百五十年以上も共に生きた間柄じゃ、それだけは確信を持って言える。
 お前は一足先に塵に帰ってしもうたが、案ずることはない。儂もすぐに後を追うことになるだろう。勿論、復活した冥闘士どもをすべて片付けてから、であるがな。
 しばしの間だが、さらば、友よ……

10/16/2023, 11:56:17 PM

『やわらかな光』

 スニオン岬の牢に投獄されて十日が過ぎた。
 海に面した岸壁にある牢は事あるごとに海水が入り込み、満潮時には息ができない程の水で満たされて、オレは何度も生死の境を彷徨った。
 オレは度々死の淵に立ちながらも、オレを投獄した兄サガへの復讐と、アテナを殺して地上の実権を握る野望を目的として生き延びてきた。
 そしてもう一つ、オレが生き延びられた理由がある。今度こそ駄目かと思うたび、牢の中にやわらかく暖かい光が差し込み、穏やかな小宇宙で満たされてオレの命を繋ぎ止めていた。オレにはそれが誰の小宇宙か分からなかった。聖域の中でもオレの存在を知っているのは兄サガと教皇など、極々限られた者だけだったからだ。オレのことを知っている者はなく、オレは隠された存在だった。
 小宇宙の主は皆目検討がつかなかったので、オレは考えることを止め、きっと復讐の女神ネメシスが何処かから覗き込んでいるのだと思うことにした。その考えも、オレの復讐心を煽ることとなった。
 ある時、オレは牢の奥の岩壁が薄く光っているのを発見した。訝しながら確かめたオレは、その壁が破壊できそうなことに気付いた。上手く行けばここから脱出できるかもしれん。オレはほくそ笑んだ。これこそ復讐の女神の導きのように思えた。
 見ていろサガ。必ずここを脱出し、アテナを殺して地上をオレのものにしてやる。
 オレは持てる力のすべてを叩き付け、岩壁を破壊した。
 それが、オレにとって償い切れない大きな罪の始まりであることにも気付かず――

10/13/2023, 11:59:59 PM

『子供のように』

 目が覚めると、周りには馴染みの顔が一様に自分と同じように困惑した表情を浮かべていた。
 私も含めた彼らは、冥界の嘆きの壁の前に集結し、その力をもって壁を破壊したが、同時にその余波で自分たちの肉体も消滅したはずだった。
 自分の手をじっと見る。冥王に一時的に蘇らされた時の仮初めの肉体ではなく、正真正銘自分の肉体のようだった。
 ふと、自らの体にアテナの小宇宙を感じた。これは、アテナの御力によって蘇ったということなのか。それはつまり、アテナがハーデスに勝利されたということだろう。そうであれば喜ばしいことだ。
 だが、私はこれでいいのだろうか。芝居とはいえ聖域を裏切り、あまつさえ禁忌の技を駆使し仲間を葬った。そんな私に蘇る資格などあるのだろうか。そもそも、一度死んだ者が再び生を得るなど――
「カミュ!」
 私の考えは、私を呼ぶ声に中断された。振り向くと、満面の笑みを浮かべたミロがこちらに駆け寄ってきていた。身構える暇もなくミロは私に抱きつき思わずよろめくが、すんでのところでその場に踏ん張った。
「ミロ……」
「オレたちが蘇ったってことは、アテナと、氷河たちはハーデスに勝ったということだな!」
「……きっと、そういうことだろう」
「やったな! おいカミュ、こんな時までクールぶってないでもっと喜べよ!」
 私の肩に腕を回してそうまくし立てるミロの子供のように無邪気な笑顔を見ていると、私の細かい疑問や葛藤などどこかに行ってしまった。私は微笑む。
「そうだな。私も、また君に会えて嬉しい」
 嘘偽らざる気持ちを素直に述べると、ミロは照れたようにはにかんだ。

10/9/2023, 11:55:22 PM

『ココロオドル』

 星矢の強烈な一撃を受け、オレは目を覚ました。
 オレともあろうものが何をやっていたのか。一体何を考えていたのか。

 敵を殺すことに躊躇いを覚えていたなど。

 殺せ。
 頭の中で声がした。
 目の前に立つ者を殺せ。皆殺しにしろ。皮を裂き、肉を断ち、骨を砕け。獅子宮に血の雨を降らせろ。お前の前に立つ全ての者を抹殺しろ。
 頭の中の声に、オレは唇を歪めた。
 そうだ、敵を殺すことこそオレにとって極上の歓びだ。その証拠に、今右足を折ってやった星矢が叫びのた打ち回る姿を見て、オレは愉悦を覚えた。
 この後、ボロ雑巾のようにズタズタにされて獅子宮の床に転がる星矢を想像しただけでオレは心躍り、大笑いしそうになった。
 星矢は折れた足で懸命に立ち上がり、オレに立ち向かおうとしている。無駄なことを。日本では黄金聖衣のお陰でオレの光速拳を躱せていたが、本来青銅と黄金の間には到底超えられない壁があるのだ。それを今、お前に教えてやる。そして絶望の中で死ぬといい。
 オレは全力の光速拳を放った。

Next