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『やわらかな光』

 スニオン岬の牢に投獄されて十日が過ぎた。
 海に面した岸壁にある牢は事あるごとに海水が入り込み、満潮時には息ができない程の水で満たされて、オレは何度も生死の境を彷徨った。
 オレは度々死の淵に立ちながらも、オレを投獄した兄サガへの復讐と、アテナを殺して地上の実権を握る野望を目的として生き延びてきた。
 そしてもう一つ、オレが生き延びられた理由がある。今度こそ駄目かと思うたび、牢の中にやわらかく暖かい光が差し込み、穏やかな小宇宙で満たされてオレの命を繋ぎ止めていた。オレにはそれが誰の小宇宙か分からなかった。聖域の中でもオレの存在を知っているのは兄サガと教皇など、極々限られた者だけだったからだ。オレのことを知っている者はなく、オレは隠された存在だった。
 小宇宙の主は皆目検討がつかなかったので、オレは考えることを止め、きっと復讐の女神ネメシスが何処かから覗き込んでいるのだと思うことにした。その考えも、オレの復讐心を煽ることとなった。
 ある時、オレは牢の奥の岩壁が薄く光っているのを発見した。訝しながら確かめたオレは、その壁が破壊できそうなことに気付いた。上手く行けばここから脱出できるかもしれん。オレはほくそ笑んだ。これこそ復讐の女神の導きのように思えた。
 見ていろサガ。必ずここを脱出し、アテナを殺して地上をオレのものにしてやる。
 オレは持てる力のすべてを叩き付け、岩壁を破壊した。
 それが、オレにとって償い切れない大きな罪の始まりであることにも気付かず――

10/16/2023, 11:56:17 PM