『子供のように』
目が覚めると、周りには馴染みの顔が一様に自分と同じように困惑した表情を浮かべていた。
私も含めた彼らは、冥界の嘆きの壁の前に集結し、その力をもって壁を破壊したが、同時にその余波で自分たちの肉体も消滅したはずだった。
自分の手をじっと見る。冥王に一時的に蘇らされた時の仮初めの肉体ではなく、正真正銘自分の肉体のようだった。
ふと、自らの体にアテナの小宇宙を感じた。これは、アテナの御力によって蘇ったということなのか。それはつまり、アテナがハーデスに勝利されたということだろう。そうであれば喜ばしいことだ。
だが、私はこれでいいのだろうか。芝居とはいえ聖域を裏切り、あまつさえ禁忌の技を駆使し仲間を葬った。そんな私に蘇る資格などあるのだろうか。そもそも、一度死んだ者が再び生を得るなど――
「カミュ!」
私の考えは、私を呼ぶ声に中断された。振り向くと、満面の笑みを浮かべたミロがこちらに駆け寄ってきていた。身構える暇もなくミロは私に抱きつき思わずよろめくが、すんでのところでその場に踏ん張った。
「ミロ……」
「オレたちが蘇ったってことは、アテナと、氷河たちはハーデスに勝ったということだな!」
「……きっと、そういうことだろう」
「やったな! おいカミュ、こんな時までクールぶってないでもっと喜べよ!」
私の肩に腕を回してそうまくし立てるミロの子供のように無邪気な笑顔を見ていると、私の細かい疑問や葛藤などどこかに行ってしまった。私は微笑む。
「そうだな。私も、また君に会えて嬉しい」
嘘偽らざる気持ちを素直に述べると、ミロは照れたようにはにかんだ。
10/13/2023, 11:59:59 PM