ありす。

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3/31/2024, 6:37:19 AM

放課後は、決まってカラオケに行くのが僕らのお決まりだった。

「やっとテスト期間終わったね。またこれからカラオケ行き放題だね」

隣にいる君が僕に呟く。
いつもの通学路を歩き商店街のひとつに行きつけのカラオケがある。
最初に来た時は大丈夫かここ…と心配するほど外観が寂れていた。まるで幽霊が出てきそうな廃墟だ。

「廃墟は言い過ぎだよ?」

「あっ…ご、ごめん」

声が聞こえていたみたいで、受付の人を含め周りの人達がジロジロとこちらを見ている。

「ドリンクバーは飲み放題ですので」

受付の人に番号が書いた紙と空っぽのコップが1つ渡された。

「すみません。もうひとつコップをお願いします」

「えっ?は、はい」

ちょっと濡れているので洗ったばかりだろう。

「私はコーラ飲みたいなぁ」

「じゃ、それにするかー」

「他に飲みたいものがあるなら飲んでいいんだよ?」

「いや、君と同じのがいい」

コーラのボタンを押すと勢いよくコップに流れていく。
しゅわしゅわと小さな音を立てて泡が弾く。

「あっ…そういえばまた5号室だね」

「そうか…また5号室なのか」

紙で部屋番号を見れば5号室。
いつも通りだ。

「今日は何を歌うの?」

「いや、僕はあまり歌う得意じゃなくて…それよりも君が歌ってよ。僕は君が歌う姿好きなんだから」

「そんなに言われたら歌いにくいじゃない」

照れたように頬を染めてはにかむ笑顔を僕に向ける君は、何も変わっていない。
例え、明日世界が終わろうとも僕と君の何気ない日常は変わらないのだろう。

「ほら、歌ってよ」

今だって僕と君がここにいるのも変わらない。
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「ごめんね。お会計してもらって」

「いいんだよ。この間、君に払ってもらったし。やっとお返しができた」

「それは私が行きたいって言って…金欠中の貴方を無理矢理連れて来たお詫びだよ」

「でも、女子に払わせるのは…ちょっとね」

あれから1時間30分経った。

いつも通りの時間まで僕らはカラオケで時を過ごす。
駅で別れ家に帰りまた学校で会う。
そしてカラオケでまた何気ない時間を過ごす。

「あれ〜今、帰り?」

「まだ帰ってなかったのか?」

カラオケ店を出れば帰宅中の同じクラスの友人に出会った。

「オレは部活。きついよ。いいなぁ〜ヒトカラ。オレも行きたいよ」

「何言ってるんだよ。今、大事な時期なんだろう。応援してるから頑張れよ」

肩をパシリと叩くと「暴力反対だ〜!明日覚えておけよ」とよく聞く台詞を吐いて友人は行ってしまった。

「相変わらず変わらないね」

「あぁ…本当に騒がしいやつだよな。駅まで送るよ」

「ありがとう。いつも駅まで来てもらって」

「いいんだよ。いつも送ってるだろ」

18時にもなれば帰宅ラッシュで帰る人が多い。
そんな中を君ひとりで歩かせるのは心配だから。
いつも思っていたことだ。

「ねぇ……私たちこのままでいいのかな?」

「何が?」

「いや…だって…」

君のくぐもった声がする。

「なんで…?僕たちは何も変わらない。いつも通りじゃん?何気ないこの日常が…僕は…」

「君が周りに可笑しいって思われるのが…私は嫌だ」

「可笑しくないよ。僕は変わらない。君がいて僕がいる。僕の何気ない日常は何一つ変わってなんかないよ」

君は何も言わない。
僕は可笑しくなんかない。
例え、世界が終わっても僕らのどちらかが欠けても、僕と君の何気ないこの日常は変わらない。

「僕は知らないし知りたくもない。わからないしわかりたくもない。まだ……何も知らない何気ないふりをさせてほしい」

3/30/2024, 1:16:49 AM

人生はちょっと平凡でちょっぴり退屈なんだと思う。
外に出ればゾンビが襲ってくる心配もなければ、トラックに轢かれそうな子供を助けてそのまま違う世界に…なんてこともない。
ここは、現実の世界なので剣も魔法も使えなければ存在すらしない。
私が死ぬまでに宇宙の謎は時明かされることは無いので謎のままだし、宇宙侵略を目論む悪の組織もいない。
幼なじみのかっこいい男の子もいないので、当然少女漫画みたいな初恋も始まらない。

やっぱり人生は平凡でちょっぴり退屈だ。
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大好きな場所がある。
家が近く幼い頃から行きつけている場所。
楽しい遊具がなどがあるわけじゃない。
そこは公園じゃないから。
なにか幼い頃からの約束の場所なのかと言われればそんなんじゃない。私に幼なじみというものは存在しないから。

じゃあ、その場所のなにがいいのかって言われれば四季がわかること。
春になれば満開の桜が咲き、夏になれば濃ゆい若葉が茂る。秋になれば枯葉となり散っていき、冬になれば見ているこっちが寒そうになるほど丸裸になっている。

そんな当たり前じゃない毎日の風景が私の退屈を少しは和らげてくれる。
少しの幸福と少しの不幸の隣り合わせで気付けば、私は死んでいるのだろう。

それも人生だから仕方ない。

「ねぇ、ここの近くに住んでいる子?」

不意に声がした。
それはいつも食べる料理に少量の塩を入れられた気分だった。

「あっ…怪しいもんじゃないよ。僕は最近ここらに引っ越してきてさ」

私が通っている近くの高校の制服を身にまとい、胡散臭いばかりの笑顔を撒き散らしている。
人は見た目が9割。
世間一般的にそう言われているのなら世間は彼のことを人目見た時にイケメンの部類だと思う。
打って変わって私が思う彼の第一印象は最悪なのだろう。

「だれ?」

「だれ?って言われるとなぁ…あっ!宇宙を侵略しに来たものです」

「……」

「あれ?面白くなかった?じゃあ、僕は異世界から来たんです。だから魔法が使えますよ」

「……」

「これもだめ?だったら……」

「もう大丈夫です。充分やばい人ってわかりましたから」

前言撤回したい。
これは、いつもの料理に少量の塩じゃなく大量のデスソースを入れられたのだ。

こんな理解に苦しむ人間が本当にいたんだ。

「私…もう帰ります」

「あっ…」

イケメンがいても頭がおかしい人がいても私の人生は変わらない。
日常にほんの少しだけいつもと違うことが起きてもそれは変わらないのだ。
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「ややっ!また会ったね?」

「頭が…イカれてる人…」

「うわー!頭がイカれてるって初めて言われた!なんか…思っていたのと違う!とか変わってるとかそんな人だと思わなかったって言われることは多いけどさ」

「なんか告白していないのにフラれた気分になるだ」と何処と無く嬉しそうに喋る彼にやっぱり頭がイカれてると思ってしまう。

「ねねっ!僕は君と出会って次の日から考えたんだ」

「期待してないけど…なにを?」

「君ってなにか世界の重要な秘密を握っている組織の一員だったりする?」

「違います」

「だったら、あれだ!お金持ちのお嬢様!ツンデレで素直になれなくて寂しさ紛らわすためにここに来てるんでしょ?それで僕と出会った!」

「違います」

「まさか有名な顔出しNGの有名な人だったり…?」

「違います…さっきから一体なんなんですか?」

彼が言う台詞は日常じゃ有り得ない。
まるでドラマやアニメ、小説の中に出てくる者を探しているみたいだ。

「一体なんなんですか?ってそんなの簡単だ。君に運命を感じたから。だってこんな広い世界の小さな島国。その中の小さな村の名前のないこんな場所で君に出会えた。僕の日常は平凡だ。退屈だ。だからずっと考えてた…」

日常が平凡で退屈。
それは私もずっと考えてた。
私が生きる世界は周りと違う。

「僕が生きる世界は周りと違うんだって。君もそうなんだろ?」


「いつも考えてた…朝、ドアを開けたらゾンビが襲ってくる世界だったらって」

「わーお。そしたら間違いなく僕らはゾンビに噛まれてゾンビになっちゃうね。狙撃が得意なわけじゃないしFBIでもない。ただの一般人。僕らは間違いなくバッドエンドだね」

「トラックに轢かれそうな子供を助けてそのまま違う世界に行くとか…」

「その前にトラックに轢かれそうな子供を助けるだけの度胸がないからなぁ。人は誰だって死は終わりを指すだろう?あーあ。分岐があれば助かるのに。こちら異世界行きですって」

「宇宙の謎は私が死ぬまでに解明されないし宇宙侵略を目論む悪の組織もいない」

「宇宙は謎のままがいいんじゃない?解明したらもっと人生退屈になっちゃうよ。それに宇宙侵略を目論む悪の組織は僕です。絶対に」

「幼なじみのかっこいい男の子がいて…少女漫画みたいな初恋が始まるんだ」

「それは困る!!少女漫画だったら初恋は必ず叶うし幼なじみとの恋愛は王道だ!最近ここに引っ越してきた僕は確実に当て馬キャラってやつだろう?!君が他の誰かと結ばれたら君はハッピーエンドでも僕はバッドエンドだ…」

「えっ……とそれって」

「そうだよ!僕らはこの世界に抗っていかないといけない。このままじゃ、何も変わらずに終わる!」

相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべて微笑む彼がいても、私の人生はちょっと平凡でちょっぴり退屈なのだろう。

「目指すはハッピーエンドかな!悪の組織でも幸せになれるって!君は参謀ね!」

「絶対に嫌です」

でもこの先、そんな日常が少しは変わる気がする。

3/28/2024, 1:51:34 AM

「東京にいこう!私たちの夢を叶えにさ」

誰も知らない誰もわからない片田舎のアパートの一室。
中学が同じだったわけじゃない。
高校が同じだったわけじゃない。
友達の友達。共通の友達みんなで1.2回遊んだ共通点のない2人。

「いいね。東京か。夢はでかくだよね」

そんな共通点がない2人だったのに。

「どうせいつかは東京に行くんだし!それが遅いか早いかだけの話し!」

多分、2人は出会わなければ終わるはずだった夢。
共通点のある夢じゃない。
でも、2人で高め合えることが出来る夢。

そう、決意して1年。


「今、出来ることしているんだ。あっちの学校に行ったら私よりも年下の子達がいて私は年齢的にも厳しいから…だから今、出来ることしているんだ」

「私たちは頑張っているよ」

深夜2時。
内緒で停めた第2駐車場の車内で2人して語った夢。
車内から見える真っ黒で星もない空だけが私たちの共通点だった。

「あっちに行ったら何したい?」

「まずは、1ヶ月間の中で何も無い日を2人で1日は作る。その日にアニメ観たりゲームしたり…」

「ゲームはめっちゃしたい!」

「そういえば、この間のゲームプレイ時間290時間以上になってたよ」

「まじか…。いつの間にそんなにしてたんだろう」

ただの夢の話。
その夢の話をする時間が楽しかった。
今はまだ夢でしかないけどそれがあったから私は頑張れた。

あと、上京まで半年。

大切な人を亡くした今。
社会の常識に囚われた今。

「ごめん。難しいかも…どうすればいいんかな。意気地無しでごめん」

初めて聞いたその言葉。
私がいつも言っていた言葉を君が言ったから。
人間、完璧な人はいない。
今、私たちは…私たちの夢はもう夢のままじゃない。
何も知らずにいたあの頃のままじゃない。
2人で語っていたあの日のままじゃない。

「謝らなくていいよ。私もごめん。今から会う?」

深夜2時。
私たちは何も変わらない。
2人で会う時間もこの車内の心地良さも。

「でも這いつくばってでも行きたいよ。2人で叶えるって決めたから。2人で隣に立って見たい景色があるから」

「私たちの心は何も変わってない?」

私たちはもう後戻りはできない。

「変わったことがあるなら尚更、夢を叶えなきゃって思ったけど?」

私たちの夢は、3年前に捨てたはずの夢達だ。
私の心の中で消えるはずだった夢。

頑張れとは言わない。
夢の話をすればみんな良いように言う。諦めろと言う。なれないという。なれなかった時どうやってお金を稼ぐの?という。

知っている。
お金が大切なことも諦めろと言う理由も全部全部知ってる。
ただの夢の話をしている時が心地いい理由も知っている。
でも、それすらも凌駕するほどの夢を生きる目標にしている事も知っている。

だから今、夢を追いかけているあなた。
夢を見たらもう後戻りはできない。
私の心が、あなたの心が1番わかっているはずだ。

3/27/2024, 5:59:26 AM

「間宮…お前は本当に才能があるなぁ!」

「ありがとうございます」

興味もなかった。
ただ、部員が足りないと言われて友達を助けるために入った部活の顧問に言われた一言。

「本当にうちの美術部を救うエースだぞ!お前は!」

「あー…そうですか…」

目の前に広がるなャンバスに目線を落とした。
今、描いているのは特段興味もない、変哲のない校庭。
ただの水彩画。描くものなんてなんでもいい。
ただ描いて提出すればそれで終わるだけだから。

「本当に入ってくれてありがとう〜。うちの学校って運動部に力入れてるじゃんか…だから文化部が生き残るの難しいんだよね〜。でも、あんたが入ってくれて大賞取ってくれたからうちの部活は安泰だよ!」

「なら、よかった」

「あんた…やっぱり大学は美術系に行くの?」

「いや、別に絵描くの嫌いじゃないけど…好きでもない」

「もったいないよ!!そんなに上手いのに!あたしだったら迷わず行くんだけどなぁ。あっ!今度オープンキャンパスでも行ってみる!?あんたなら…」

友人の声が遠のいていく。
いや、私が聞きたくないだけなのだ。
なんで絵を描いただけなのに、誰が決めたのかも知らない賞をもらっただけなのに、私の将来が決められているのか。
私は別に絵が上手くなりたいなんて望んだわけじゃない。
将来それで食っていこうなんて思っていない。
ただの周りの評価なだけなのに。
私の将来はもう決められているみたいだ。
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将来の夢というものは本当に厄介なものだと思う。
幼稚園の頃は将来の夢を言うだけで良かったのに、大人になればそれを叶えるために追わないといけない。
追ったとして叶う確率は1万分の1以下。
1万人いても誰一人叶わずに終わる。

だから本当に厄介なものだと思う。

「咲良…イラストレーターになりたいって言ってもな…お前どうやって生活していくんだ?」

「バイトで働きながら…イラストレーターの専門学校に…」

「咲良…お前現実を見ろ。お前の親御さんは就職して欲しいって言ってただろう?大学、専門学校に出せる費用もないって…」

「だから、バイトで働きながら夜間でも…なんでもいいからあたしはイラストレーターの専門学校に…」

「現実は甘くない。そもそもお前…イラストレーターって言っても美術部にも入ってないだろう?実績もないんだ…、あっ、そうだ!お前…専門学校や大学考えているなら音楽系はどうだ!ここらだとあの有名な音楽大学から推薦…」

先生の声が遠のいていく。
いや、本当は自分自身がよくわかっている。
だから聞きたくないだけ。知りたくないだけなんだ。
少し周りより遅く夢を見てしまっただけなのに。
将来それで食っていこうなんて大それた事は思っていない。
ただの周りの評価なのに。
あたしの将来はもう決められている。
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クラスメイトに咲良さんという女の子がいた。
初めてその子を意識したのは音楽の授業。
近々ある学年音楽集会に向けて、みんなが歌うパートを決めようとなった時だった。
先生が1人で歌うのはみんな緊張するからと3人1つのグループになり先生の前で歌わされた。

私は咲良さんとは同じグループになった。
咲良さんは人目を引く容姿をしている。
アニメとかドラマとかでよく見る黒髪美人。
所謂、美少女だった。
隣には同じ部活の友達。気まずかったと思う。
私も友達も咲良さんと話をしたことがない。
当の本人は楽譜をただ見ているだけ。

「歌か……私はあまり好きじゃないんだよね」

「そうなの?私は歌好きだけどな」

「えっ!?あんた…絵だけじゃなくて歌までいけるわけ?天は二物も三物も与え好ぎ!」

「いける…ってわけじゃないけど。歌うことは好きだよ」

ただの真っ白な紙に絵を描くより何百倍も好きだけど。
口が裂けても言えない言葉を私は呑み込んだ。

「あっ、私たちの番だ!いこう!」

友達に急かされて私も立ち上がる。
咲良さんも後ろをてくてくと着いてきていた。

「じゃ、この音程で歌ってね」

先生がピアノで音程を短く鳴らしてくれる。
それに続き私達も歌い始める。


「さ、咲良さん…あなた音楽部だった?」

歌い終わると先生の焦った声が咲良さんに集中した。

「いえ。違います」

「あなたなら音楽大学の推薦もらえるわよ!そんなに歌上手なら音楽部に入ってくれれば良かったのに!!」

「音楽は興味無いです」

「もったいないわよ!そんなに上手なのに!」

咲良さんは困った顔をして先生との話に丁寧に答えている。
心底、羨ましいと思った。
私が歌っても周りは何も言わない。私は歌を歌いたい。
同じ芸術でも違う。なんで私は絵なんだろう。
これが歌だったら…何度も考えては辞めてしまう。

「咲良さんめっちゃ歌上手いね。びっくりしちゃったよ」

「あ……そ、そうだね」

「私もあんたもなかなか上手かったよ!でも咲良さんがレベチ過ぎたね〜」

「あ、ははーそうだね」

将来の夢ってなんで叶わないんだろう。
本当に厄介だ。
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「あなたは…なんで美術系の大学に行かないの?」

「えっ……あぁ…咲良さん。急にどうしたの?」

放課後。
先生との面談が終わり教室を出ようとした時だった。
咲良さんに呼び止められた。
綺麗な黒髪に二重の大きな瞳は日本人じゃ珍しい茶色。
カラコンも入れていない天然ものだ。

「単刀直入に言うとあたしはあなたが心底、羨ましいです。そんなに絵が上手いのに。あなたの作品を見ました。大賞を取ったあの作品。あたしもこれだけ書けたらと思いました。だから疑問なのです。あなたがなぜ大学に行かないのか」

「ええっと…私は別に絵を描きたいとか思ってないと言いますか…」

「宝の持ち腐れと言うものですか?」

「いやいや、それを言うなら私は咲良さんの方が羨ましいよ!歌上手いし…芸能人になれるぐらい可愛いし…」

「歌うことに価値はないですし、人間みんな衰えていくものです。容姿も変わっていくのです。あたしはイラストレーターになりたかった」

「そんな事言われても…私だって歌手になりたいよ!でも…人並みだから…」

教室のど真ん中で私と咲良さん。
絶対に普段なら関わらない私たちがこうして話をしている。
内容は、お互いの将来の夢。

「あたしは絶対に諦めたくない」

「私も!まぁ、今さっき先生から美術大学進められちゃったけど…私の家は費用出してくれないだろうしって…」

「あたしは音楽大学を勧められましたけど丁重にお断りしました」

「ふっ…なんだろう。初めて咲良さんと話したけどかっこいいね。私には無いものを全部持っていて…やっぱり羨ましいよ」

「あたしもあなたは羨ましいです。あなたが描く世界はあたしの目標ですもの」

「私たちって…お互いが持っているものを欲しがっていたんだね。どっかで共有出来ればいいのに」

「共有……それです!!!」

咲良さんは私の机をドンッ!!と叩くと1人で楽しそうに笑いだした。

「さ、咲良さん…?」

「間宮さん…あなたは音楽の大学に行きたんですよね?」

「うん、まぁ…行けたらだけどね」

「私はイラストレーターの専門学校に行きたい。でもそれにはお金が必要で間宮さんもお金が必要。ここは2人で協力しません?」

「ええっ!あ、危ないことはナシで!!」

「危ないことはないです。動画配信なんてどうですか?コンテンツは歌。あたしずっと考えていたの。歌を歌ってお金を稼いでそのお金で専門学校を」

咲良さんはスマホで人気の動画配信アプリを開く。
アカウントはもう作ってある。
急上昇には、歌やゲーム実況など様々なジャンルの動画があがっている。

「ええっ!!でもそしたら咲良さんにおんぶにだっこだけど大丈夫?」

「いえ、間宮さんにはイラストレを描いてもらいます。私が歌って間宮さんはイラスト。それで稼いで2人で大学、専門学校に行ったらいいのです。私たちは才能があります。お互い、ないものねだりな才能ですが。さぁ、どうします?」

咲良さんが私に手を差し出してきた。
この手を取れば私は音楽の大学に行ける。
でも、動画配信サイトで売れればの話だ。
大きな賭けになる。まだ、卒業まで時間は確かにある。
でも、それでも夢物語な賭けになる。

「夢を追いかけて叶う人は1万人いて1人もいない。そんな確率なのだから…どうせならやってみる価値はありますよ?」

「わ、私は…」


本当に夢というものは厄介なものだ。
でも、ないものねだりな才能を持つ私たちも同じくらい厄介なんだろう。

3/25/2024, 9:23:29 AM

「明日、雨降ると思うよ」

人気のない錆び付いた遊具が、並ぶ小さな公園のベンチに座っていると急に鈴の音のような声が聞こえた。
その声を辿ると目の前に見慣れない制服を着た私より年上だろうか…凛とした顔で空を見ている女性がいた。

「えっ……と…」

「雨降ると思うよ。だから帰った方がいいかも」

綺麗な瞳の中に無機質な表情が見える女性を私は3度見してしまった。

「あっ…私に言ってるんですね…」

「……」

不気味すぎる。
この一言に尽きた。
知らない女性に話しかけられているだけでも、頭の中にクエスチョンマークが浮かぶのに、それ以上女性が喋ることはなかった。
気まずくてなり何か会話を…と思ったが話のネタなど持ち合わせていない。

「えっと…私…帰ります。ありがとうございました」

そそくさと荷物を持ち公演を出ていく。
今日は、1人になりたくて公園に来たのに変な人に会ってしまった。

その後の天気は曇りのままだった。
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教室は今日も騒がしい。
1つの机を囲んでカースト上位…所謂派手目な子達は、メイクに自分磨きにと忙しそうにしている。

教室の隅の方では、静かに本や勉強をする子もいれば、好きなんテレビの話に花を咲かせている子もいる。

どこに属さない…いや属せないのが私だ。
教室の後ろの隅で小さく息を潜めて今日も過ごしている。
昔から苦手だった。人付き合いというものが。

楽しそうに話す事に強く憧れを持ってはいるが、行動に移せない。

「一言、勇気を出すだけで世界は変わる」らしいが現実はそうじゃない。
一言を発するだけがどれだけ難しいかを世界はわかってくれないみたいだ。

「今日も…一人になりたいなぁ」

教室は私、一人置いて今日も騒がしい。


「あっ…」

放課後、また一人になりたくて来た昨日の公園に先客がいた。
私を見るなりその人は興味無し。…といった風にそっぽを向いた。
昨日の人だ。瞬時に脳が判断する。
頭の中でぐるぐると闇鍋のように色々な感情が混ざっていく。
この公園が悪い。ベンチがここだけにしかないことが悪い。

「座れば…いいのに…」

「へっ…!あ、ありがとうございます…」

久しぶりに誰かに言った感謝の言葉は薄く消えていった。
この人の隣に座るとふわっ…といい香りが漂った。
美人は、香りまでいいのか。と変態じみた考えを消すように私は地面を見続ける。

「あ……雨が降る…」

「えっ…雨ですか…」

彼女は雨が降ると昨日も言っていたが曇りのままだった。
小学校や中学の時にいた「私、幽霊が見えるの…霊感があるの」と言っていた胡散臭い同級生を思い出してしまった。
もしかしてこの人もその類なのでは?と考えてしまう。

「昨日…雨降ってないですよ?天気予報の勘違いですよ」

「天気予報は見てないよ。私は雨の音がわかるの」

にわかには信じ難いその発言に私は、どう返答をすればいいか迷ってしまう。

「何も言わなくていいよ。私は人と違うってわかってるから。みんなと同じになれないってわかってる。だから気付けば一人を選んでる」

「あっ……そ、その気持ち私も何となくわかります!クラスにいる時に特に…。私もメイクの話ししてみたいし、ドラマとかアニメの話しをして盛り上がりたいなって思ってて…でもやっぱりひとりがいいなぁって思っちゃって1人を選んで…」

「そう。あなたもそうなのね」

私の顔など一切見ずにその人はただ空を見ているだけだった。

「あの…よければ…またここで会いませんか?」

隣を見れば、驚いたように見開く綺麗な瞳と目が合った。
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「今日の天気はまた曇りか……」

下校途中、スマホの天気予報アプリが知らせるのは朝から変わらずの曇り。

「今日も先輩は「雨が…降る…」って言うのかな〜」

錆び付いた遊具が並ぶ小さな公園で出会ったあの人はどうやら2つ上の3年生だった。
あの日から先輩に会うのが恒例行事になりつつある。
いつもじっと空を眺めては「雨が…降る…」という発言をするものの雨が降る気配は微塵もない。

でも、その台詞を聞かないと一日が始まり終わったと実感しなくなってきた。
なんだかんだ私は先輩と会うのを楽しみにしている。
友達と言われればなんだが違う気がして否定したくなるが、私と先輩はそもそも友達ですらないのかもしれない。

「あ…先輩!」

公園の入口から見えるいつものベンチに先輩は座っていた。
相変わらず見た事のないセーラー服を見に纏い、長く綺麗な黒髪の毛先を指に絡めては解いてを繰り返している。

こんなに綺麗な人は私の学校にもいない。
綺麗な人をみた反射なのか胸が少しざわめいた。

「今日もいたんですね」

「家には帰りたくないから…」

「えっ!?何かあったんですか?」

「多分…もう私はここに来ることは出来ない」

「えっ……」

「だから…最後に会えてよかった」

まだ出会って1週間ほどしか経っていないのに。
この瞬間、私は先輩の綺麗な笑顔見た。
この笑顔が最後なんて…。

「嫌です!!私はまだ色々話したいことがあるのでっ!だってまだ…まだ…」

気付けば目から涙が零れていた。
何を喋っているのか自分でもわからなくなるが、先輩に伝えないといけない…そんな気持ちが先走っていく。

「まだ…出会ったばかりですよ?もうさよなら…なんて…」

「はい…」

「えっ…か…さ…?」

「じゃ…ね。これから雨降るから」

先輩は泣きじゃくる私を置いて行ってしまう。
その後ろを姿が頭から焼き付いて離れなかった。
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教室は今日も騒がしい。
私、一人残して。
あれから先輩とは会っていない。
あの公園にいない。
毎日毎日、あの公園に足を運ぶが先輩はいない。

本当に世界から外されみたいだ。

「あー!ここの制服可愛いよね」

「隣町の南高でしょ?セーラー服いいなぁ」

「えっ!?ごめん!ちょっと見せて!」

いつもならBGMのようなクラスメイトの声も今日は鮮明に聞こえた。

「えっ!あなたも興味あるの?可愛いよね!ここの制服」

「隣町の南高よ!私の従兄弟が通いたいって」

クラスメイトの子がみていた学校の紹介雑誌を見てみれば、先輩の制服が見える。
セーラー服。やっぱり先輩が来ていた制服だ。

「あの…ここに行きたいんだけど…」
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バスから降りてみれば、南高校と書かれたバス停とでかでかと立派な校舎が見えた。
ここに先輩がいるはず。

他校な事もあり中までは入れないが…外から校舎を見てみる。傍から見れば怪しさ満点だがそんな事言ってる場合じゃない。

「先輩に会わなきゃ…」


「なんで……ここにいるの…?」

「せ、先輩…」

セーラー服を見に纏いこちらを見つめる先輩がいた。

「先輩!私、その先輩に会いたくて…その…!」

私が声をあげると先輩はなぜか俯いている。

「あの…これ返します。あのあと…とんでもなく雨が降ってその…」

「雨が降るって音がしたから」

「あれ…でも天気予報は曇りって」

「今日も…雨…降るから」

いつものように天気予報アプリを開けば、曇り…ところにより雨だった。

「ところにより雨?」

「降るから」

そう先輩が言った瞬間雨がポツポツと降り出した。
先輩は静かに私が返した傘をさした。
その姿すらも綺麗だ。

「入らないの?」

「えっ!?あ、ハイリマス」

いつもより近い距離にいるせいか胸がドキドキする。
先輩の息遣いや香りが近い。

「なにか…言いたいことあったんでしょ?」

「えっあ!?そう…でしたね。これからも…その…会って欲しいです!…って事を伝えたくて」

「どうして…?」

「いや!それはやっぱり…先輩とはなんか気が合うと言うか…ほら先輩の天気予報当たるし」

「また明日降るから」

「えっ!?明日は晴れですよ?」

「ううん。降るから。また明日も聞いてね」

そう言って先輩はいつもと同じように空を見上げた。
私も同じように天気予報のアプリを見てみた。

「明日は晴れで……ところにより雨」

先輩の天気予報は最初から当たっていたのか。

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