人生はちょっと平凡でちょっぴり退屈なんだと思う。
外に出ればゾンビが襲ってくる心配もなければ、トラックに轢かれそうな子供を助けてそのまま違う世界に…なんてこともない。
ここは、現実の世界なので剣も魔法も使えなければ存在すらしない。
私が死ぬまでに宇宙の謎は時明かされることは無いので謎のままだし、宇宙侵略を目論む悪の組織もいない。
幼なじみのかっこいい男の子もいないので、当然少女漫画みたいな初恋も始まらない。
やっぱり人生は平凡でちょっぴり退屈だ。
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大好きな場所がある。
家が近く幼い頃から行きつけている場所。
楽しい遊具がなどがあるわけじゃない。
そこは公園じゃないから。
なにか幼い頃からの約束の場所なのかと言われればそんなんじゃない。私に幼なじみというものは存在しないから。
じゃあ、その場所のなにがいいのかって言われれば四季がわかること。
春になれば満開の桜が咲き、夏になれば濃ゆい若葉が茂る。秋になれば枯葉となり散っていき、冬になれば見ているこっちが寒そうになるほど丸裸になっている。
そんな当たり前じゃない毎日の風景が私の退屈を少しは和らげてくれる。
少しの幸福と少しの不幸の隣り合わせで気付けば、私は死んでいるのだろう。
それも人生だから仕方ない。
「ねぇ、ここの近くに住んでいる子?」
不意に声がした。
それはいつも食べる料理に少量の塩を入れられた気分だった。
「あっ…怪しいもんじゃないよ。僕は最近ここらに引っ越してきてさ」
私が通っている近くの高校の制服を身にまとい、胡散臭いばかりの笑顔を撒き散らしている。
人は見た目が9割。
世間一般的にそう言われているのなら世間は彼のことを人目見た時にイケメンの部類だと思う。
打って変わって私が思う彼の第一印象は最悪なのだろう。
「だれ?」
「だれ?って言われるとなぁ…あっ!宇宙を侵略しに来たものです」
「……」
「あれ?面白くなかった?じゃあ、僕は異世界から来たんです。だから魔法が使えますよ」
「……」
「これもだめ?だったら……」
「もう大丈夫です。充分やばい人ってわかりましたから」
前言撤回したい。
これは、いつもの料理に少量の塩じゃなく大量のデスソースを入れられたのだ。
こんな理解に苦しむ人間が本当にいたんだ。
「私…もう帰ります」
「あっ…」
イケメンがいても頭がおかしい人がいても私の人生は変わらない。
日常にほんの少しだけいつもと違うことが起きてもそれは変わらないのだ。
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「ややっ!また会ったね?」
「頭が…イカれてる人…」
「うわー!頭がイカれてるって初めて言われた!なんか…思っていたのと違う!とか変わってるとかそんな人だと思わなかったって言われることは多いけどさ」
「なんか告白していないのにフラれた気分になるだ」と何処と無く嬉しそうに喋る彼にやっぱり頭がイカれてると思ってしまう。
「ねねっ!僕は君と出会って次の日から考えたんだ」
「期待してないけど…なにを?」
「君ってなにか世界の重要な秘密を握っている組織の一員だったりする?」
「違います」
「だったら、あれだ!お金持ちのお嬢様!ツンデレで素直になれなくて寂しさ紛らわすためにここに来てるんでしょ?それで僕と出会った!」
「違います」
「まさか有名な顔出しNGの有名な人だったり…?」
「違います…さっきから一体なんなんですか?」
彼が言う台詞は日常じゃ有り得ない。
まるでドラマやアニメ、小説の中に出てくる者を探しているみたいだ。
「一体なんなんですか?ってそんなの簡単だ。君に運命を感じたから。だってこんな広い世界の小さな島国。その中の小さな村の名前のないこんな場所で君に出会えた。僕の日常は平凡だ。退屈だ。だからずっと考えてた…」
日常が平凡で退屈。
それは私もずっと考えてた。
私が生きる世界は周りと違う。
「僕が生きる世界は周りと違うんだって。君もそうなんだろ?」
「いつも考えてた…朝、ドアを開けたらゾンビが襲ってくる世界だったらって」
「わーお。そしたら間違いなく僕らはゾンビに噛まれてゾンビになっちゃうね。狙撃が得意なわけじゃないしFBIでもない。ただの一般人。僕らは間違いなくバッドエンドだね」
「トラックに轢かれそうな子供を助けてそのまま違う世界に行くとか…」
「その前にトラックに轢かれそうな子供を助けるだけの度胸がないからなぁ。人は誰だって死は終わりを指すだろう?あーあ。分岐があれば助かるのに。こちら異世界行きですって」
「宇宙の謎は私が死ぬまでに解明されないし宇宙侵略を目論む悪の組織もいない」
「宇宙は謎のままがいいんじゃない?解明したらもっと人生退屈になっちゃうよ。それに宇宙侵略を目論む悪の組織は僕です。絶対に」
「幼なじみのかっこいい男の子がいて…少女漫画みたいな初恋が始まるんだ」
「それは困る!!少女漫画だったら初恋は必ず叶うし幼なじみとの恋愛は王道だ!最近ここに引っ越してきた僕は確実に当て馬キャラってやつだろう?!君が他の誰かと結ばれたら君はハッピーエンドでも僕はバッドエンドだ…」
「えっ……とそれって」
「そうだよ!僕らはこの世界に抗っていかないといけない。このままじゃ、何も変わらずに終わる!」
相変わらず胡散臭い笑顔を浮かべて微笑む彼がいても、私の人生はちょっと平凡でちょっぴり退屈なのだろう。
「目指すはハッピーエンドかな!悪の組織でも幸せになれるって!君は参謀ね!」
「絶対に嫌です」
でもこの先、そんな日常が少しは変わる気がする。
3/30/2024, 1:16:49 AM