放課後は、決まってカラオケに行くのが僕らのお決まりだった。
「やっとテスト期間終わったね。またこれからカラオケ行き放題だね」
隣にいる君が僕に呟く。
いつもの通学路を歩き商店街のひとつに行きつけのカラオケがある。
最初に来た時は大丈夫かここ…と心配するほど外観が寂れていた。まるで幽霊が出てきそうな廃墟だ。
「廃墟は言い過ぎだよ?」
「あっ…ご、ごめん」
声が聞こえていたみたいで、受付の人を含め周りの人達がジロジロとこちらを見ている。
「ドリンクバーは飲み放題ですので」
受付の人に番号が書いた紙と空っぽのコップが1つ渡された。
「すみません。もうひとつコップをお願いします」
「えっ?は、はい」
ちょっと濡れているので洗ったばかりだろう。
「私はコーラ飲みたいなぁ」
「じゃ、それにするかー」
「他に飲みたいものがあるなら飲んでいいんだよ?」
「いや、君と同じのがいい」
コーラのボタンを押すと勢いよくコップに流れていく。
しゅわしゅわと小さな音を立てて泡が弾く。
「あっ…そういえばまた5号室だね」
「そうか…また5号室なのか」
紙で部屋番号を見れば5号室。
いつも通りだ。
「今日は何を歌うの?」
「いや、僕はあまり歌う得意じゃなくて…それよりも君が歌ってよ。僕は君が歌う姿好きなんだから」
「そんなに言われたら歌いにくいじゃない」
照れたように頬を染めてはにかむ笑顔を僕に向ける君は、何も変わっていない。
例え、明日世界が終わろうとも僕と君の何気ない日常は変わらないのだろう。
「ほら、歌ってよ」
今だって僕と君がここにいるのも変わらない。
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「ごめんね。お会計してもらって」
「いいんだよ。この間、君に払ってもらったし。やっとお返しができた」
「それは私が行きたいって言って…金欠中の貴方を無理矢理連れて来たお詫びだよ」
「でも、女子に払わせるのは…ちょっとね」
あれから1時間30分経った。
いつも通りの時間まで僕らはカラオケで時を過ごす。
駅で別れ家に帰りまた学校で会う。
そしてカラオケでまた何気ない時間を過ごす。
「あれ〜今、帰り?」
「まだ帰ってなかったのか?」
カラオケ店を出れば帰宅中の同じクラスの友人に出会った。
「オレは部活。きついよ。いいなぁ〜ヒトカラ。オレも行きたいよ」
「何言ってるんだよ。今、大事な時期なんだろう。応援してるから頑張れよ」
肩をパシリと叩くと「暴力反対だ〜!明日覚えておけよ」とよく聞く台詞を吐いて友人は行ってしまった。
「相変わらず変わらないね」
「あぁ…本当に騒がしいやつだよな。駅まで送るよ」
「ありがとう。いつも駅まで来てもらって」
「いいんだよ。いつも送ってるだろ」
18時にもなれば帰宅ラッシュで帰る人が多い。
そんな中を君ひとりで歩かせるのは心配だから。
いつも思っていたことだ。
「ねぇ……私たちこのままでいいのかな?」
「何が?」
「いや…だって…」
君のくぐもった声がする。
「なんで…?僕たちは何も変わらない。いつも通りじゃん?何気ないこの日常が…僕は…」
「君が周りに可笑しいって思われるのが…私は嫌だ」
「可笑しくないよ。僕は変わらない。君がいて僕がいる。僕の何気ない日常は何一つ変わってなんかないよ」
君は何も言わない。
僕は可笑しくなんかない。
例え、世界が終わっても僕らのどちらかが欠けても、僕と君の何気ないこの日常は変わらない。
「僕は知らないし知りたくもない。わからないしわかりたくもない。まだ……何も知らない何気ないふりをさせてほしい」
3/31/2024, 6:37:19 AM