ィヨイヨイヨイヨイリンリンリンリリーン

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8/1/2025, 5:23:28 PM

8月、君に会いたい(本日誕生日の身だったので、眠る前に……書きたいものが長すぎてやや乱雑かも)

 柑橘系の香りがふわりとした。君の名前を思い出す。
 都内のコンクリートの乱立の中、ふと足を止めることなんて早々無い。
 日々、何かに追われるようにして過ごし、そして時には静かに競争社会に呆れた人が自ら望んで暗闇に身を投じる。逃げる、辞める、なんていうけれど、私からしてみたらあの先は深淵でしかない。
 だが、どちらの人間も五味豊かな青春を過ごしていよう。
 脳裏に過った君。最後に会ったのは、今日よりも涼しい故郷だった。

 捜査一課に勤める私は、片田舎の無鉄砲な子供に過ぎなかった。
 テレビに感化されて出稼ぎで出たきりの若者ばかり増えたせいで、過疎化は進んで学舎には私と君だけだった。
 私と君が証書を受け取れば、もう寺子屋から始まった高校の歴史は幕を閉ざす。
 悲しさと寂しさが占めた胸中には、老朽化の進んだ図書室から眺めた校庭との別れよりも、君と離れ離れになる事実のほうが遥かに大きかった。

 春の陽気と桜に微笑む君。夏の川辺で白いワンピースと麦わら帽子の君。紅葉によりも綺麗だった君。雪に降られて鼻も頬も冷たかった君。
 自身が警察学校へ行くと決めた時から決まっていた別離だというのに、苦しくてたまらなかった。
 ふと私と君ばかりの卒業アルバムを見て、真っ直ぐ純真な笑みの君を見ては、いつかまた巡り会おうと思っていた。
 だからこそ、昼休憩中にテレビに映った君に驚いた。

『本日未明、〇〇村で14人が死亡、3人が意識不明の重体になる事件が起こりました』

 私の故郷だった。
 何知らぬ顔の同僚がインスタント食品を啜る中、私は呆然と箸を置いた。
 朝から忙しくて何一つたりとも情報を仕入れることも出来ず、今になってやっと知り得た。学生の頃は20人はいて、私と君がいなくなって、18人。しばらくして、向かいの家の人が癌で亡くなって17人。
 みんなだ。みんな。おふくろも、親父も、みんなだ。
 寂しさ、それに勝ったのは怒り。
 握りしめた手が震える中、携帯が震える。

『〇〇村惨殺事件、まだメディアに回していないが犯人はあすでに自首済みだ』

『私の生まれを知ってのご連絡でしょうか』

『いいや。そいつの口からお前の名が出たからさ。ほら、この顔見覚えあるだろう、と』

 背筋が凍った。
 笑顔の君がいた。

『この女が惨殺を企てたそうだ。お前と会いたくて、だそうで』
『……連絡がねぇな。とりあえず、落ち着いたら連絡寄越せ。面会のセットをしてやる』

 また柑橘系の香りがした。
 彼女の匂いに近いけれど、甘ったるい。 
 私はどんな表情で彼女に会えばいいのか。無点灯のスマホ画面に映った自身の顔は酷い有様で、死神に憑かれたようだった。
 ただ言えることは、8月2日――今日は君と面会する予定だ。旧知との再会であり、事件解明に向けた真実への一歩であり、なによりも彼女のことを知らなくてはいけなかった。
 はやく、君に会いたい。

7/22/2025, 1:55:53 PM

またいつか(久々すぎ。過去にカラフルをテーマにした作品の続編になるよ)

 雪の照り返しが眩しい朝だった。
 穏やかな風と吊るした肉、コトコトと煮込むシチー。何気ない穏やかに永遠と続く冬の光景であり、雪解けという言葉を知るのはいつだろうと凍てついた心は待つ事だけを覚えてしまっていた。
 一杯のスープをよそい、テーブルに置いた。
 さて、私には同居人がいる。とはいえど今日でその同居もおしまいなのだが。
 トントントンと、音のないのに足音がした気がして振り返る。

「ラーノチカ、終わった」

 勝利の象徴のような輝きを持つ黄金髪の相棒。
 昨日までは膝まで届くほど長髪だったが、彼女自身から頼まれて私が散髪した。今の彼女は、端から見たら男と見紛うこともあるだろう。
 そんな彼女は無愛想な性格や適当なところがあり、秘密も多くて私が知るのはほんの僅か。しかし誰もが口を揃えて、卓越した狙撃手だと囁く。
 きっちりとまとめた荷物は、決して彼女が一日や二日の狩りに行って帰ってくるような単純な戦いに赴くわけではないことを物語っている。
 愛銃は1丁のリーエンフィールド、ただそれだけだった。

「……シャルロット、本当に行くのね」

 何度も繰り返した言葉が溢れる。
 ただ、いつもと同じだった。彼女は静かに首肯し、伏せ目がちに呟くのだ。

「父の死の真相を知らないといけないから」

 彼女の瞳に色というものが消えたというのは、その時だという。
 曰く、その愛銃も父の形見らしい。十四歳の時、雪が吹き荒ぶ中を狐が咥えてきたらしい。初め聞いたときはとんだ御伽かと思ったが、真剣な表情とグリップに残った小動物の噛み跡を見て信じるほかなくなった。
 私が丹精込めた一杯のスープを、彼女はいつものようにグイッと飲み干した。
 一瞬だけ満足そうに頬を緩ませ、すぐに仏頂面に戻る。長銃を肩に背負い、そのまま彼女は玄関に向かった。
 慌てて追いかけるが、神妙な顔つきの彼女になんと声をかければいいのか分からなかった。

「……ラーノチカ、私は黄金の城に行くよ。だから――」

「さようならなんて、言わないでよ」

「ラーノチカ?」

 呆然とした彼女を抱きしめる。
 ひんやりした上着に包まれた小さい彼女が、理由もわからず抱きしめ返した。

「こういうときはこういうの――またいつか、って」

「……うん、またいつか」

8/20/2024, 7:41:54 AM

空模様(昼寝ができなかったので書いている)
 空を見上げると、遠くの方に黒い影が点々と浮かんでいた。
 ああ、もうじき私もあちらへ行くのだな。 ならば目を閉じて稚拙な願い事をしよう。
 妹が幸せでありますように、この世界に平穏が訪れますように。
 青空は遠く澄み渡っているというのに、地上は悲痛で溢れかえっていた。
 入道雲が遠くに雷鳴を引き起こし、黒雲が人々に死をもたらす。

 遠くで爆音が鳴り響いたと思えば、どんどんとその音が近づいてくる。
 心拍が早まり、脂汗が滲み出てきて、その時ようやく「ああ、私も幸せになりたかった」のだと気が付いた。
 さようなら、我が妹よ。
 幸せであれ、我が妹よ。
 太陽が見えなくなっても、この心臓が止まっても、私は貴方を想う。

「…………あ、あは……あはは、なんて日よ」

 数メートル先にゴトンと鉄塊が落ちると、私は荒い息が止まらなかった。
 不発弾だ。
 横たわる魚みたいで、なんとも滑稽に見える兵器は、私の親友の命を奪ったそれときっと同じ形だろう。
 だが安堵も束の間、後ろの方から爆音が響く。
 すぐに振り返えると火薬と土煙が立ち上っていた。
 ああ、あそこは、妹と妹の婿、そして子が二人いる離れの辺りだ。

6/16/2024, 5:51:57 PM

1年前(キスの位置の意味調べてたら寝れなくなったので書いた)

 たった一年、されど一年。
 瞬く間に時は過ぎ去り、悔いたあの日々がどんどん遠くなっていく。
 ……猟犬として、私が為すべきなんだろうか?

「ハウンド、ハウンド。 敵はいない?」

「……ええ、おりませんよ」

 一年前の貴方は、美しく綺羅びやかなドレスを着て社交パーティーに出かけていた。
 絹糸のような美しい髪、整った目鼻、苦労を知らない指先。
 俺は貴方の側に十年いる騎士で、黒と金の荘厳な鎧を身に纏って何度も凶刃から貴方をお守りしてましたね。
 アフタヌーンティーだというのに、貴方は紅茶に口をつける回数より私をどうにか口説こうとする回数のほうが多かったのはまだ鮮明に覚えております。 貴方が猫のように甘えてきて。 砂糖みたいな日々でした。
 でも、一年前のあの日に全ては燃えカスになりました。
 反乱分子が屋敷に火を放ち、その火に気がついた私は真っ先に貴方を抱えて森へ逃げ出したんでしたっけ。

「お嬢様、怪我の調子は?」

「え? たかがかすり傷よ、貴方が勝手に軟膏も使ったし平気よ」

「……なら良かったです」

「ふふ、ハウンドったらいつまで経っても心配性ね」

 お嬢様が口を隠して笑う仕草に、まだあの時の記憶を想起してしまう。
 だが、あの時とは違う。
 一年前の貴方の体には傷も痣もなく、美しい新雪のような髪は常に整えられていました。
 だというのに、私には貴方を守り切る力が無かったのです。
 腕や背中だけではなく、顔にまで傷を作らせてしまい、ほんのりと傷跡が残ってしまいました。
 見る度に、過去を想起する度に罪悪感で心が苦しくなってしまう。

「そうだ、ハウンド。 森に逃げて来てから、もうじき一年ね」

「っ……申し訳ありません」

「いいのよ、ハウンド。 過ぎたことを悔いても仕方ないし、私は貴方と一緒にいるだけでも幸せなのよ」

 お嬢様は私を手招いた。
 隣に座ると、甘えるように抱きしめられる。
 しばらくそうした後、お嬢様は私の胸当てに軽くキスをした。

5/27/2024, 2:34:45 PM

天国と地獄

 ああ偉大なる王よ、お助けを。
 シルクに包まり、子羊の肉を喰らい、贅を持て余せし王よ。
 この我に救いを。

「爺さん、また変な祈り捧げてんのか?」

「ああミシェル、可哀想なミシェル、どうしたんだい」

「爺さんに伝言を届けに来た。 置いたから、じゃあな」

 ミシェルは薄汚れた紙切れを机に置き、出ていった。
 皺まみれの手で紙切れを手に取った。
 裏面の焼印から察するに、聖職者の寄せ集めの組合からだろう。

「『過去からは逃れられない』? ……偉大なる王、偉大なる王よ……私の罪は、貴方が為の……!!」

 ああ忌々しい王子よ、裁かれよ。
 血に溺れ、火を喰らい、負債に生まれし王子よ。
 この我に復讐を。

 地に這い、偉大なる王の元で忙しなく国に尽くした日々を思い出す。
 黄金の城と白銀の騎士が地の果てまでを征服したあの日々を。
 右腕として執政に携わり、卜者として占いをし、聖職者として信仰を広めた。
 だが偉大なる王と、見目麗しき女王から生まれた王子は悪魔に取り憑かれていた。
 王子が成長し、次代の王として戴冠するあの昼下がり、彼は暴虐の限りを尽くした。
 
「お爺様、"悪魔"の巡回がそろそろですわ。 ほら、早く地下室へ行きましょ」

「アンナ……わかっとる」

 王子は城を乗っ取り、一夜にして城下町を、一日にして国を地獄へと一変させた。
 紫紺の城と黒曜石の騎士が国を支配する時代へと変貌させてしまったのだ。
 ああ忌々しい。
 やつのいる城は、やつにとっては天国だろう。
 だが、私にとっては城も国も時代も地獄としか言いようがない。

「ああ、アンナ」

「はい、いかがなさいましたか?」

「この地獄はいつになったら終わる?」

「……"天国"が地獄になれば、地獄と表現せずに終わりますよ」
 

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