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静寂の中心で(このお題難しいね……)

 そっと息を潜めた。
 心臓が鳴る。小さく、とくん、とくん、鳴り続ける。
 こんなにも静かな月のクレーター。わたしの音はあった。
 灰色の足元に、遠いきらめきが果てしなく淋しい宇宙。確かな静寂。

 目の前にある生まれ故郷は、いつの間にかスペースデブリが多くを占め始め、日照時間は激減していた。喧騒もやがては諍いになり、責任を押し付け合う日日。
 人類を徹底管理のもと統べた絶対統治も、ある日崩れ落ちた。それは知らない誰かの嘲笑から、落日と呼ばれた。
 白色の秩序は朽ち果て、灰燼と帰して、暗黒時代へ入る。
 絶対統治は人類だけでなく空も総ていたのだから、空も無秩序となるのは自明だっただろう。
 衛星の機能は止まり、スペースデブリとなり、そして草木がメを閉ざしていく。

 絶対当地の管理下でも、優良種と劣等種は存在していた。
 私は劣等種で、薄汚い静寂の中虐げられた。
 静寂はキライだった。
 落日を迎えた。
 好きとなる。

 静寂とは絶対の死を指す場合がある。それは静寂というよりも静謐が近く、あるいはただ単に無音と呼ぶかもしれない。
 しかし、肉体の死だけであればそれらを感じ取ることができる。音が無い、ということを感じるのだ。感覚器官が無くとも、幽体離脱的状況下における感覚は精神に対する刺激として解釈出来る。トラウマ、精神疾患なども刺激に対する敏感さとして言い表せよう。
 かつてこういった解釈を人類は親しんだ。しかし、絶対統治においては時間や時空もまた制御されていて、それらを感じ取ることは永劫として不可能なはずであった。

 統括しよう。
 月の大気を"肺"へと収める。無臭のような、埃っぽいような。
 足を踏み出す。かつん、かつん、歩き続ける。
 私の肉体は、絶対統治の崩壊――落日から数日後、肉体が死んだ。
 ヒトの統治が出来なくなったからだ。
 いまや、人類は精神だけとなった。絶対統治から解放されたと言うのに、人類は喜べない。誰が絶対を破ったのか誰もがせめぎ合う。
 諍いを嫌って、私は空へ飛び出した。精神体は不可視の感覚受容体でしかなく、肉体と比べれば不可能はないと言える。肉体に親しんだ人類は、未だに絶対統治に縛られている。

 静寂の受容。
 月の中心というものは、球である以上は核部分だろう。
 感覚の鋭敏化。
 表面であれば、つまらないことに縛られなければ何処でも中心に定義できる。
 束縛からの解放。

 ここが、宇宙という静寂の中心としよう。

10/7/2025, 3:54:10 PM