見咲影弥

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1/4/2024, 10:28:13 AM

私にとって幸せっていうのは、君と美味しいごはんを食べることだよ。

彼女は目を猫のように細めて言う。

それはよかった、と僕は心にもないことを言って皿を片付けた。彼女は食べ終えると、当然のように席を立ってスマホゲームを始めた。ゲームのタイトルは知っている。

「ときめきぷりん⭐︎プリンス・ファイナル」

流行りの乙女ゲームらしく、いよいよゲームも終盤らしい。推しのプリンスに貢ぎに貢ぎ、彼女は僕が二十歳からコツコツ貯めてきた貯蓄をも貪り始めた。寝る間も惜しみ、仕事もせず、画面の中の推しを見つめる。その目に、僕はもう映っていない。

彼女の幸せは、画面の中にある。

僕との幸せは、もうどうでもいいみたいだった。


エンディング間近、彼女は首を括った。

「彼のいない世界なんて、考えられない」

真っ白な紙に、それだけ書いて。

「彼」は、僕じゃない。
彼女の「幸せ」は、僕と紡ぐ日々じゃなかった。

やっぱり、と頬を緩める。

遺品のスマホを開いて「彼」と対峙した。

持ち得る総ての金を用いて、憎い「彼」を不幸にしてやろう。

その後、僕も首を括ろう。

彼女のもとにいこう。

それが今の僕にとっては一番の幸せなのだ。

1/3/2024, 12:31:36 PM

太陽が水平線から顔を出した。

彼女の顔が陽光に照らされて眩しい。

そうでなくても、あなたは眩しいのに。

「カナコは、どうしたい?」

彼女は聞くけど、そんなの決まってる。

「あなたにまかせるわ」

分かった、と彼女は上機嫌そうに頷く。

「じゃあ私、オーディション、受けるわ」

あなたの分まで、頑張るから。

彼女は声高々に言った。

私には……おそらく彼女にも、未来は見えていた。

彼女は、すぐさま脚光を浴びて有名な女優になる。

怪我で主演辞退を余儀なくされた私を見捨てて。

未来は、見えていた。



だから……

お願い。

もうこれ以上、眩しくならないで。



彼女の背中を、ありったけの憎しみを込めて前に押し出した。

1/2/2024, 1:57:21 PM

今年はおっきな小説の賞をとりたい。

天真爛漫な彼女は私の気持ちを考えもせずに、今年の抱負を述べた。

何をほざいてるのかしら。まだ十万字も書いたことないくせに。口だけは達者ね。

心の中で侮辱していた。

私よりさきにあの子がデビューするなんて。
そんな馬鹿な話ない。
こちとら15年も書いてるんだぞ。

噛む爪もなくなって、肉まで到達していた。

そんなこと、あってたまるか。
そんなこと……。




半年後。

彼女は新人賞をとった。

私は楽になるお薬の準備を始めた。

1/1/2024, 9:44:26 PM

明けましておめでとう。

おばあちゃんにとびっきりの笑顔で言った。

はいはい、おめでとう。

そういっておばあちゃんはぼくにぽち袋を渡してくれた。

中身を確認すると1000円。

小学生を舐めてるの?

思いっきり目の前で破り捨てて泣いてやった。

ぼくはまだまだ可愛い孫。

そうでしょ?おばあちゃん。

唖然として立ち尽くす彼女を挑発するように、泣き声を大きくしてゆく。

12/31/2023, 2:15:30 PM

良いお年を。

マミちゃんに言った。
彼女はくしゃっと顔を歪めた。

良いお年を。

彼女も呼応するように言った。彼女のマフラーはおろしたてで真っ白。

許せなかった。

彼女の首にナイフを差し込んだ。

許せなかった。

彼は、私のものだったのに。

あんたなんかに奪われてしまった。

あんたなんかに良い年なんか、来るわけないじゃん。

「ざまぁ」

彼女の血はぬくかった。

もうすぐ、今年が終わる。

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