私にとって幸せっていうのは、君と美味しいごはんを食べることだよ。
彼女は目を猫のように細めて言う。
それはよかった、と僕は心にもないことを言って皿を片付けた。彼女は食べ終えると、当然のように席を立ってスマホゲームを始めた。ゲームのタイトルは知っている。
「ときめきぷりん⭐︎プリンス・ファイナル」
流行りの乙女ゲームらしく、いよいよゲームも終盤らしい。推しのプリンスに貢ぎに貢ぎ、彼女は僕が二十歳からコツコツ貯めてきた貯蓄をも貪り始めた。寝る間も惜しみ、仕事もせず、画面の中の推しを見つめる。その目に、僕はもう映っていない。
彼女の幸せは、画面の中にある。
僕との幸せは、もうどうでもいいみたいだった。
*
エンディング間近、彼女は首を括った。
「彼のいない世界なんて、考えられない」
真っ白な紙に、それだけ書いて。
「彼」は、僕じゃない。
彼女の「幸せ」は、僕と紡ぐ日々じゃなかった。
やっぱり、と頬を緩める。
遺品のスマホを開いて「彼」と対峙した。
持ち得る総ての金を用いて、憎い「彼」を不幸にしてやろう。
その後、僕も首を括ろう。
彼女のもとにいこう。
それが今の僕にとっては一番の幸せなのだ。
1/4/2024, 10:28:13 AM