見咲影弥

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私にとって幸せっていうのは、君と美味しいごはんを食べることだよ。

彼女は目を猫のように細めて言う。

それはよかった、と僕は心にもないことを言って皿を片付けた。彼女は食べ終えると、当然のように席を立ってスマホゲームを始めた。ゲームのタイトルは知っている。

「ときめきぷりん⭐︎プリンス・ファイナル」

流行りの乙女ゲームらしく、いよいよゲームも終盤らしい。推しのプリンスに貢ぎに貢ぎ、彼女は僕が二十歳からコツコツ貯めてきた貯蓄をも貪り始めた。寝る間も惜しみ、仕事もせず、画面の中の推しを見つめる。その目に、僕はもう映っていない。

彼女の幸せは、画面の中にある。

僕との幸せは、もうどうでもいいみたいだった。


エンディング間近、彼女は首を括った。

「彼のいない世界なんて、考えられない」

真っ白な紙に、それだけ書いて。

「彼」は、僕じゃない。
彼女の「幸せ」は、僕と紡ぐ日々じゃなかった。

やっぱり、と頬を緩める。

遺品のスマホを開いて「彼」と対峙した。

持ち得る総ての金を用いて、憎い「彼」を不幸にしてやろう。

その後、僕も首を括ろう。

彼女のもとにいこう。

それが今の僕にとっては一番の幸せなのだ。

1/4/2024, 10:28:13 AM