ぬるくなった湯船の中で力を抜いた。少しずつ浮かぶ手足を見て薄笑い、私を失くした後の残骸はさぞかし軽いのだろう。肺の動きを小さくして、腹の底の全てを吐き出したら、それは、それは。
21グラム。哀しみと憎しみと、薄い期待と愛が詰まった重さがたったのこれだけ。持って逝けるこれが私の全て。なんて無情な事だろう。
来世、また私が私に還ったらあの向日葵の海へ行こう。何駅も渡って、次こそは。
何事も無かったように駆け足で過ぎていく情景が、無理やりにでも噛み合わせた上手く回らない歯車が、ミシミシと嫌な音だけを立てる。それが私はどうにも許せなくて、その歯車の隙間に自分の手を差し出してみた。今度こそそれは本当に嫌な音を立て始めて、痛みと熱と私の浅い呼吸だけがこの世の全てな気がした。なにをしているのかと問われれば、これはただの反抗心だ。
右向け右に習うのが息苦しくて、でも歯向かえば残るのは孤独だけで。事実、此処にはもう孤独しかなく、あったはずの貴女のぬるい温かさも感じられなくなってしまったことに耐えられなくなった私は、条理から背き左を向いてしまったあの時の私の過ちを許して欲しいがために手を差し出した。
貴女はもう還らない。それは貴女がした選択で、あの時私と共に左を向いてしまった貴女の罪だから。それでもその選択の中のひとつに私を入れてくれなかったことが、貴女にとって私はそれまでの人間だったことがやるせなくて、やるせなくて。
だからこれはただの反抗心。勝手に逝った貴女への。私を置いて逝った、愛しい貴女への。
椅子を蹴ったあの娘は宙ぶらりん。振り子が私をワルツへと誘う。1、2、3、4、縺れた私の足を引っ掛けた怪しい影に、お辞儀をすれば真っ逆さま。
あの娘は何処へ行ったろか、あの子も何処へ行ったろか。
沈められた頭の上でひたすら鳴く阿房鳥。昇りきらない朝日が連れ去っていったあの藍が、私の寂しさを駆り立てた。愛した白波、私は泳げないけれど、踏み入れた足はもう返してはくれない。
最期に、波の隙間にあなたを見た。憎くて仕方の無いあなたの顔だった。
私の死期を憂いた貴方の心に触れた時、私の全てが許された気がしました。ぶっきらぼうな、たったひとつの言葉だったけれど、私は確かにあの時、まだ生きようと思えたのです。
あれから何年と時が経ちました。
貴方のあの優しさが、今もまだ残っていたらいいなと、願わずにはいられないのです。