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2/7/2024, 2:22:35 PM

どこにも書けないこと
「私は好奇心旺盛な子供でした」
「頭に次々と謎が生まれ、それを解決する事を大きな楽しみとする子供でした」
「その好奇心の行き先は主に生き物でした」
「物心ついた時から、ずっと」

「蟻を水の中に入れたらどうなるか、とか」
「ナメクジを塩漬けにしたらどうなるか、とか」
「蝶の羽を全て毟ったらどうなるか、とか」
「蛹を破ったらどうなるか、とか」

「少し言い訳をするならば。当時の私はまだ文字が読めぬ年頃でしたので、本で確かめるという手段が取れませんでした」
「おまけに両親は大の虫嫌いでしたから、何となく悪いことの様な気がして、誰にも尋ねようとは思いませんでした」
「…いえ、文字が読めても実験をしていたかもしれません。自分自身で確かめた、という実感は本当に、本当に、他の何にも勝るものだったのです」
「実験だ!なんて、小賢しい言葉を使って」
「気の向くままに実験を繰り返していたある日、誰かから言われたのです」

「やめなさい、それは悪い事だ。と」

「その頃には、もうとっくに文字も読める様になっていました」
「親か、友達か、はたまた先生からか。今となってはあやふやで、怒られたというショックだけが残っておりますが」
「私は初めて、実験が悪い事だと知りました」
「自分が何ら悪いと思っていなかった事で叱られましたので、私はとても不安になりました」
「私はとても大人しい子供で、褒められる事こそありましたが、叱られる事など滅多にありませんでした」
「叱られる事に慣れていなかったのです」
「やめよう。と、強く思いました」
「我慢しよう。と、強く思いました」

「その結果。我慢、できちゃったんです。できてしまったのです」
「それは私にとってとても不幸なことでした」
「私はその好奇心が誤りであると知っているのです」
「消さねばならないと知っているのです」
「しかしながら消えてくれないのです」
「自分の疑問を自分で確かめ実感として知識を得る事の快感が」
「頭の中に残ったそれの残滓が消えないのです」
「今もなお、ずっと」

「大人になったら消えるだろうと若い頃は信じていました。そうですね、高校生までは信じていました」
「大人になったら私のこの好奇心も鳴りを潜めて、周りと同じ様に真っ当に生き物を愛せるのだろう」
「それがきっと大人になるという事なのだ。と」
「結果としては、消えるどころか強くなって、ますます私は己の自制心を鍛えるハメになっていますが」

「最近、考えるのです」
「もし、昔と同じ様に実験ができたら。と」
「ニュースで捕まる人を見て思うのです」
「良いなぁ。なんて」

「誰しも特別に憧れるものです」
「特別に憧れ胸を焦がし地から見上げるその姿こそが、平凡な人間であるという証拠なのに」
「そしてそれは私も例外ではなく」
「とはいえ、子供の時分とは違い、私も色々なこの世のしがらみやら縛られておりますので」
「実行する勇気が全てを失う恐怖心を上回る事はありませんが」
「そんな中途半端でどっちつかずな、逃げることばかり上手くなった自分が、何だかとても嫌になってしまって」
「とても醜悪なものに思えて」
「鬱屈とした気分になってしまったのです」
「誰かに相談しようにも、こんな事誰にも言えませんから」
「もし言ったら、きっと遅い厨二病だと笑われてしまうでしょうから」
「それだけは絶対に嫌でしたから」
「だから、この手紙を書きました」
「誰に宛てたものでもありません」
「燃えて消えてしまうなら良いだろうと」
「この行事の趣旨と少しズレた内容を書いた事を深くお詫び申し上げます」

「最後に」
「私は、私の狂気が、私を苛む好奇心が」
「この世の何より美しいエメラルド色である事を、切に願っているのです」
「いつか平凡で醜い私を食い破って、その残酷なエメラルド色で羽ばたく事を」
「心の隅で願っているのです」

《キャスト》
・語り手
一般企業に勤めるサラリーマン。虫が好き。少しスッキリしたらしい。
《補足》
・『この行事』
後悔を手紙にして燃やしてスッキリしましょう!という行事。実際にあるかは分かりませんが、作中のものは架空です。

2/3/2024, 1:00:59 PM

1000年先も
「なあ親友」
『何だ相棒』
「お前1000年後何してると思う?」
『雑だな』
「何も思い浮かばなかったんだ。しゃーない」
『1000年あったらお前からの友達料金で家買えそうだな』
「払った覚えねぇけど?!」
『10年後くらいにまとめて取り立ててやるからな。待っとけよ』
「身に覚えのない請求が来たら優しくそっ閉じしましょう!って先生が言ってた!」
『無視すんなよ。激しくリンクをクリックしちまえよ。そして自分の好奇心に牙を剥かれてしまえ』
「人生の先駆者からの助言守る系男子だから。俺」
『はっ。どうだか』
「お前の誘惑には屈しない!」
『魔王軍最弱のお前に何ができる』
「せめて四天王にしてよ。てか俺が悪役?!」
『俺は絶対的に正しいからお前悪な』
「ラノベだったら神に叛逆する感じの主人公になれる設定。ダークヒーロー俺!かっちょいい!」
『ダッセ』
「ひっど。心無い暴言に傷ついた俺が復讐の旅に出たらどうすんだよ」
『心のDEFカスじゃんワロタって鼻で笑う』
「これが原因で俺と親友との1000年に渡る争いが起きるんだろうなあ」
『何で争う?』
「俺が勝てる奴にしよ?」
『え、何がある?』
「ガチめの困惑やめろやテメー。あるだろほら!…ジャンケンとか!」
『この前十連敗したのに?』
「何のことかなー」
『クラス全員参加のジャンケンでただ一人グーを出して負けたのに?』
「どうやら親友は俺にはない記憶をお持ちでいらっしゃる様だ」
『そんな局所的に記憶喪失になるもんなの?都合の良い脳みそしてんな』
「グーを出すのは闘志が強い証だろ!褒めろよ!」
『クラス全員が謎の感動に包まれてはいたから、取り敢えず言っておこう。感動をありがとう』
「もうホントに…笑えよ、俺の不運を」
『膝から崩れ落ちる相棒の愉快…じゃない悲痛な表情と周囲のどよめきのコントラストが大変芸術的でした。これからも頑張ってください(笑)』
「やっぱ笑うな!」
『(笑)』
「腹立つー!」

『あ』
「あ」
『予鈴なったな』
「サラダバー!」
『元気に生きろよ』
「俺、放流される魚か何か?」

《キャスト》
・相棒
何かと不運。
・親友
双子の妹がいるらしい。

2/2/2024, 12:06:16 PM

ブランコ
「ブランコって、怖い話に出てき過ぎだと思いません?」
『言われてみれば確かにね。他の遊具より頭一つ抜けてる感はある』
「幽霊にも動かしやすいんですかね?ぶらぶらしてますし」
『かもね』
「特に今みたいな薄暗ぁい夕暮れ時なんて、怪談話の王道ですよね」
『そうだね』

「…先輩」
『…何?後輩ちゃん』

「あそこで虚無の顔で延々と物凄い勢いでブランコ立ち漕ぎしてるのって新人くんですよね?!」
『…僕には何も見えないなぁ』
「思いっきり目が泳いでますよ!」
『現実なんて見たく無い』
「直視してくださいよ!少なくとも私を置いていかないで!先輩でしょ!」
『ホラーに年齢なんて関係ないんだよ』
「お化けじゃないですよ!知り合いですよ!」
『その事実がより一層恐怖を掻き立ててるんだよ』
「こんな唐突に人怖なんて体験したくなかったです」
『僕もだよ』
「え、あれ。声とか掛けたほうがいいですかね?」
『分かんない。何にも』
「これ、新人くんが幽霊に取り憑かれてるとかじゃ無いですよね!助け求められてる?!」
『いや、でも、あの虚無顔なに?悟り開いた顔してるよ?何なのあれ?』
「もしかして何か悩みがあったり?!思い詰めてる?!」
『どのみち話しかけなきゃ始まらない…よね』
「そ、そうですね。はい」

[どしたんすか]

「うっひゃあ!」
『うわぁ!』

《キャスト》
・後輩
ホラーはフィクションだから楽しめるタイプ。リアルは無理です。
・先輩
頭を使う系の怖い話が好き。意味怖とか。リアルは無理。
・新人
久しぶりにブランコに乗ったら止め方が分からなくなった人。何やら二人が深刻そうな顔で話していたので、何かあったのかと心配になり気合いで飛び降りた。真似は厳禁。

1/29/2024, 12:42:40 PM

I love…
「や、お久」
『久しぶりぃ』
「元気そうだね」
『元気だよ』
「忌々しい」
『んふふ』
「君がご執心のあの子はいないの?」
『いたとしても合わせないよ?』
「そっか。残念」
『残念だったね』

「や、お久」
『おひさぁ』
「君がご執心のあの子は随分とご立腹の様だけど」
『あの子はぼくが嫌いみたいだからね』
「嫌われてるの?」
『憎まれてる』
「それは残念だったね」
『そうだと良かったんだけどね』

「や、お久」
『白々しいね。ずっと居たくせに』
「バレてたか」
『バレバレだよぉ』
「腹立つ話し方。わざと?」
『わざと』
「あの子の前じゃずっとそう」
『そうだよ』
「変えないの?」
『変えないよ』
「何で?」
『こっちの方が嫌ってくれるから』
「嫌われる方がいいの?」
『嫌われる方がいいみたい』
「何で?」
『どうしても?』

「や、お久」
『おひさぁ』
「ズタズタだね」
『全部あの子がやったんだ』
「ざまぁみろ」
『ぼくは嬉しがっている様だから、ノーダメだよ』
「変態め」
『きしし』
「死なないの?」
『このくらいじゃあ死なないよ』
「そっか、残念」

「や、お久」
『久しぶりぃ』
「ねぇ」
『うん?』
「何であの子に嫌われたいの?」
『何でって。嫌われたら、ずっと覚えていてくれるでしょう?』
「君はあの子が嫌いなのかい?」
『好きだよ?大好きさ!』
「好きな相手に、自分を好きになってほしくはないの?」
『全く?』
「どうして」
『ぼくを好きになるあの子なんて見たくないから』
「めんどくさいね」
『それとね、ぼくを覚えてて欲しいの。愛情よりも憎しみの方が長続きしそうだから、憎まれたいの』
「そうなんだ」
『うん。過ぎた愛情と憎しみは、大して変わらないものなんじゃないかなって。ぼくの持論だけど』

 それに、

 憎んでる間はずっと、ぼくを見てくれるだろ?

 ぼくはぼくを憎むあの子が大好きなんだ

《キャスト》
・オオクチボヤさん
とてもめんどくさい。

1/25/2024, 12:49:34 PM

安心と不安
昔々
ここら一帯は悪い魔物の縄張りであった
その魔物は緑豊かな山々を荒らして茶色にしてしまうので、村人達は大変困っておった
ある日、その噂を耳にした偉大な巫女が村に来た
巫女は魔物を縄で縛り井戸に封印しこの村に平和をもたらしたとさ
「って言うのがこの村の伝説。もとい神様の封印された経緯なんだけど」
『へえ、そんな風になってるんだ』
「他人事かよ」
『いやぁ。荒らしたつもりなんてなかったからな』
「じゃ。この話って嘘なの?」
『分っかんないなぁ。もしかしたら村人達には、おれが恐ろしい化け物に見えてたのかもしれません?』
「こんなに優しいのに?村人達が神様のことを怖がり過ぎただけだって。きっと」
『人間はぼくのこと、かみさまって呼ぶんだね』
「みんなは魔物って呼ぶけどね。ボクにとっては神様だよ!ボクからしてみれば、村の奴らの方が魔物みたいだ。今日だって!」
『何かあったのかい?』
「嘘つき呼ばわりされて揶揄われたんだ!それに石も投げられた。大人達もヒソヒソ話してばっかりで助けてくれないし!」
『嘘つきってどーして?』
「お化けが見えるって嘘ついてるって言うんだ。本当のことなのに!きっとああいう奴らみたいなのを“井の中のカワズ”って言うんだ!何にも知らないでさ!」
『?』
「井戸の中にいるカエルが海を知らないで、世界が井戸の中だけだって思い込む、って言う例えだよ。確か。ま、本当に井戸にいるのは神様だけど」
『人間は海を知ってんの?』
「行ったことないけど、話には聞いたことあるよ」
『そうですか』
「でも、まあ、神様とこうしてお喋りできるから、見えててよかったなって思うよ」
『わたしも、人間とのお喋り楽しいわ』
「本当?!なら良かった!」
『ところで、いつもならとっくに帰ってる時間ですけれども、帰んなくて良いの?』
「帰りたくないもん」
『なぁんで?』
「お母さんと喧嘩した。つまんない嘘つくなって。そのせいで近所の人から白い目で見られるって」
『あらら』
「あ、あと!いつもボクを虐めてくる奴がね、ここに肝試しをしに来るんだって!今日!だから、草むらに隠れて脅かしてやるんだ!」
『ここにですか』
「そう!枯れ井戸に行くって騒いでた。村に枯れ井戸なんてここしかないから。きっともう直ぐ来るはず!」
『隠れるなら井戸の中がいいんじゃないか?』
「え、入っていいの?」
『え、悪いのぉ?』
「だって、この辺、入っちゃダメなとこだし」
『枯れてるから溺れねぇよ』
「いや、そうじゃ」
『わしは昔話みたいに悪いことなんてしませんよぉ?人間のこと大好きだから』
「うん、うん!そうだね!井戸の中から飛び出して脅かしてやろう!腰抜かした姿を見て笑ってやる!」
『きしし。その意気じゃ』

「あ!来た!ふふふ、屁っ放り腰で提灯突き出してるよ。ビビりめ、普段大口叩いてるくせに、情けないなぁ」
『楽しそうだな』
「うん!笑い過ぎて咳が出ない様にしないとね!」
『ふふふ、がんば』
「あ!あいつん家のにいちゃんも居る!なんか抱えてる?暗くて分かんないや」

「そろそろ静かにしないと、気づかれちゃう。しー、ね、神様」
『はい。しー、ね』

 わっと飛び出たその瞬間
 頭にバシャリと何かが掛かり
 次いで悲鳴と赤いもの
 余韻に浸る暇も無く
 黄色い灯りが身を包む

 ぎやぁぁぁぁ!

『人間、楽しそう!ずっと笑っておるなぁ!』
『そんなに笑うと咳が出ちゃうわ』
『あれ?動かなくなりました?』
『おうい、人間よ。どうしちまったんだ?』
『なるほど、寝たんだね』
『いいよいいよぉ。寝かせてやろうぞ』
『ワタクシは人間を愛してるから』

 己が身じろぎするたびに
 ゆらりたなびく荒い縄
 可愛い可愛い人間が
 自分にくれた贈り物
 千切れていても大事にするよ
 気づかないふりを してあげる

《キャスト》
・少年
死体は見つからなかった
・神様
人間大好き。でも、笑い声と悲鳴の区別ができない程度に人間を知らない。良くも悪くもないが傍迷惑ではある。

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