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3/4/2024, 12:58:01 PM

ひなまつり
 私には、上に四人の兄がいます。
 母は姉が一人いて、父には兄が六人もおりました。
 ええ、ビックリでしょう?何でも、父の家系は昔から多産らしいです。家系図を見てみると、中には十五人兄弟なんて記録もあるのです。一妻一夫で、ですよ。

 父は、他の兄弟達とはやや歳が離れておりまして、兄達からそれはもう可愛がられたらしいのですが、何しろやんちゃな人達ですから。何度も何度も喧嘩をして、その度に泣かされたそうです。妹か弟が欲しい。というのが当時の口癖だったそうです。

 一方母はと言いますと。母の姉はとても気が強い人で、母は守られる事もありましたが、窮屈な思いをする事も多々あったようです。母も弱い人では無かったので。妹が欲しい。と、誕生日の度、祖母にそうせがんだそうです。

 だからでしょう。私が生まれた時はとてもとても喜んだそうです。今でも毎年この時期になると、親戚中から先程の話を聞かされます。お陰でもうすっかり憶えてしまいました。


 ところでこの雛人形達。凄く立派でしょう?父方の祖父と両親が張り切って用意したものだそうです。生まれたばかりの私を見てすぐに、工房に電話しろ!と叫んで祖母に叩かれた。とよく聞きました。

 まあ、ですから。この雛人形達は私が愛されている証拠。とでも言いましょうか。私にとって殊更に大切で、思い出深いものなのです。

 この小さなお座敷一杯に広がる極彩色が、私は好きでした。いえ、過去形ではありませんね。今でも好きです。準備も片付けも大変だとは思いますが。

 前述の通り、我が家は兄弟が多いので、一人部屋なんて貰えなかったんですよ。一人っ子の友人が、一人で寝るのが寂しいと零すその側で、良いなぁと羨んでおりました。

 しかし、ひなまつりで雛人形達が出される一ヶ月間だけは違いました。

 雛人形達を飾る、普段は物置になっている小さなお座敷が、私の部屋になったのです。

 兄達は、昔に一度吊るし飾りを引きちぎってしまったらしく、それからお座敷には出入り禁止になっていたのです。私がまだ物心つく前の話だそうですが。

 ですから、雛人形達が出されてから仕舞われるまでの一ヶ月間だけ、私は自分だけの小さな小さなお城を手にすることができたのです。

 そこでやる事と言ったらお人形遊び一択でしたね。何しろほら、こんなに綺麗な雛人形でしたから。

 その日も、そうしておりました。

 私の一等のお気に入りは、一番上のあの二人です。ええ。お内裏様とお雛様、と呼ばれている彼等です。

 実は、お内裏様というのはあの二人を指していて、お雛様というのは、雛人形達全体を指しているそうですよ?作詞者が間違えて、そのまま世に広まったらしいです。

 ああ、すみません。人形の話ですね。

 いつもの様に遊んでいると、人形のすぽんと頭が取れてしまいましてね。壊したかもしれない!一瞬怖くなりましたが、それ以上に人形の頭を間近で見れる事に興味が湧いたのです。

 雛人形って、結構糸目でしょう?中の瞳の色が良く分からないくらい、細い目をしてるんです。

 見えないそれが何となしに気になって、そっと首を傾けて覗いてみたんです。

 そしたらまあ、ビックリ!目が合うんですよ!

 ふふふ。怖いですか?安心してくださいな。光の反射でそう見えていただけのことですから。タネも仕掛けもちゃんと存在していることです。

 私の真上に明かりがあって、それがお人形の細い目にハイライトを入れていただけのことなんです。この後も何回か、お人形と目を合わせてみたくって、おんなじことをやったんです。それで気づきました。

 でも、当時の私もあまり怖いとは思いませんでした。怖がるにはあまりにも、私にとって雛人形というものは、身近で好意的過ぎたんです。

 あら、続きもオチもありませんよ?ただの私の思い出話です。

《キャスト》
・語り手
ミニチュア大好き。

2/23/2024, 5:33:43 AM

太陽のような
「こんにちは」
『こんにちは』
「今日は薄暗いですね」
『そうですね』
「何故ですか」
『何故でしょうね』

「思い出しました」
『何をですか』
「何で薄暗いのかです」
『分かりましたか』
「はい太陽がないからです」
『そうですか』
「大変ですね」
『大変ですか』
「そうです」

「私は太陽を作ろうと思います」
『そうですか』
「どう思いますか」
『いいと思います』
「では作ります」
『頑張ってください』

「太陽ができました」
『よかったですね』
「でもおかしいです」
『何がですか』
「太陽はこんな色じゃないです変ですおかしいここは何処ですか」
『元はどんな色なんですか』
「私が知っている太陽はあもはし色ですさにやたる感じのここは何処ですか」
『そうですか』
「それに空も何ですか変ですここは何処ですか」
『そうなんですか』
「こんな不気味な色じゃないですここは何処ですか」
『では』
「かなひした感じのましなるや色ですこんなじゃないここは何処ですか」
『そうですか』
「全部全部変ですここは何処ですか」
『困りましたね』
「困ったので全部作り直しますここは何処ですか」
『頑張ってください』

《キャスト》
・迷子
困った
・知らない人
知らない

2/12/2024, 6:57:01 AM

この場所で
「父上」
『どうした?息子よ』
「今日から教師殿が古語を教えてくれるんです」
『そうか、彼奴の事はわしもよく知っておる。きっと分かりやすく教えるであろう。確と学べよ』
「はい!…あの、父上」
『ん?』
「古語は大変難解だと聞きます。もし、分からないところがあったら、聞きに来てもよろしいですか?」
『ううむ。教えてやりたいがな…』
「やはり駄目でしょうか」
『ああいや、なに。恥ずかしい話ではあるのだが、私は古語が読めんのだ』
「え?」
『昔は今ほど古語の研究が盛んではなくてな、読めない文字も多く、学ぼうとする者もいなかったのだよ』
「そうだったんですか」
『ああ、今から学ぼうにも多忙ゆえままならん。それに、臣下達からも反対されてなぁ。すまんな』
「いえ!」

[それではここで一旦休憩としましょうか]
「はい」
[ああ、そうだ。殿下]
「何ですか?」
[無礼を承知で申し上げますが、絶対に陛下に古語を教えないでください]
「どうしてですか?」
[…どうしても、です。どうかお願いします]
「あ、頭を上げてください!分かりましたから!」
[ありがとうございます]

「父上!綺麗な花畑ですね!城にこんな場所があったなんて!知りませんでした!」
『ははは、はしゃぎ過ぎて転ぶなよ』
「もうそんな子供じゃありません!」
『そうだな、本当に大きくなった』
「…父上?これは、一体?」
『ん?ああ、それは墓だよ。わしの親友のな』
「父上の、親友の…?」
『おお、そうだ!』
「は、はい?」
『お前にはこの墓の文字が読めるか?どうやら古語で書いてあるようなのだが』
「…ご、ごめんなさい父上。読めません。その、難しくて」
『そうか、やはり古語とは難解なのだな。今までもこれを読めた奴はおらんのだ』
「父上のご親友は、どのような人だったのですか?」
『博識で、よく頭の回る奴でな。最後の最後までわしについて来てくれた。一番の忠臣だよ』
「そう、だったんですね」
『奴の遺言でな。一日に一度、わしが幸せだと感じた事を、この場所でこうして報告しておるのだ』
「父上にとって、大事な友人だったんですね」
『ああ。…病で呆気なく死におってからに』
「…」

 帰る間際に振り返る。
 墓に刻まれた文字を見る。

Everything you tell me is what you took from me before.

《キャスト》
・王様
大規模な革命を起こし王になった。
・王子様
教えないことにした。
・教師
全てを知って何もできなかった。
《補足》
・古語
≠英語。表現の都合上こうなりました。

2/10/2024, 8:51:50 AM

花束
「やぁ」
『やぁ?』
「久しぶり」
『久しぶりだねぇ』
「今回行ってきた島にはね、花束が落ちてたんだ」
『ふぅん?』
「たくさんたくさん落ちてたの」
『どのくらいなのぉ?』
「道が見えなくなるところまで。ずぅっと」
『へぇ』
「オオクチさん。道って知ってる?」
『知ってるけど、知らないよぉ』
「そっか」
『そうだよぉ』
「何で落ちてるんだろうって気になったからね、ぼくは花束を追っかけたの」
『何でか分かったぁ?』
「ちゃんと分かったよ。せっかちなオオクチさん」
『ふへへぇ』
「花束の先には巨人さんが居てね、どこかのお家の賢いお兄ちゃんみたいに、花束を置いて行ってたの」
『ふぅん?』
「それでね、ぼく聞いたんだ。何で花束を置いてるのって」
『それでぇ?』
「自分は体がとても大きくて、知らないうちにたくさんたくさん小さな生き物を殺しちゃうからだって、巨人さんは言ったんだ」
『それで花束ぁ?』
「うん。それで殺しちゃった生き物たちを弔うんだって、許してもらうんだって、言ってたよ」
『そっかぁ』
「巨人さんの身体にはたくさんたくさんお花が咲いててね、それを引っこ抜いて、巨人さんは花束を作ってたんだ」
『とってもファンシーな巨人だねぇ』
「うん。すごく綺麗な花たちだったよ。お手伝いをしてくれてるんだって、巨人さんは言ってたよ」
『花は知らないけど知ってるよぉ』
「先越さないで!」
『ごめんねぇ』
「ぼくはしばらく巨人さんについて行ってたの」
『何で?』
「何となく」
『そっかぁ。そのままずっと旅しなかったのぉ』
「オオクチさん拗ねてる?気持ち悪いね」
『んひひっ』
「旅はね、ずっとはできなかったの」
『どうしてぇ?』
「巨人さんが崩れちゃったから」
『あららぁ』
「崩れた巨人さんは動かなくなってね、お花たちは喜んでたんだ」
『へぇ』
「私たちの仲間の命を何千年もの間奪い続けた悪しき巨人を、やっとやっとやっつけた!って言ってたよ」
『悲願達成おめでとぉ?』
「ホントにね!」

「今回はここまでね。じゃあね」
『じゃあねぇ』

《キャスト》
・ベニクラゲさん
ふわふわの生き物。オオクチボヤさんが大嫌い。ちょっとだけ賢くなった。
・オオクチボヤさん
ぶよぶよの生き物。ベニクラゲさんが大好き。でも憎い。変わらない。

2/8/2024, 1:22:57 PM

スマイル
「俺のスマイル一つ千円でどう?」
『は?気でも触れたか?』
「ガチトーンやめよ?俺のガラスの心が砕け散る」
『ワイヤー入り強化ガラスの心が?』
「うん。粉っごなに爆発四散する」
『スゲェな俺の言葉の力。物理的に人殺せそ』
「言葉は簡単に人を物理的に傷つけるんだよ!だから用途容量を守って適切に使いましょう!」
『どこぞのCMにありそうな文言』
「その笑顔は本物ですか?心の涙に気づいてください。ちゃー↓らー↑」
『その涙はきっとオランダの涙』
「何それ」
『ggrks』
「またそんな攻撃力高い言葉使って!今充電5%なの!教えてシンユウえもん!」
『語呂わっる』
「それな」
『ほい。こんなん』
「うわー。爆発してる。やば」
『傷つけた側に自分を犠牲にして強めのカウンターを仕掛けるその在り方嫌いじゃない』
「こうやって争いの連鎖が起きるんだ。俺知ってる」
『歴史赤点がほざきおる』
「あーまた!なんか今日刺々しくない?」
『いつもの事だろ』
「それもそうか」
『んで、お前何?金欠なの?』
「話がやっと戻った。そーなんだよ!赤点取ったからお小遣い減額されちゃって!好きなゲームの新作出たのにー!」
『それで友達に金をたかるのか』
「うん。俺の笑顔が見られるなら安いものでしょ」
『千円払っても良いけど』
「マジ?!」
『その代わり俺がお前を笑顔にしたら一万くれよ』
「え、プロポーズ?」
『頭沸いてんのか』
「心に響くその言葉」
『それでも傷はつきません』
「そんな、大きなカブみたいな。最終的にはみんなで寄ってたかって俺に暴言吐いてくんのかな」
『それでも傷はつきません』
「俺の心強すぎない?無敵じゃん。どこか系の小説サイトで無敵、無双、チートってタグ付けされる奴だ」
『無敵強化ガラス製の心を持つ俺の異世界無双!〜俺を傷つけた奴はチート能力“オランダの涙”で爆発四散!今更謝ってももう遅い!お前ら全員吹き飛ばしてやるからな!〜的な?』
「あっははは!最高!百点!それっぽい!ん?…待って?これ俺犠牲になってない?敵と一緒に粉々になってない?自爆型の能力とか地獄じゃん」
『今笑ったな?わーい一万ゲット』
「しまった!」
『相棒の笑いのツボが想像以上に浅い。帰ったら速攻で爆笑動画漁って送りつけて荒稼ぎしたろ』
「ちょっと?!」
『あ、こないだ面白い動画見つけたから送るわ』
「テンションの温度差えぐ過ぎて風邪引いちゃう」
『引いたら看病しに行ってやるよ』
「親友がお粥で一人闇鍋してダークマター作り上げた時の恨みは忘れてないからな!病人を労われ」
『顔見に行ったら思いの外元気そうでつい』
「ついじゃねーよ!ついじゃ!あれのせいで熱上がりそうだったわ」
『そうって事は上がらなかったのか』
「次の日も学校休めると思ったのに!俺の期待を返せこの野郎!」
『すまんなぁ。あ、動画いる?』
「いる。お前の笑いのツボ、ホント謎だからどんな気持ちと表情でこの動画送りつけてんだろって想像するとそれだけで笑える」
『わーいまた一万ゲット』
「俺とした事が!」

《キャスト》
・相棒
新作ゲームは親友とお金を出し合って買ったらしい。
・親友
買ったゲームが思ったより面白くて前作を揃えようか検討中。

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