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1/24/2024, 1:19:54 PM

逆光
「わたし、逆光ほど嫌なものはないと思うの」
『それは何故です?』
「だって、形しか見えないじゃない」
『ふむ?』
「期待して近づいて、形だけが似ているナニカだったらがっかりなんてものじゃないわ」
『成程、分からなくもないですね』
「でしょう?」
『ビニール袋と白い生き物を見間違える様な感じですか?』
「全然分かってないじゃない!そんなのよりももっと酷いわ!もっと残酷よ!」
『そうですか』
「それに、近づいてみないと分からないのも嫌。何だか不公平よ」
『不公平?』
「そう。光がわたしの邪魔をするの。そして相手の味方をするの」
『味方、と言うほどとは思えませんが』
「してるわよ。なによ!自然は平等じゃないの?!」
『まあまあ少し落ち着いて』
「…」
『落ち着きました?』
「そうね」
『では、続きを』
「あと、自分が暗いところにいるって、嫌でも分かっちゃうのも嫌」
『暗いところ、ですか』
「暗いわよ。真っ暗。何もない。後ろしか見えない」
『そうですね』
「前はもっとちゃんと見えたのに、最近は形しか分からない」
『…』
「何で?今までは区別できてたのに!どうして?!」
『どうしてでしょうね』
「またあの人じゃなかった!わたしが愛したあの人じゃなかった!どうして来てくれないの!」
『どうしてでしょうね。本当に』
「嫌!嫌よ!」
『そうでしょうね』
「自分がどんどん壊れてく!掠れてく!」
『消えはしないので、安心してください』
「どこにも行けないの!誰も来ないの!」
『嗚呼、もう聞こえていませんね』
「何で!何で!」
「何でわたしは暗いところにいるの?!明るいところに行けないの?!」
「酷い!酷いわ!不公平よ!」
「こっちからは見えるのに!あっちは気づいてすらくれないの?!」

 形が似てるだなんて失礼な
 誰の耳にも入らない叫びにため息を落として
 カラスが一羽飛び立った

《キャスト》
・???
どこにも行けない。可哀想とは思うなよ。
・カラスさん
知識欲旺盛なカラスさん。“さん”までが名前。

1/23/2024, 12:25:20 PM

こんな夢を見た
「昨日、変な夢を見たんです」
『変な夢?どんな?』
「私は私の部屋にいて、さあ寝ようとしていたんですが、ふと壁に小さな蜘蛛がいることに気づいて」
『蜘蛛』
「多分アレはハエトリグモだ!って思いましたね」
『はえとりぐも』
「家の中にいる、一センチくらいのぴょこぴょこ動く奴です」
『へぇ。そいつがどうしたの?』
「もし見たのが昼間だったらそのまま放っておくんですが、寝る前だとどうしても放っておけなくて」
『どうして?』
「寝てる時に口や鼻や耳の中に入ないか怖くて。昔、そういう怖い話を見て、それが思いっきりトラウマと化してるわけですが」
『君にも怖いものとかあったんだね。それで?その蜘蛛は?退治したの?』
「はい。ハエ叩きで」
『ハエ取る蜘蛛がハエ叩きでやられるって、ちょっと面白いね』
「先輩の面白いの判定基準が分からない…」
『ふふ』
「話を戻しますが、ハエトリグモって結構耐久力があってですね、一発叩いたくらいじゃ死なないんですよ。だから、何回も叩きました。ぺしぺしと」
『ぺしぺし』
「はい。ぺしぺし。そうしたら、ハエトリグモは動かなくなったので、ティッシュに包んで捨てました」
『今のところ、特におかしくは無いけど』
「ここからですよ。無事蜘蛛を退治して私は眠りについたわけですが」
『夢の中でさらに寝たんだ』
「はい。なんなら夢も見ました。それが本題です」
『前置きが長かったね』
「夢のそのまた夢の中の私はお風呂に入っていました」
『ふぅん』
「何やら視線を感じて前を見ると、蜘蛛がいたんです」
『また蜘蛛か』
「私は直感でアシダカグモだと思いました」
『でかい奴ね』
「でも、どう考えてもソイツはアシダカグモなんかじゃなかったんです」
『どういうこと?』
「ソイツは頭が無くて、お腹が風船みたいになっていて、全身が薄茶色でした。例えるならそうですね、風船を背負ったセピア色のザトウムシです」
『ざとうむし』
「あ、アレにも似てました。生物で習った…あの、何でしたっけ?莫大なファンタジー?」
『何それ?…もしかして、バクテリオファージ?』
「それです!それ!」
『それはどう考えてもアシダカグモじゃないね』
「はい。本当にそうなんですが、なぜか夢の中の私はソレをアシダカグモだって確信してたんです」
『確かに奇妙だね』
「もっと奇妙なことに、私は、その蜘蛛は私に復讐をしに来たんだって思いました。あの時のハエトリグモの敵討ちをしに来たんだって、確信してました」
『穏やかじゃない夢だね』
「ここで私は夢の中の私が私ではないことに気がつきました」
『うん?』
「分かり易く言うと、夢の中の私…仮称夢ちゃんとしましょう。映画館で映画を観るみたいに、夢ちゃんが見てる景色を、感情を、私はスクリーン越しに見て感じてたんです」
『現実味が無かった、と?』
「そもそもが夢なんですから、現実味が無いって表現するのも変な話ですけど」
『それもそっか』
「夢ちゃんは察しはいいのに幼い子供みたいでした。アシダカグモの憎しみに気づいていても無関心で」
『図太い子だね』
「ずぅっと、アシダカグモのお腹を見てました。潰したらどんな音がするかなって」
『サイコパス幼女か』
「サイコパスというよりも、本当に幼い子供ですね。まだ生き物の命よりも自分の好奇心を優先しちゃうお年頃ってだけの、純粋な子供です」
『なるほど。幼いが故の残酷さか』
「あの風船みたいなお腹を潰したら、きっとパチンッと気味のいい清々しい音がするのだろうってそればっかり考えてました」
『ふぅん』
「気づかれたことに気づいた蜘蛛は、一心不乱に向かってきました。その長い脚を縺れさせながら、水面を懸命に走って来ました。…よっぽどハエトリグモの事が大事だったんだなって分かる、なりふり構わない走りでした」
『…』
「しかし、夢ちゃんにとって蜘蛛の復讐などどうでも良い事でしたので、向かってくる蜘蛛のお腹を摘んで潰しました。…待望のお腹の音は、ぷしゅう、と何とも味気ないものでした」
『あらら』
「期待していた音が鳴らなかったので、夢ちゃんは酷くがっかりして蜘蛛を放り投げてしまいました」
『子供は飽きるの早いもんねぇ』
「お腹が潰れた蜘蛛は、それでも向かって来ましたが、パチンっでは無かったモノなどに意識を向けるのも嫌だった夢ちゃんは、蜘蛛をシャワーで流して捨てちゃいました」
『ちょっと可哀想な話だね』
「私はそこで目が覚めたわけですが、何でかとてもやってはいけないことをした様な、そんな気持ちでいっぱいで、心臓バックバクの汗ぐっしょりで最悪な目覚めでしたよ」
『君、虫を殺して罪悪感が湧く人だったっけ?』
「そうじゃないから、変なんですよ」

《キャスト》
・後輩
虫が平気。素手で触れる。家の中に出る虫くらいは知ってる。
・先輩
虫が滅多に出ないとこに住んでいる。あんまり虫に詳しくない。

1/22/2024, 12:59:30 PM

タイムマシーン
「もしタイムマシーンがあったらどうしますか?」
『急だね?…そうだな、戻って来れるか来れないかにもよるかなぁ』
「そしたら、戻って来れるということで」
『ううん。未来に行ってみたい‥かな?あんまりよく分かんないや』
「ふむふむ、先輩は未来派ですか」
『君は違うの?』
「私は断然過去派です」
『ふぅん?…その心は?』
「やり直したいこととか、こっそり聞いておきたいこととか、まあ、色々、あるからですね」
『黒歴史的な?』
「そんなとこです」
『そっか』
「先輩は無いんですか?」
『何が?』
「やり直したい黒歴史が、ですよ」
『あるにはあるよ』
「ほほう?」
『そんな目を向けても言わないよ』
「くそぅ」
『ふふふ』
「…やり直したいとは、思わないんですか」
『思わないかなぁ。…いや、嘘。少し思う』
「じゃあ」
『でもね、それ以上に僕は現状を気に入っていてね。僕が過去に行って嫌なことを変えたとして、それでこの未来まで変わってしまうのが怖いのさ』
「…」
『夢が無い、臆病な考えだけどね』
「そう…ですか」
『僕は君の満足のいく回答を用意できたかな?後輩そっくりな誰かさん?』
「…はい、ありがとうございました」
『そろそろあの子が来るだろうから、終わりにしよっか』
「そうですね、ご迷惑をおかけしました」
『お気になさらず』

「やぁっと委員会が終わりましたよぉ!お待たせしました!」
『お疲れ様』
「あれ?椅子が引いてある?誰かいたんですか?」
『昨日片付け忘れたんだよ。きっと』

《キャスト》
・後輩?
満足して帰った
・後輩
風紀委員。風紀委員になればバレずに学校にお菓子を持ち込めるのでは?!と画策し委員になった。なお失敗した模様。
・先輩
図書委員。後輩から、予想通り過ぎてつまらないと言われたことを少し根に持っている。

1/21/2024, 12:07:34 PM

特別な夜
「もしもし先輩?こんばんは!」
『こんばんは』
「先輩の部屋って窓ありましたよね」
『あるよ』
「ちょっと空を見てください!」
『あのね、今何時か分かる?』
「二時ですね!」
『深夜のね。大変元気があってよろしい。早く寝なさい。明日は小テストがあるんだって言ってたよね?それも昼から。眠くなっても知らないよ?』
「うぐっ…そうですけどぉ」
『再テストでひーひー言いたく無かったら早く寝な?』
「先輩あれですか、一夜漬けという単語に縁が無いタイプの人間ですか。はー、そうですか」
『まぁ、そうだけど』
「裏切者ぉ!」
『いつから僕が仲間だと錯覚していた?』
「くそぅ。ってそうじゃないんですよ!外!空!見て!ください!」
『えぇ』
「勉強に疲れた哀れな後輩の一瞬の息抜きに付き合ってくれても良いじゃないですか!」
『仕方ないなぁ』
「星!綺麗ですよね!」
『…そうだね。うん。よく見える』
「天気予報では曇りってあったんですけど、見事にはずれたんです」
『そうなんだ』
「天気予報もこういうはずれ方だと、逆に当たり感ありません?」
『確かに』
「冬の大三角形も見えますよ!どこにあるのか分かりませんけど」
『分かんないんだ』
「夜空に三角が多すぎなのが悪いんですよ!先輩は星座分かります?」
『ある程度はね』
「凄い!さすが先輩!略してさす先!」
『そんなさすおにみたいに』
「さす先!さす先!」
『はいはい』
「こいぬ座を作った奴を質問責めすることが私の夢なんです!」
『さてはだいぶ脳みそ死にかけてるね君』
「こんなに起きてたのは久しぶりですよ…ふぁ」
『寝なよ』
「むぅ…あの」
『ん?』
「あの…先輩」
『なぁに?』
「……眠く、なりました?眠れそうですか?」
『ちょっとはね』
「ちょっとかぁ…もうひと息!」
『凄く眠くなった気がする』
「ホントですか!やった!」
『眠くなったことだし、このまま僕は寝ることにするよ。おやすみ』
「おやすみなさい、良い夢を」

 電話を切って、再度空を見上げる
 少しぼやけた満天の星、とても綺麗だ

 最近夢見が悪くて寝付けないのだと零したからか
 濃くなるばかりの隈を心配したからか
 随分斬新な寝かしつけ方だ

 眠気を吹き飛ばしてしまいそうな程明るく元気な声だけど、なかなかどうして眠くなる

 良い感じに瞼が落ちて、意識が重くなる

 おやすみ、良い夜をありがとう
 そして良い夢を

《キャスト》
・後輩
テストはギリギリアウトだった
・先輩
後日勉強会を開いた

1/21/2024, 1:02:48 AM

海の底
「やあ」
『やあ?』
「久しぶり」
『久しぶりだねぇ』
「今回行ってきたのはね、クジラの島だよ」
『とてもファンタジー。とても良いねぇ』
「クジラの死骸の島なんだ」
『とてもダーティ。とても嫌だねぇ』
「クジラの肉が地面でね、骨があちこちから出てるの。とっても鋭い山みたいにね。地上の山、オオクチさんは見たことある?」
『無いよぉ。ここから動いたことなんてないからねぇ』
「そっか。今度一緒に見に行こう?ぼくが連れていってあげる」
『んふふぅ。だぁめだよぉ』
「どうして?行こうよ」
『いけないよぉ。ぼくは君みたいに動けないからねぇ。動いたら、死んじゃうと思うよぉ』
「死んでも良いよ。引っ張ってあげる」
『遠慮しとくぅ。それよりも、ねぇ、クジラの話を聞かせてよ。ねぇ』
「むぅ。クジラの肉は腐りかけでね、多分、凄い匂いがしたんだと思う、鼻が無いから分からないけれどね」
『何で臭いが分かったのぉ?』
「そこにいる動物たちがみんな鼻が無くて、口も無かったからだよ」
『口が無いのぉ?どうやってご飯を食べるんだろうねぇ?』
「さあ、分かんない」
『分かんないかぁ』
「今度は一緒に行こうよ。それで、確かめよう?」
『死んじゃうってばぁ』
「死んで良いよ。引き摺ってあげる」
『んふふぅ。やぁだねぇ』
「むぅ。鼻と口の無い動物たちたちはね、クジラの腐って溶けかけた肉の上を、ざりざりざりざり這って動くの」
『ウミウシみたいにぃ?』
「ウミウシみたいに。でもね、ウミウシと違って毛むくじゃらだったし、ぬるぬるしてないから、アレは動物だったの。きっとそう」
『本当に?』
「目も分厚いガラスみたいなので覆われててね、ずぅっと濡れてたの」
『沁みるのかなぁ』
「たまぁに火山が噴火するみたいに地面が揺れてね、腐った肉の底の方からガスが出てきて爆発するの」
『臭そぉ』
「肉が飛んできちゃうから、避けなきゃなの」
『そっかぁ。避けれたぁ?』
「避けれなかったよ。当たっちゃった」
『ふひひっ』
「オオクチさんは火山って見たことある?」
『無いよぉ。見たくも無いねぇ。きっとからからに茹ってぐつぐつに干からびちゃうよぉ』
「見に行こうよ」
『んふふぅ。嫌ぁ』
「何で」
『死んじゃうからねぇ』
「死ねば良いよ。殺してあげる」
『やだよ。まだ死ねないから』
「そうだね」
『クジラの話はもう無いのぉ?』
「無いよ。おっきな爆発があってね、それで沈んじゃったの。海の底に」
『あぁ。だからぼくはこんなに満腹なんだねぇ』
「嬉しい?」
『とてもぉ?』

「今回はここまでね。じゃあね」
『じゃあねぇ』



 じゃあねと言って
 目の前に居るふわふわした生き物を見る

 目なんて無いのに何でか見えちゃう

 たぶんぼくは、コイツを憎んでいる。
 きっとコイツは、ぼくを憎んでいる。

 何が理由かは忘れたけれど
 何が理由かは覚えてないけど

 暗い暗い海の底で
 昏い昏い心の底で

 ずっとずっとずっとずっとずっと

 互いの憎しみを探ってる

 かみさまに取られた感情を

 ずっとずっとずっとずっとずっと

 探してる

《キャスト》
・ベニクラゲさん
死なない生き物。オオクチボヤさんが大嫌い。
・オオクチボヤさん
大食いの生き物。ベニクラゲさんが大好き。でも憎い。

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