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逆光
「わたし、逆光ほど嫌なものはないと思うの」
『それは何故です?』
「だって、形しか見えないじゃない」
『ふむ?』
「期待して近づいて、形だけが似ているナニカだったらがっかりなんてものじゃないわ」
『成程、分からなくもないですね』
「でしょう?」
『ビニール袋と白い生き物を見間違える様な感じですか?』
「全然分かってないじゃない!そんなのよりももっと酷いわ!もっと残酷よ!」
『そうですか』
「それに、近づいてみないと分からないのも嫌。何だか不公平よ」
『不公平?』
「そう。光がわたしの邪魔をするの。そして相手の味方をするの」
『味方、と言うほどとは思えませんが』
「してるわよ。なによ!自然は平等じゃないの?!」
『まあまあ少し落ち着いて』
「…」
『落ち着きました?』
「そうね」
『では、続きを』
「あと、自分が暗いところにいるって、嫌でも分かっちゃうのも嫌」
『暗いところ、ですか』
「暗いわよ。真っ暗。何もない。後ろしか見えない」
『そうですね』
「前はもっとちゃんと見えたのに、最近は形しか分からない」
『…』
「何で?今までは区別できてたのに!どうして?!」
『どうしてでしょうね』
「またあの人じゃなかった!わたしが愛したあの人じゃなかった!どうして来てくれないの!」
『どうしてでしょうね。本当に』
「嫌!嫌よ!」
『そうでしょうね』
「自分がどんどん壊れてく!掠れてく!」
『消えはしないので、安心してください』
「どこにも行けないの!誰も来ないの!」
『嗚呼、もう聞こえていませんね』
「何で!何で!」
「何でわたしは暗いところにいるの?!明るいところに行けないの?!」
「酷い!酷いわ!不公平よ!」
「こっちからは見えるのに!あっちは気づいてすらくれないの?!」

 形が似てるだなんて失礼な
 誰の耳にも入らない叫びにため息を落として
 カラスが一羽飛び立った

《キャスト》
・???
どこにも行けない。可哀想とは思うなよ。
・カラスさん
知識欲旺盛なカラスさん。“さん”までが名前。

1/24/2024, 1:19:54 PM