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こんな夢を見た
「昨日、変な夢を見たんです」
『変な夢?どんな?』
「私は私の部屋にいて、さあ寝ようとしていたんですが、ふと壁に小さな蜘蛛がいることに気づいて」
『蜘蛛』
「多分アレはハエトリグモだ!って思いましたね」
『はえとりぐも』
「家の中にいる、一センチくらいのぴょこぴょこ動く奴です」
『へぇ。そいつがどうしたの?』
「もし見たのが昼間だったらそのまま放っておくんですが、寝る前だとどうしても放っておけなくて」
『どうして?』
「寝てる時に口や鼻や耳の中に入ないか怖くて。昔、そういう怖い話を見て、それが思いっきりトラウマと化してるわけですが」
『君にも怖いものとかあったんだね。それで?その蜘蛛は?退治したの?』
「はい。ハエ叩きで」
『ハエ取る蜘蛛がハエ叩きでやられるって、ちょっと面白いね』
「先輩の面白いの判定基準が分からない…」
『ふふ』
「話を戻しますが、ハエトリグモって結構耐久力があってですね、一発叩いたくらいじゃ死なないんですよ。だから、何回も叩きました。ぺしぺしと」
『ぺしぺし』
「はい。ぺしぺし。そうしたら、ハエトリグモは動かなくなったので、ティッシュに包んで捨てました」
『今のところ、特におかしくは無いけど』
「ここからですよ。無事蜘蛛を退治して私は眠りについたわけですが」
『夢の中でさらに寝たんだ』
「はい。なんなら夢も見ました。それが本題です」
『前置きが長かったね』
「夢のそのまた夢の中の私はお風呂に入っていました」
『ふぅん』
「何やら視線を感じて前を見ると、蜘蛛がいたんです」
『また蜘蛛か』
「私は直感でアシダカグモだと思いました」
『でかい奴ね』
「でも、どう考えてもソイツはアシダカグモなんかじゃなかったんです」
『どういうこと?』
「ソイツは頭が無くて、お腹が風船みたいになっていて、全身が薄茶色でした。例えるならそうですね、風船を背負ったセピア色のザトウムシです」
『ざとうむし』
「あ、アレにも似てました。生物で習った…あの、何でしたっけ?莫大なファンタジー?」
『何それ?…もしかして、バクテリオファージ?』
「それです!それ!」
『それはどう考えてもアシダカグモじゃないね』
「はい。本当にそうなんですが、なぜか夢の中の私はソレをアシダカグモだって確信してたんです」
『確かに奇妙だね』
「もっと奇妙なことに、私は、その蜘蛛は私に復讐をしに来たんだって思いました。あの時のハエトリグモの敵討ちをしに来たんだって、確信してました」
『穏やかじゃない夢だね』
「ここで私は夢の中の私が私ではないことに気がつきました」
『うん?』
「分かり易く言うと、夢の中の私…仮称夢ちゃんとしましょう。映画館で映画を観るみたいに、夢ちゃんが見てる景色を、感情を、私はスクリーン越しに見て感じてたんです」
『現実味が無かった、と?』
「そもそもが夢なんですから、現実味が無いって表現するのも変な話ですけど」
『それもそっか』
「夢ちゃんは察しはいいのに幼い子供みたいでした。アシダカグモの憎しみに気づいていても無関心で」
『図太い子だね』
「ずぅっと、アシダカグモのお腹を見てました。潰したらどんな音がするかなって」
『サイコパス幼女か』
「サイコパスというよりも、本当に幼い子供ですね。まだ生き物の命よりも自分の好奇心を優先しちゃうお年頃ってだけの、純粋な子供です」
『なるほど。幼いが故の残酷さか』
「あの風船みたいなお腹を潰したら、きっとパチンッと気味のいい清々しい音がするのだろうってそればっかり考えてました」
『ふぅん』
「気づかれたことに気づいた蜘蛛は、一心不乱に向かってきました。その長い脚を縺れさせながら、水面を懸命に走って来ました。…よっぽどハエトリグモの事が大事だったんだなって分かる、なりふり構わない走りでした」
『…』
「しかし、夢ちゃんにとって蜘蛛の復讐などどうでも良い事でしたので、向かってくる蜘蛛のお腹を摘んで潰しました。…待望のお腹の音は、ぷしゅう、と何とも味気ないものでした」
『あらら』
「期待していた音が鳴らなかったので、夢ちゃんは酷くがっかりして蜘蛛を放り投げてしまいました」
『子供は飽きるの早いもんねぇ』
「お腹が潰れた蜘蛛は、それでも向かって来ましたが、パチンっでは無かったモノなどに意識を向けるのも嫌だった夢ちゃんは、蜘蛛をシャワーで流して捨てちゃいました」
『ちょっと可哀想な話だね』
「私はそこで目が覚めたわけですが、何でかとてもやってはいけないことをした様な、そんな気持ちでいっぱいで、心臓バックバクの汗ぐっしょりで最悪な目覚めでしたよ」
『君、虫を殺して罪悪感が湧く人だったっけ?』
「そうじゃないから、変なんですよ」

《キャスト》
・後輩
虫が平気。素手で触れる。家の中に出る虫くらいは知ってる。
・先輩
虫が滅多に出ないとこに住んでいる。あんまり虫に詳しくない。

1/23/2024, 12:25:20 PM