海の底
「やあ」
『やあ?』
「久しぶり」
『久しぶりだねぇ』
「今回行ってきたのはね、クジラの島だよ」
『とてもファンタジー。とても良いねぇ』
「クジラの死骸の島なんだ」
『とてもダーティ。とても嫌だねぇ』
「クジラの肉が地面でね、骨があちこちから出てるの。とっても鋭い山みたいにね。地上の山、オオクチさんは見たことある?」
『無いよぉ。ここから動いたことなんてないからねぇ』
「そっか。今度一緒に見に行こう?ぼくが連れていってあげる」
『んふふぅ。だぁめだよぉ』
「どうして?行こうよ」
『いけないよぉ。ぼくは君みたいに動けないからねぇ。動いたら、死んじゃうと思うよぉ』
「死んでも良いよ。引っ張ってあげる」
『遠慮しとくぅ。それよりも、ねぇ、クジラの話を聞かせてよ。ねぇ』
「むぅ。クジラの肉は腐りかけでね、多分、凄い匂いがしたんだと思う、鼻が無いから分からないけれどね」
『何で臭いが分かったのぉ?』
「そこにいる動物たちがみんな鼻が無くて、口も無かったからだよ」
『口が無いのぉ?どうやってご飯を食べるんだろうねぇ?』
「さあ、分かんない」
『分かんないかぁ』
「今度は一緒に行こうよ。それで、確かめよう?」
『死んじゃうってばぁ』
「死んで良いよ。引き摺ってあげる」
『んふふぅ。やぁだねぇ』
「むぅ。鼻と口の無い動物たちたちはね、クジラの腐って溶けかけた肉の上を、ざりざりざりざり這って動くの」
『ウミウシみたいにぃ?』
「ウミウシみたいに。でもね、ウミウシと違って毛むくじゃらだったし、ぬるぬるしてないから、アレは動物だったの。きっとそう」
『本当に?』
「目も分厚いガラスみたいなので覆われててね、ずぅっと濡れてたの」
『沁みるのかなぁ』
「たまぁに火山が噴火するみたいに地面が揺れてね、腐った肉の底の方からガスが出てきて爆発するの」
『臭そぉ』
「肉が飛んできちゃうから、避けなきゃなの」
『そっかぁ。避けれたぁ?』
「避けれなかったよ。当たっちゃった」
『ふひひっ』
「オオクチさんは火山って見たことある?」
『無いよぉ。見たくも無いねぇ。きっとからからに茹ってぐつぐつに干からびちゃうよぉ』
「見に行こうよ」
『んふふぅ。嫌ぁ』
「何で」
『死んじゃうからねぇ』
「死ねば良いよ。殺してあげる」
『やだよ。まだ死ねないから』
「そうだね」
『クジラの話はもう無いのぉ?』
「無いよ。おっきな爆発があってね、それで沈んじゃったの。海の底に」
『あぁ。だからぼくはこんなに満腹なんだねぇ』
「嬉しい?」
『とてもぉ?』
「今回はここまでね。じゃあね」
『じゃあねぇ』
じゃあねと言って
目の前に居るふわふわした生き物を見る
目なんて無いのに何でか見えちゃう
たぶんぼくは、コイツを憎んでいる。
きっとコイツは、ぼくを憎んでいる。
何が理由かは忘れたけれど
何が理由かは覚えてないけど
暗い暗い海の底で
昏い昏い心の底で
ずっとずっとずっとずっとずっと
互いの憎しみを探ってる
かみさまに取られた感情を
ずっとずっとずっとずっとずっと
探してる
《キャスト》
・ベニクラゲさん
死なない生き物。オオクチボヤさんが大嫌い。
・オオクチボヤさん
大食いの生き物。ベニクラゲさんが大好き。でも憎い。
1/21/2024, 1:02:48 AM