うどん巫女

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7/19/2023, 8:16:18 AM

私だけ(2023.7.18)

今この瞬間
世界にはきっと、私より不幸な人も、悲しい人も、幸せな人もいるけれど
その幸せを、不幸せを、比べちゃあいけない
私が感じる幸せは、私だけのもの
私が感じる不幸せは、私だけのもの
あなたが感じるどんな思いも、それはあなただけのもの
誰かより幸せだとか、誰かより不幸せだとか、そんなことを考えるのは、とっても疲れてしまうから
いつだって、私だけの「だいすき」を、あなただけの「たすけて」を、さけぶことをやめないで

7/18/2023, 1:42:59 AM

遠い日の記憶(2023.7.17)

「はぁ…っ…はぁ…っ…!」
息を切らせ、足を縺れさせながら走る。後ろから気配が迫っているのを感じる。はやく、はやく、ここから逃げないと。
「っあっ…」
行き止まり。目の前の壁は、無情に現実を突きつけた。背後の気配は余裕綽々といったふうに、悠然と歩いてくる。こうなることをわかっていたのだろう。
「鬼ごっこ、楽しかった?」
冷酷な目つきと長身に似合わず、存外幼なげな声で暗殺者は私に問う。何も言えないわたしに、少しつまらなそうな視線を投げた後、不自然なほどにっこりと笑って、彼は言葉をつづける。
「世間話でもしようよ。どうせ、最後なんだしさ」
懐からさまざまな道具を取り出しながら、なぜか楽しそうに男は話し続ける。
「俺はあんまりそういうのよくわかんないんだけどさぁ、よく親がちっちゃい子供に『どこでそんな言葉覚えてきたの』とか言うらしいんだよね。いやいや、それを言うお前は自分が今話してる言葉をどこで覚えたか覚えてるのかよ、って話なんだけど。」
あぁ、でも、と男はふと顔を上げた。
「俺はこの言葉だけはどこで覚えたか覚えてるなぁ」
右手でナイフを弄びながら、ゆっくりと男が近づいてくる。
「昔、母さんが言ってた言葉でさ。確か、首を強く絞めながら、こう言うんだよね」
そう言うと、男は自分の言葉を実行するように、右手のナイフを投げ捨てて、前触れもなく私の首をつかんだ。
「にっこり笑って、こう言うんだ。『愛してる』って。
…あぁ、もう聞こえてないか」

7/16/2023, 11:55:01 AM

空を見上げて心に浮かんだこと(2023.7.16)

「なぁ、空の上ってさ、何があると思う?」
「宇宙」
「いや、そんな科学的な答えが聞きたいわけじゃなくてさ…もっとロマンに溢れた回答をくれよ!」
「じゃあラ◯ュタ」
「版権に配慮しなきゃならん回答もやめろぉ…」
「なんなんやうっとおしい。言いたいことがあるならはよぉ言いよれ」
「標準語キャラのくせに急に謎方言で話すのもやめろ…読者が混乱しちゃうだろぉ…」
「ご自分も大概メタいこと仰ってる御自覚がございませんようですけれども」
「うん、もういいから話を進めるんだけどさ、空の上には天国があるとかいうだろ?」
「わぁ初耳ですねぇ」
「そこは一般常識として受け止めてくれ…よく言うじゃん、死んじゃったお母さんはお空の向こうにいますよーって」
「それって大人の偽善じゃないですかやだー(棒)」
「うん、スルーするわ。んでさ、なんでああいう死後の世界ってやたらと空の向こうやら空の上とかにあるって言われるんかなぁってふと思ってさ」
「そりゃあまぁ、明らかに手の届かないところだからじゃないの」
「急にまともに話すなよ…怖いよ…」
「何言っても怒られるのは理不尽だと思うんですが」
「まぁ確かに、昔から人間には空への憧れってのがあるもんな。なんか地面より空の方が高尚な気がするし」
「無視?あともし巨大な地下帝国が存在した場合その発言はフルボッコにされるから取り消した方がいいと思うよ」
「本当にあるなら見てみたいなぁ、空の上の世界をさ」
「まぁ少なくとも、こうやって地下深くに地獄があるわけだし、ない話ではないかもね」
「だろ?」

ある休日の獄卒たちの会話でございました。

7/16/2023, 1:02:10 AM

終わりにしよう(2023.7.15)

「もう、終わりにしようと思うんだ。」
あぁ、やっぱり、そっかぁ。
目の前の先輩から告げられた言葉に、私は心の中でそう呟いた。

先輩と初めて出会ったのは、高校に入学して間もない頃。入学前から興味のあった科学部へ見学に行った私は、そこで先輩に恋をしてしまった。まぁ、いわゆる一目惚れというやつなんだと思う。でも、人当たりがよくて真面目な先輩のことが好きな人はたくさんいて、私はこの恋心が実らないであろうことをすぐに悟った。だから、あくまで普通の『後輩』として、先輩に接するようにしていた。先輩は面倒見のいい人でもあったから、私たち後輩に実験の手伝いをさせながら、いろいろなことを教えてくれたり、親身に相談に乗ってくれたりした。時には、休日に一緒に実験に必要なものの買い出しに行ったりもした。そのたびに、「まるでデートみたいだな」なんて思ってしまう私は、きっととても浅ましい人間なのだと思う。
先輩が三年生になってから半年。そろそろ、先輩も引退の時期を迎えていた。都市部の大学進学を目指す先輩は、部活を引退すればもうほとんど学校に来ることはない。私との接点は皆無に等しいだろう。そう思うと、これまで上手くしまい込んできたあの恋心が、急に熱を持ち出して、気づけば、私は先輩に告白していた。先輩はとても驚いた様子で、少し沈黙した後、返事は明日でもいいかと尋ねた。あぁ、きっと、断られるんだなぁと思いながらも、私はそれを了承した。
そして、今日がその告白の返事の日。先輩は、真剣な顔で、「もう、終わりにしようと思うんだ」と言った。
「あはは、そうですよね、やっぱり、私なんかじゃ…」
先輩もひどい人だ。何も始まってすらいないのに、「終わりにしよう」だなんて。
「あぁ、今までの曖昧な関係は終わりにしよう」
「え?」
萎んでいたはずの恋心が、少し頭をもたげたような気がする。いや、まだ早とちりかもしれない、これまでの先輩後輩の関係すら解消したいという意味かも…。
「本当は、もっと早くに俺から言うべきだったんだが…言わせてしまって申し訳ない。俺と、付き合ってくれませんか?」
「!…は、はい!喜んで!」
どうやら先輩は、口下手なところもあるらしい。今回はそんなところに翻弄されたけれど、どんな先輩だって愛おしく思える。だから、これからも、そんな先輩を一つずつ知っていけたらいいなと思う。

7/15/2023, 8:45:20 AM

手を取り合って(2023.7.14)

わたしが8歳の頃。母が病気で亡くなった。病気が見つかった頃にはもう末期で、あっけなく逝ってしまった。母の死が衝撃的すぎて、死というものが理解できなくて、悲しむより呆然と立ちすくむわたしの手をとって、父は言った。
「父さんじゃあ母さんの代わりにはなれないけど、精一杯頑張るから。ユキも、一緒に頑張ってくれるか?」
そのときわたしが何と答えたかはもう覚えていない。けれど、その後の父は男手一つでよくわたしを育ててくれたと思う。父は町工場で働いていて、けして裕福な家庭ではなかったが、わたしのことを何よりも大切にしてくれた。
わたしが泣いている時、悲しんでいる時、怒っている時、父はわたしの手をとって、じっと私の顔を見つめて、諭すように語りかけたものだった。そのときの父の顔は至極誠実で、真摯で、怒りも悲しみも父の顔を見れば不思議と少しおさまった。
高校に入学すると、わたしはいわゆる反抗期になった。父はけして理不尽なことは言わなかったけれど、時々過保護すぎるきらいがあって、それがわたしにはいつまでも子供扱いされているようでもどかしかった。父がわたしを諌めるためにわたしの手を取ろうとしても、わたしは逃げるようになってしまった。
高校を卒業して就職して、それからはなかなか実家に帰れなかった。慣れない仕事で大変だったこともあったが、これまで育ててもらった分、父に恩返しをしようと必死で働いていたということもあった。
わたしが32歳の頃、父が病気になった。奇しくも、母と同じ病だった。ただ、母とは異なり早期発見ができたために、早くから治療を始めることができた。医療費はけして安いものではなかったが、それまでに働いて貯めていた貯金があったのでなんとかなった。
しかし、治療も虚しく父はだんだん衰弱していった。ある日、父の主治医から、もう父が長くないことを告げられた。蒼白になりながら、ふらふらと父の病室に向かうと、最近では珍しく父は体を起こして窓の外を見ていた。病室に入ってきたわたしに気づくと、父はわたしを呼び寄せて、わたしの手をとった。久しぶりに触れた父の手は、古い傷やしわだらけで、記憶の中の父の手より随分小さく感じた。
「ごめんなぁ、父さんのせいで、こんなに苦労かけて。」
弱々しく笑う父。わたしは、涙を堪えきれなかった。それはわたしの言葉ではないのか。こんなに手が荒れ果てるほどの苦労を、わたしはこれまで父に課してきてしまったのだから。
嗚咽で何も言えないわたしをあの真摯な眼差しで見つめながら、父は一言、「ありがとうなぁ」と呟いた。
父が亡くなったのは、その3日後のことである。
わたしは一月に一度程度、父と母の墓参りに行くたびに、墓石にそっと手で触れる。もう、直接父の手を握ることは永遠にないけれど、そうすることで、父のあのあたたかく大きな手と誠実な表情を思い出せる気がするのだ。

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