繊細な花(2024.6.25)
ついこの間、祖母が死んだ。階段から落ちて、そのままポックリ。あんなに健康で長生きと言ってたのに、あっけない最期だったと言ったら、きっと祖母はあの世で怒ってしまうだろう。
祖母は、花が好きな人だった。祖母の家の前やら、畑やらにはいつも何かの花が植っていて、熱心に手入れしていたのを覚えている。花に興味がない私は、詳しく花々について説明されても覚えられなかったけれど。
ふと、花を育ててみようかと思った。祖母の墓前に供える花の一つや二つぐらいなら、私でも育てられそうではないか。
とりあえず、墓参りといえば菊だろうと思って苗を買った。何もわからないなりに調べて試行錯誤して……花は咲かなかった。何が悪かったのだろう。花というのは繊細なものなのだとしみじみと感じた。
花に囲まれていた祖母も、あんなに元気に見えた祖母も、案外繊細な人だったのかもしれない。今となってはもうわからないけど。
とりあえず、私もあっちに行ったら、菊の育て方を聞こうと思った。
怖がり
俺の幼馴染はひどく怖がりだ。
「ふえぇ…朝起きてからずっと鼻水が止まらないぃ…死んじゃうのかな…」
大体常に「ふえぇ」と言いながら周囲のものに怯えている。「ふえぇ」だなんて、漫画やアニメのヒロインにしか許されなさそうな泣き声(鳴き声?)だが、実際幼馴染は美少女なので許されるのである。ルッキズム様々だ。
「普通に風邪か花粉症だろ。今年、花粉の飛んでる量すごいらしいし」
「ふぇ…そっかぁ…ふぇ…ふぇ、ふぇっくち!…うぅ、鼻がすごいむずむずする…」
「やっぱ花粉症じゃね」
「うーん、そうかも…」
そう言いながらポケットティッシュを取り出してちーんと鼻をかむ幼馴染。あんまり症状が酷いようなら、今度鼻セ◯ブでもプレゼントしてみようか。
「前から思ってたことなんだが、なんでそんなに怖がりなんだ?」
「ふぇ?」
涙目できょとんとこちらを見つめる幼馴染。なんか変な気分になるからやめてほしい。
「うーん…人は知らないもの、わからないものを怖がるから、かな…」
「いやでもお前、学校だと毎回テストの時学年一位だし、大体のことなんでも知ってるし…何も怖がる必要なくないか?」
「ふ…知るということは、知らないということを知ること…ふぇ、ふぇっくち!」
せっかく哲学めいたことをかっこよく言おうとしていたのに、最後のくしゃみで台無しである。
「…大体、私がこんなに怖がりなのは、君に関してだけだけどね」
「ん?なんて?」
「ふぇ、な、なんでもないよ…ふ、ふぇっくしょい!」
「おー、でけぇの出たな」
結局理由はよくわからなかったが、まぁ、この臆病な幼馴染の面倒を見るのも、幼馴染としての役目だと思っている。
お気に入り(2024.2.18)
べつにこれに限った話じゃあないのですが。
「書く習慣」って、誰が、自分の作品をお気に入りにしてくれてるのか、誰が、「もっと読みたい」って言ってくれてるのか、わからないじゃあないですか。
まぁときにそれがもどかしいこともあるわけですが。
ふと、考えてみると、
何気なく、電車で隣り合った人が、通りですれ違った人が、自分の作品を読んでくれているかもしれない。
近所のコンビニの店員さんが、帰り道でいつも会うあの人が、自分の「お気に入り」の人なのかもしれない。
そう考えると、ちょっと外に出てみたくなるなぁと。
物語がつなぐ奇縁を覗いてみたいなぁと、思ってしまうわけです。
Kiss
くちづけや 交わす吐息と 止まる言の葉
逆さま(2023.12.6)
冬の朝の空気は肌を刺すほどに冷たいが、どこまでも澄み切っているようで、私は好きだ。冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んで、大きく吐き出すと、白い息がさらさらと流れていく。太陽はまだ地平線から少し顔を出したところで、白っぽい朱色の光が世界を照らしている。
あぁ、綺麗だな。最後にそう思えたことに満足して、私は虚空へ一歩を踏み出した。
冷たい空気を切って落ちていく中で、大好きなあの人の顔が逆さまに見えた気がして、私はふっと微笑んで目を閉じた。