海に架かる虹を捕まえようと君が言ったから、僕らは銀色の車に乗って海へ向かったんだ。
プラチナライダーになって鏡の中で反射するように、僕は君で、君は僕になる。
波が寄せてくるたび、虹を手に入れられそうな気がしたけど、それはほんの虚栄の幻だったのかもしれないね。
結局、虹を掴むことはできなかった。
できない自分を知ったとき、僕らの心は穏やかな海と同化していく。
君は鏡像で理想の僕であり、僕は現実の僕に戻る。
だけど僕らはきっといつまでもプラチナライダーでいるよ。
「海へ」
ジョバンニと謎の男はディエゴという仲間を加えて旅を続けていた。
ある日、彼らは神聖なる地に足を踏み入れることにした。
この場所に立ち入るには、まず聖なる泉で身体を清めなければならない。
そして、たとえ一本の草でさえ聖地から外に持ち帰ることは許されないという掟があった。
しかし、ディエゴは好奇心に駆られてその掟を破り、こっそり小さな石をひとつ持ち帰ってしまった。
彼が宿屋に戻りその石を部屋に飾ると、石は光を放ち始めた。
その眩い光がディエゴの目に入った途端に、ディエゴは猛烈な頭痛に襲われ意識を失いそうになった。
その時、謎の男は祈りを捧げた。
すると石から美しい翼が生えてまるで鳥のように窓から飛び去って行った。
ディエゴは禁断を侵すことへの後悔と、畏れと、興奮を同時に感じられずにはいられなかった。
「鳥のように」
人生が一冊の本なら、そこにはいくつもの物語が詰まっている。
足跡を辿りながらページをめくっていくと、過去の出来事はさまざまな色で映し出される。
それぞれの章は、喜びや悲しみ、出会いや別れ、成長の瞬間を記録している。
僕はそれらをファイルに丁寧に仕舞い込む。
そして過去の自分に向かってゆっくりとさよならを告げるんだ。
本の中の自分という乗り物は、そんなに多くの荷物を運べないものさ。
次の旅のためのスペースを作っておくのさ。
「さよならを言う前に」
ジョバンニは午後の静けさの中、親友グーフォの恋人と向き合っていた。
彼女はどこか遠くを見つめグーフォの幻を追う。
「グーフォは、何年も私の中で生き続けているの」
と彼女は呟いた。
彼女のスマートフォンには彼の写真やメッセージが並んでいる。
それらを眺めれば彼と過ごした日々の一つ一つが鮮やかに蘇る。
しかしそれは彼を偲ぶ一つの手段ではあるが、無機質な数字やデータに代わってしまうことはできなかった。
彼女の胸の奥には、心に刻まれたグーフォとの思い出が、何よりも強く保存されている。
今日もまた彼を想い、水晶の涙が彼のためにポロポロと零れ落ちていく。
それは、愛する人を失った大切な記憶が永遠に彼女の心の中で生き続ける証なのだ。
「いつまでも捨てられないもの」
勾配8パーセントの登り坂を自転車でひと漕ぎひと漕ぎ進んでいく。
登るにつれ、足も心臓も重たくなる。
息が切れて、身体から肺や骨、筋肉が重力に押し出され風にさらわれていくかのように感じる。
「大人になるとは思っていなかった」
そんな思いが渦巻く。
思い描いていた未来は、彼方にある幻影のようだ。
誰もがいつの間にか大人へと変わっていく。
ましてやいつか老人になって必ず死に行く運命だなんて考えたこともなかった。
「大切な何かは忘れ去られ、すでに失ってしまったかもしれない」
しかし坂を上りきった先に緩やかな下り坂を迎えると、
生まれ変わったかのような爽快感が駆け抜ける。
風が頬を撫で、自由を感じながら進む。
「僕はまだ若い」
18歳の若者として再び生き返る。
いつまでも、いつまでも、この空の下を駆け続ける。
「自転車に乗って」