récit

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勾配8パーセントの登り坂を自転車でひと漕ぎひと漕ぎ進んでいく。

登るにつれ、足も心臓も重たくなる。
息が切れて、身体から肺や骨、筋肉が重力に押し出され風にさらわれていくかのように感じる。

「大人になるとは思っていなかった」

そんな思いが渦巻く。
思い描いていた未来は、彼方にある幻影のようだ。

誰もがいつの間にか大人へと変わっていく。

ましてやいつか老人になって必ず死に行く運命だなんて考えたこともなかった。

「大切な何かは忘れ去られ、すでに失ってしまったかもしれない」

しかし坂を上りきった先に緩やかな下り坂を迎えると、
生まれ変わったかのような爽快感が駆け抜ける。

風が頬を撫で、自由を感じながら進む。

「僕はまだ若い」

18歳の若者として再び生き返る。
いつまでも、いつまでも、この空の下を駆け続ける。


「自転車に乗って」

8/15/2024, 7:28:45 AM