récit

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11/27/2025, 12:07:09 AM

むかしむかしのこと、好奇心旺盛な男が、茨の森の奥深くへと足を踏み入れていったんだ。やがてたどり着いたのは、時を忘れたような美しい古城だった。お城の地下に行ってみると、金色の髪のお姫さまがスヤスヤと眠っていたのさ。
その傍には糸車が転がっていた。糸車にはお姫さまの指から流れた血で赤く染められた糸が絡まっていた。

男はその赤い糸に手を伸ばし、そっと引っ張ってみた。すると、糸で繋がり静止していた時間が100年分引き寄せられて時は動き出し、お姫さまは目を覚ましたんだよ。
この時、運命の赤い糸に導かれたみたいに、お姫さまと男は互いに強く惹かれ合ったんだね。

その後ついに、二人は結婚し、幸せな日々を送ったんだって。お花畑で夢みるようにさ。

「時を繋ぐ糸」

11/25/2025, 11:52:55 PM

君の背には、君がこれまで紡いできた言葉の道が広がっている。
渇いている葉、湿っている葉、色んな出来事があったんだね。
その道の色は、さまざまな経験を表し、多層的な深さを持っている。その深さの色の分だけ、君自身が成長し次の季節へ向かうための養分になるのさ。
冬支度をした季節の隣で、新たに奏でるための出発の準備をしているんだ。

「落ち葉の道」

11/19/2025, 12:08:01 AM

天使アビーからペターポへの贈り物は特別なランタンだった。

「このランタンは、君の誕生と同時に生まれた星の記憶を宿しているんだよ。
君が生まれた時、君のパパとママはとても幸せで、心から喜んでいたんだ。君がこのランタンを胸に抱えていると、どんな時でもその温かい思い出が君を支えてくれる。
もし君の両親が年を重ねて少し気難しくなったり、それで君自身もイライラしてしまうことがあったとしても、このランタンがあれば、心の灯りが君たちを照らし続けてくれるんだよ。
だから、忘れないで。その愛情と喜びは、いつも君のそばにあることを」


「記憶のランタン」

11/17/2025, 1:23:48 AM

まだ10代だった僕の記憶の中で、ある特別な夢の場所があった。
そこで君を見つけた。君は静かな月影のように綺麗だった。君を見ていると、空気が弾んで、膨張と圧縮の微妙なバランスが崩れていく。その時、君はふっとつぶやいた。
「月に戻ろうかしら」

僕は問いかけた。
「君は月の住人なのかい?もしかしたら、かぐや姫?そうだとしたら、君は一体、月でどんな罪を犯したんだい」

君は静かに答えた。
「地球で恋をしてみたいと思ったの。喜びや苦しみ、そんな感情を体験してみたかったの。月には喜怒哀楽なんて存在しない。だって、あそこは氷の世界だから。感情を持つなんて許されないの」

その瞬間に君は淡く消え去っていった。

今にして思えば、これは、僕があの頃片想いしていた女の子の幻影だったのだと、ようやく気付くことができたんだ。


「君を照らす月」

11/6/2025, 1:46:02 AM

君の言葉が消えたとき、僕は気づいたんだ。君に恋をしたってことに。
それは特別なものを発見したような新鮮な感覚だった。
天使の僕だって幸せに浸っていたいと思うものさ。
だから、僕はお父様に内緒で、時を止めることにしたんだ。
その瞬間、君の可愛らしい唇は少しだけ斜めに上がって、周りの景色はひどく歪んで見えた。
空間が重力に押し潰されているかのように。
時を止めるのはやはり禁断だった。それで、その一瞬の後、僕は時を元に戻した。
幸せって有限なんだなとしみじみ感じている。

「時を止めて」

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