風は、遠くの街角から花の香りを運んできた。
夜空の星の温もりが影を連れてきて、あの日の出会いに優しく恋を乗せて僕たちの頬を撫でていく。
風物語にうっとりと安心して、僕たちは何もかもを忘れていた。 音楽が溶け合うように。
だけど、最近は失望の音ばかりが流れてくる。
アメリカの喧騒が遠くから聞こえる。
「君はもう、友達じゃないのか?」
昨日起きた時は、あれほど仲良く一緒に笑いあっていたのに。
「風が運ぶもの」
内気な青年がいた。彼の日常はひどく平凡だったが、毎日フラワーショップで一輪の花を買うことが彼の日課になっていた。
店内では美しい女性が働いていた。
ある日、彼女は毎日訪れるこの青年に優しく声をかけた。
「いつもありがとうございます。プレゼントですか?」
その言葉で青年の心はわずかに揺れ、顔が赤くなりながら
「いや、まあ、花が好きなんです」
と小さく答えた。
それを聞いて、彼女は花のような笑顔を浮かべて
「素敵ですね」と言った。
青年は、彼女のその笑顔を見て幸せを感じた。それが彼にとっての真実だった。
彼がそのフラワーショップを訪れるのは、花が欲しいということより、彼女に会いたいという思いからだった。
そんな彼の気持ちに彼女は気付くことはなく、二人の関係に進展はいつまでもなかったが、それでも青年は満足だった。
「一輪の花」
ペターポは、街にやってきた移動遊園地で、まだ家に帰りたくないとママにぐずっていた。
パパとママは、ラストの乗り物としてペターポと観覧車に乗ることにした。
ゆっくりと回る観覧車の中でペターポはコーンアイスを口にしながら、空にかかる綺麗な虹を見つけた。
不思議な虹色を見てると、ペターポはすごく嬉しくなって、おとなしくずっと虹を見つめてた。
それからペターポは満足して家に帰ったのさ。
そしてその素敵な虹と観覧車の思い出を絵日記にちゃんと残したんだ。
虹は、どんな時でも静かな幸せをもたらす。
「君と見た虹」
僕は大きな窓からぼんやりと夜空を眺めていた。
冬の夜空は冷たく透明で、上空の時間が地上のそれよりも少しだけ速く流れているように感じられた。
君も一緒に夜空を見上げて口を開く。
「ねえ、夜空ってかくれんぼをするのにぴったりね」
「かくれんぼ?」
「そう、上空では様々な人生の物語が早送りで展開されているの。あまりに速すぎて見えないから、まるでかくれんぼをしているみたいに思えるの。早く走るということは、気がついた時にはもう昔の話になっているってことなのよ」
「ふうん、新鮮な感覚だね。でも僕は何も見つけられないな」
「あなた、気づいていないのね。私が本当に言いたいこと、まったくわかっていないのよ」
僕は、気がつかないふりをする方がきっと無難だなと思った。
その時、空を闇に紛れるように漆黒の鳥が羽を広げて駆けて行った。
「夜空を駆ける」す
誰かが14の僕にこう言った。
「思っているだけでは何も変わらない。きちんと言葉にしなさい。そして行動を起こすんだ。前に進むことが必要なんだよ」
そうさ、立派な行動指針だね。心の中で僕はWe will rock youを歌っていた。
でも、そんなこと僕の好きな女の子には当てはまらないんだ。
あの頃の僕は、あの子との関係が変わらなくてもいいと思っていた。
告白なんてしたら、友達ではいられなくなってしまう気がしていた。
ひそかな想いは、まるでずっと木からもぎ取られない果実のまま、青く。
今ではもう手にすることのできない気持ちだ。
「ひそかな想い」