冬はクールで知的な姿を纏っている。でもその心はとても繊細であたたかい。
冷たい風に散った街路樹に
煌めくイルミネーションの花を飾り、寄り添いながら歩く君と僕の夢を温めてくれる。
「冬になったら」
彼はとても真面目で少し気難しく、いかめしい表情で面白いことを言う芸人コメンテーターだった。
その独特の雰囲気が視聴者やスタッフに受け入れられ人気者だったが、
芸歴が10年を迎える頃には次第に飽きられ始め、人気に翳りが見えてきた。
そこで彼はマネージャーと相談してイメチェンを図ることにした。
新しい芸風はヘラヘラした軽いノリで真面目なことを語るという、これまでと真逆のスタイルを目指すことにした。
しかしイメチェンした彼が初めて出演した朝のTVニュースで、大御所の俳優さんが老衰でお亡くなりになった訃報を、あろうことかヘラヘラしながら報じてしまった。
その時、スタジオ内は凍りつき、視聴者からの苦情がテレビ局に殺到した。
SNSでも大炎上してしまった。
彼は真面目な顔で真剣に報道をするべきだったのだ。
彼のイメチェン後のもう一つの物語は初日で終わってしまった。
「もう一つの物語」
爆発から生まれた「始まり」は、真っ暗な空間だった。
その暗がりの中で、何も見えず自分がイケているのかいないのか、どんな存在なのか何も分からないまま、長い間踊っていた。
ある時、同じように踊っていた誰かに出会った。
二つの存在がぶつかり合った瞬間、暗闇を破って光が生まれた。
その後自分が見えるようになってからは、カッコよくあろうとする気持ちに駆られるようになった。
しかし時折、暗がりの心地よさの中で、気を張らずにただのダサい自分に戻りたくなる。
きっとそれが暗がりの中に見出す調和なのだろう。
「暗がりの中で」
紅茶の香りで呼び覚まされる景色がある。
君とよく行った赤レンガ作りの街角のカフェ。
僕はダージリンと半熟のエッグベネディクトを頬張ったんだ。
そしたら君は
「口の周りがヒヨドリの嘴みたいに黄色よ」
って綺麗な歯を見せて笑ってたね。
年下なのに大人ぶっていた君。
愛しさが胸に広がる。
薄霧の秋の穏やかな光。
君と過ごしたひととき。
ティーブレイクに乗って、それらひとつひとつが小さく重なる。
「紅茶の香り」
企業スパイのダーディは、パーティ会場で敵の恋人に近づき、セールストークを始めた。
「我が社と取引すれば、あなたの身の安全は保障しますよ」
しかしよく見ると敵のその恋人は、ダーディの変装した妻だった。
なんと、ダーディの妻もスパイだったのだ。
「愛言葉は」
とダーディが尋ねると、
「離婚覚悟で臨んで」
と妻が答えた。
「愛言葉」