気温は暖かく、そよ風が心地良い日。天気は快晴で、空を見上げると美しい青色に吸い込まれそうだった。空だけ見ると夏のような感じだが、涼しいそよ風のおかげで汗をかく程の暑さはなかった。
「いい天気だね…」
「そうですね、外に出るにはうってつけです」
「ここまで空が青いと、風に身をまかせて空を飛びたくなるね〜」
大好きな彼の隣に居て、かつ天気のいい事に陽気な気分になっていた私は笑いながら冗談を言った。すると彼は真剣な表情で思いもよらぬ一言を言った。
「それなら、一緒に空を飛んでみましょうか?」
「えっ、流石に冗談だよ!?そんな事出来るわけないし…」
「いいから、俺に任せてください」
そう言って彼は私を抱き上げた。しっかり掴まってくださいね、と言われて私は彼に手を回すと、彼は勢いよく地面を蹴った。すると、かなり高くまで跳躍し、少し怖くなった私は思わず目を瞑る。しかし、落ちる感覚はなく、ゆっくりと目を開けると私たちは空を飛んでいた。もっと詳しく言うなら、私を抱き上げた彼が空中を歩いていた。
「と、飛んでる…!」
「どうですか?とてもいい眺めでしょう?」
「うん…!私たちの住んでいる町が小さく見えるね」
私たちは笑い合いながら、風に身をまかせて空中散歩を楽しんだ。まさか、彼が魔法使いのような事が出来るなんて…と私は不思議な体験をしながら感動を覚えた。
ふと目を覚ますと、目に映ったのは自分の部屋の天井だった。どうやら、さっきの出来事は夢の中だったらしい。私が起きた事に気づいた彼が、私に声をかけた。
「おや、起きたのですね。おはようございます」
「おはよう、すごくいい夢見た…」
「そうですか、だからあんな幸せそうな寝顔だったのですね」
ずっと私の寝顔を見ていたのか、と少し恥ずかしく思いながらも、私は楽しかった夢の事を話したのだった。
テーマ「風に身をまかせ」
「あなたって、過去に戻りたいって思ったことある?」
生きている限り、過去の選択を後悔してしまうことは誰しもあることだろう。もし、あの時こうしていたら…考え始めるとキリがない。私も、消し去ってしまいたい黒歴史なんかたくさんあるし、時を戻せるならば後悔のない完璧な過去にしたくなるだろう。そこで、私からすれば完璧に見える彼に聞いてみた。
「それはありますが…戻れるわけでもないし、今のままがいいですね」
彼は少し考えるような素振りをして、そう答えた。後悔した事がなさそうな彼でもそう思うんだ、と意外に思いながらも、今のままでいいと言う彼らしい答えに少し安心してしまった。
「だよねぇ…過去のことを失われた時間だなんて、ネガティブに考えたことあんまりないし」
いくら黒歴史がある私であっても、それらを受け入れて今の自分があるのだ。楽しいことだけではなく、辛いこと、悲しいことも含めて人間というものはできているのだ。それに、とつけ加えて話そうとしたタイミングで彼も同時に口を開いた。
「それに、時間は失われても、思い出の言う形で残りますよね」
「あーっ!それ私も言おうとしてたのに…」
「おやおや、俺たちは以心伝心ですね」
セリフをとられてしょぼくれる私に、彼はクスクスと笑いながらそう言った。それでも、考え方が似ていたことは少し嬉しかった。もし、失われた時を求めて過去に戻っていたら、彼に会えないだろうなぁと思うと、私も今のままがいいと思った。
「これからも、たくさん思い出作ろうね」
「えぇ、あなたと過ごした時間の証をたくさん残しましょう」
テーマ「失われた時間」
外見、趣味趣向、将来の夢…子供から大人になるにつれて、人間とは考え方がころころ変わっていくものだ。子供の頃に楽しかったことは大人になってからつまらなく感じたり、大人になると考え方が現実的になるものだ。
それでも、私の憧れているものの一部は子供のままで、少女が好きそうなものに心がときめくし、おとぎ話の王子様のような、優しくてかっこいい人と結ばれたいと思っていた。
「ねぇ、私って子供っぽいのかな?」
「おや、どうしてそう思うのですか?」
「だって、未だにおとぎ話の世界に憧れているところあるし、あなたのこと王子様みたいって思っているから…」
少し恥ずかしそうにそう言うと、彼は優しく微笑みながらそんな事ないですよ、と言ってくれた。そして、顔を近づけて私を見つめながら彼は続けた。
「それに、貴方の心はとても純粋で、尊いものだと俺は思っていますから。どうか、そのままで居てください」
「ありがとう…!」
「それでは、お手をどうぞ。俺の可愛いお姫様」
そう言って彼は私の前に跪いた。私は照れて顔を赤らめながら、彼の手をとった。
テーマ「子供のままで」
私は、彼のことが好きだ。優しくて、かっこよくて…それだけではなく、一途に私のことを愛してくれる。愛情表現も彼の方からしてくれるし、豊富な語彙で私のことを褒めてくれる。いつも与えられてばかりだから、私も彼に愛を与えたい。
でも、いざ言葉にしようとすると、頭が真っ白になって、声が出ない。なら態度で示そうとしても、恥ずかしくなって躊躇してしまう。結局、それを察した彼の方から私に愛を囁いて、抱きしめてくれる。そうだけど、そうじゃない…と、私は歯がゆい気持ちになるのだった。
ある日、私が彼の部屋に入ると、彼は本を読んでいた。あまりにも熱中しているのか、こちらに気づいている様子はない。今がチャンスだ、と思い、私は彼の名前を呼びながら駆け寄る。
「おや、どうしたのですかっ…!?」
「…大好き」
彼がこちらに気づいて振り返ると同時にギュッと抱きつく。その勢いで私は言いたかった言葉を伝えた。驚いた様子を見せた彼はすぐに優しく微笑んで、私の頭を撫でた。
「ようやく、貴方から言ってくれましたね…」
そう言って、彼は私を優しく抱きしめ返す。そして耳元に顔を近づけ、優しく落ち着いた声で囁いた。
「俺も大好きです。ずっと愛していますから」
テーマ「愛を叫ぶ。」
夏が近づいて、草木は緑に色づく頃、春より少ないとはいえ花が元気に咲いている。その花の蜜を吸いに、モンシロチョウが集まっているのを散歩中に見かけた。
「あっ、モンシロチョウだ。夏が来るね」
「そうですね、小学生の頃に学校で育てたのを思い出します」
「懐かしいね、確かに昆虫の生態はモンシロチョウから習った気がする」
確か学校の裏庭にあるキャベツ畑から葉っぱごとモンシロチョウの卵を持ってきて、容器に入れて育てていたような。幼虫から蛹、そして成虫になるモンシロチョウは変化の象徴というイメージがある。
「へー、モンシロチョウって幸福の象徴でもあるらしい」
ふとスマホを出してモンシロチョウを検索すると、少しスピリチュアルな話が目に入った。すると、白が幸福を意味するらしく、モンシロチョウも強い運気の象徴との事だ。私たちはそろってこういうものを真に受ける性格ではないのだが、いい意味を持っているとつい気になってしまう。
「なるほど、何かいい事があるといいですね」
「私は、あなたとの幸せな日々が続いてくれたらいいなって思う」
「ふふ、嬉しいことを言いますね貴方は」
私は彼と手を繋いで、その感覚に幸せを感じながらまた歩き出した。
テーマ「モンシロチョウ」