「あなたって好きな食べ物あるの?」
「貴方が作ってくれたものなら何でも好きですよ」
「えぇ〜、その中でも大好物ってないの?」
私は彼に料理を振る舞いたくて、好きな物を聞いたのだが、この有様である。確かに、彼が好き嫌いで偏食している所を見たことがない。それに、普段は彼の方が料理をしているので、私の好物ばかり出てくる。とはいえ、私も同じで彼の手料理ならなんでも好きなのだが…。
「そうですね、強いて言うなら貴方が初めて振舞ってくれたカレーでしょうか」
「あれかぁ、上手にできなかったやつだ…」
まさかの返答で私は肩を落としてしまった。せめてもっと美味しいものを挙げるかと思いきゃ、自分の中では上手く作れなかったものを好きと言ってくれた。
「貴方の中では上手くいってないと思っているのでしょうが、俺にとっては嬉しかったんです。あの味は忘れられませんよ、いつまでも…」
「あなたにとっては思い出の味なんだね」
あまりにも彼が嬉しそうに語るものだから、私も思わず微笑んでしまった。今日の晩御飯はカレーにしようか、できる限りあの頃の味に寄せて。
テーマ「忘れられない、いつまでも」
年が明けて少し経ってから、私たちは遅めの初詣に行った。お正月に混雑していた神社も空いていて、心地良い静けさに包まれていた。
「あなたと初詣に来たの初めてかも」
「そうですね、俺自身も久々だと思います」
まず最初に、今年もいい年になるようにお参りをした。ご縁があるように、お賽銭箱に五円玉を入れて鈴を鳴らす。二礼二拍手一礼をして、既に決めていたお願いごとを心の中で唱えた。
「貴方は何をお願いしたのですか?」
「きっとあなたと同じことだよ」
「ふふ、いい年になりそうですね」
「そうだ、せっかくだしおみくじ引こうよ」
他愛もない話をしていた時に、私はおみくじを引きたくなって彼をぐいぐい引っ張りながら向かった。困ったように笑いながら彼もついてきてくれて、二人でおみくじを引いた。
「俺は中吉ですね。特に悪いことも書いていないので、無難なところです」
「あっ、私大吉引いた」
「おおっ、すごいですね」
彼は私のおみくじを見て少し驚いたように言った。詳しい内容を見てみると、恋愛に関するものの運勢がとても良かった。それに少しにやけながら、私は彼を見た。
「また一年後も来ようね」
「はい、もちろんです」
テーマ「一年後」
俺の運命の人は、突然に現れた。彼女は、とても優しくて、可愛らしい人だった。
俺が幼い頃、迷子になってしまって一人で大泣きしてしまった。お腹も空いた、疲れて歩けない、どうしようもない俺に彼女が声をかけてくれた。
「どうしたの?迷子?」
聞かれてもぐすぐす泣いて答えもしなかった俺に、優しく手を差し伸べてくれた。お腹空いてない?と聞いてきた時には既に彼女の手に持っていたであろうお菓子が握られていて、なんと俺に分けてくれた。その後両親と会えたのだが、それまで彼女は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれたのだ。幼いゆえに知らなかっただけで、この時の感情が一目惚れというものだったのだろう。
そして時が経ち、大きくなった俺はある日、街中で見覚えのある人影を見かけた。それは見紛うことなき俺の初恋の人だった。
「あのっ、すみません」
「あなたは…?」
「昔、あなたに助けられたものです」
いきなりこんなことを言われて、彼女も戸惑った表情をしていたが、すぐに納得した表情になった。どうやら俺の事を覚えてくれていたらしい。
「あぁ、あの時の!かっこよくなったね」
「あの時はありがとうございました。もしよければ…」
それから俺たちは連絡を取るようになり、たまに会うようになった。そして付き合いが長くなった頃、俺は彼女に告白した。何の因果か、その日は俺が迷子になった日と同じだった。
テーマ「初恋の日」
「ねぇ、あなた?」
「はい、何でしょう」
「もし、明日世界が終わるなら、あなたは何をしたい?」
「そっ、それは難しい質問ですね…」
彼は、私が非現実的な質問をしたにも関わらず、真剣な表情で考え込んでいた。私も自分だったらどうするのか考えて、言おうとした時、先に彼が口を開いた。
「でも、そうですね。明日世界が滅ぶなら、最後まで貴方の傍に居たいです」
案の定、全く同じ答えだった。私も、彼とずっと一緒に一日を過ごして、贅沢をして、満足して終わりたいと思っていたのだ。
「私も同じだよ。あなたと共に過ごして、いつもならしない贅沢をして、最後に抱き合って生を終えられるなら、とても幸せだと思う」
そう言った私の顔は、微笑みながらも、少し悲しげな、難しい表情をしていたと思う。まだ私たちは若いし、経験も少ない。未練が無いかと言われたら、それは嘘になる。そんな様子の私を見た彼は、優しく微笑みながら私の肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ、本当に滅ぶ訳じゃないんですから。そんな顔しないでください」
「うん…」
「これからも、人生に悔いがないように、二人で色々なものを見に行きましょう。そして、たくさん美味しいものも食べましょうよ」
「ありがとう…」
私たちはあまり歳に差がないはずなのに、彼は私と違って本当に強いなぁと思った。きっと彼は、私たちが一つになる運命を信じてやまないのだろう。
テーマ「明日世界が終わるなら」
小さい頃の俺は、とても臆病だった。すぐに自分の殻に閉じこもって、知らないこと全てに怯えていた。少しでも怖いと思うとすぐに泣いてしまうし、誰もが俺を避けていた。
「大丈夫、私はあなたを信じているよ」
しかし、貴方に出逢って俺の気持ちは変わった。こんな俺に優しくしてくれた貴方は、俺が強くなれることを信じてくれた。貴方は、俺を望んでくれたのだ。
それから俺は、強くなるための勇気を出すことができ、知恵を振り絞って様々な物事に立ち向かった。その頃には泣き虫な自分も居なくなり、怯える物も少なくなった。こんな俺に手を差し伸べてくれた貴方に恩返しをするべく、俺は強くなったのだ。
今では、俺は貴方の隣に立っている。貴方を守るために、愛するために。これからも、この関係が末永く続くことを願って、俺は貴方の為に生きると誓った。
テーマ「君と出逢って」