「あなたって好きな食べ物あるの?」
「貴方が作ってくれたものなら何でも好きですよ」
「えぇ〜、その中でも大好物ってないの?」
私は彼に料理を振る舞いたくて、好きな物を聞いたのだが、この有様である。確かに、彼が好き嫌いで偏食している所を見たことがない。それに、普段は彼の方が料理をしているので、私の好物ばかり出てくる。とはいえ、私も同じで彼の手料理ならなんでも好きなのだが…。
「そうですね、強いて言うなら貴方が初めて振舞ってくれたカレーでしょうか」
「あれかぁ、上手にできなかったやつだ…」
まさかの返答で私は肩を落としてしまった。せめてもっと美味しいものを挙げるかと思いきゃ、自分の中では上手く作れなかったものを好きと言ってくれた。
「貴方の中では上手くいってないと思っているのでしょうが、俺にとっては嬉しかったんです。あの味は忘れられませんよ、いつまでも…」
「あなたにとっては思い出の味なんだね」
あまりにも彼が嬉しそうに語るものだから、私も思わず微笑んでしまった。今日の晩御飯はカレーにしようか、できる限りあの頃の味に寄せて。
テーマ「忘れられない、いつまでも」
5/9/2024, 10:39:05 AM