もしも未来を見れるなら、楽しいことが多いのだろうか。それとも、悲しいことが多いのか。
もし前者だとするならば、私と彼の幸せな時間だろう。彼と結婚して、どんな家庭を築いているのか。どんな所へ旅行に行くのか。共に笑いあって、幸せな時間が流れているのだろう。
もし後者だとするならば、私と彼との別れだろうか。最期に私が彼を置いていってしまうのか、あるいは彼が私を置き去りにしてしまうのか…愛別離苦の憂いばかりが募ってしまう。
私は、後者の方が真っ先に思いついた。最期を見れるのならば、突然の別れを避けようとすればいいのだろうが、もしそんな能力を持っていたところで、未来を、運命を変えるほどの力はないのだろう。だとしたら、私はそんな能力を欲しいとは思わない。
「…?何を考えているのですか」
「ううん、何でもない」
今こうして彼と共に過ごせるだけで、私は幸せなのだから。これ以上もう望むことはない。
テーマ「もしも未来を見れるなら」
目を覚ますと、視界に映ったのは白黒写真のように色の無い世界だった。自分だけが色がついていることが、この世界の異常さを際立たせている。この無色の世界から抜け出すために、辺りを探索してみても、何も手がかりが見つからない。
「あの、すみません」
俺は近くを通りかかった人に声をかけてみるが、こちらに反応する様子が無かった。無視されたのかな、と思いながら少し歩いて交差点に出た。人が多くてぶつかりそう、と思っていたがなんと俺の体は彼らをすり抜けてしまった。
(もしかして、俺は周りから見えていない…?)
そう気づいてしまった瞬間、自分の体から色が消え始めた。嫌だ、消えたくないと心で願いながら涙を流していると、後ろから抱きしめられる感覚で我に返った。振り返ると、色のついている彼女が後ろに立っていた。
「大丈夫、ずっとそばにいるから…」
彼女がそう言った瞬間、辺りが光に包まれた。眩しくて目を瞑り、次に目を開けた時には自分のベッドの上にいた。
「怖い夢でも見ていたの?かなりうなされていたけれど…」
心配そうに見つめる彼女を見て、俺はホッとした。周りも色がついていたので、あの無色の世界は夢だったことが分かった。
「えぇ、色のない世界をさまよう夢でして…自分が消えてしまうのかと」
「そうだったんだ…でも、私はずっと一緒にいるからね」
そう言って彼女は俺を抱きしめて、背中を撫でてくれた。俺にとって、色のある素敵な世界を教えてくれたのは彼女なのだろう。もし、出会うことができなかったら…なんて考えそうになったが、すんでのところで止めた。
テーマ「無色の世界」
美しいと感じるものは、だいたい儚いものだ。月に叢雲花に風とか、花に嵐とか、桜の花の儚さに例えた言葉は多く存在している。
この前まで満開だった桜も、今では散って葉桜になり始めており、浮かれていた気持ちも落ち着くどころか切なくて薄ら寂しいものになってきた気がする。
「今年も、桜の季節が終わっちゃったね…」
「そうですね…時が経つのは早いものです」
帰りの電車に乗って車窓から桜を眺めながら、彼とそんな話をしていた。その時に彼から教えてもらったのだが、桜の異名として夢見草というものがあるらしい。確かに、桜が散った時の寂しさは、楽しい夢から覚めてしまったかのような感覚に似ているかもしれない。昔の人の感性って凄いんだなぁ、と思った。
「季節の移り変わりに一喜一憂するのって変なのかなぁ?」
「そんな事は無いですよ?貴方のような繊細な心があるからこそ、美しいものの大切さが分かるんだと思います」
「そっか。花が散っても、今度は緑が育つ季節だもんね」
「そうです。良いことは長く続かないかもしれませんが、悪いこともいつか終わりが来るものです。だから、次の楽しみを待ちましょう」
なんか賢い彼なりの励ましを受けつつ、私たちはガタゴトという音だけが響く電車に揺られていた。美しく儚いもの、春は桜、夏は花火、秋は紅葉、冬は雪かなぁとか考えていると、寂しさは楽しさ、美しさを知っているからこそ来るもので、排除するべき悪い感情ではないのかもと思えた。
テーマ「桜散る」
小さい頃に憧れて、夢見たこと。それは童話のように、可愛いお姫様になって王子様と結ばれたいとか、不思議な世界を冒険をしてみたいとか色々あったと思う。しかし、大人になるにつれて、そんな輝かしい世界もいつしか色褪せて見えてしまい、ワクワクする気持ちも薄れていった。それでも心のどこかでは、諦めずにそんな幻想を追いかけたい気持ちもあるのかもしれない。
ある日、私と彼はデートで大型のショッピングモールを歩いていた。何を買うでもなく、ただ店を眺めながら歩いていると、ふと雰囲気の違った店の前で私は足を止めた。その店では童話のお姫様や、上品なアンティークドールが着ているような、所謂ロリィタ・ファッションを売っていたのだ。
「おや、このお店が気になっているのでしたら寄っていきましょうか?」
私の様子の変化に気づいた彼が私にそう声をかけてくれた。私は首を縦に振って、その店に寄ることになった。そこには現実世界をも忘れてしまいそうなほど、私の心の奥底にあった夢見る心に訴えかけるような、少女が憧れるような幻想が広がっていた。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
店員さんが声をかけてくれて、色々な服を見せてくれた。その中でも気になったのは、星空を模したようなスカートで、それを手に取ったらすぐに似合いそうな服やアクセサリーを持ってきてくれて、試着もさせてくれた。
「どうかな、似合ってますか…?」
「お客様すごくお似合いですよ!」
着替えて試着室を出ると、まず店員さんが褒めてくれた。彼にも見てもらおうと彼の姿を探すと、固まってしまった彼がいた。えっ、似合ってなかった?っと内心慌ててしまった私に対して、
「俺だけの可愛いお姫様ですねこれは…」
と、顔を赤くして照れながら彼が呟いた。それを聞いた私も照れているのか、顔が熱くなっていく感覚を覚えた。そして、私は試着したもの全てを買って、店員さんの計らいで着替えたままその後のデートをお姫様として楽しんだのだ。
テーマ「夢見る心」
これは、私が彼に片想いしていた頃の話。それは、人魚姫のような恋煩いをしていた。
彼は、いつも多くの人に囲まれていた。優しくて、かっこよくて…どんな人の前でもその態度を崩すことがなかった。そんな私にとって王子様に見えたあなたを、平凡な私はただ見つめるばかりだった。彼と目が合っても、すぐに私は逃げてしまった。まるで陸と海のように、大きな隔たりがあるように感じて、私の気持ちは届かぬ思いのまま、自分の中に閉まっておこうと思っていた。そのはずだった。
「俺と、付き合ってください。ずっと前から貴方の事が好きでした」
なんの間違いだろうか。ある日彼は私に告白をしたのだ。いきなり海の底から陸に引っ張り上げられたような、今までに感じたことのない気持ちに戸惑いながらも、私は両想いだったことに喜んでYESと答えたのだった。
それから時が経ち、共に暮らすようになってから私は彼に聞いてみた。
「ねぇ、いつからあなたは私の事が好きだったの?」
「実は幼い頃に貴方に助けられたことがありましてね…その時から片想いしていたのですが、昔の貴方は目が合うとすぐに逃げてしまって、告白するまで届かぬ思いを抱えていましたよ」
なるほど、ずっと前から両片想いだった訳か。
テーマ「届かぬ思い」