彼から呼び出されて、私は彼の家に行った。こんな夜遅くに何だろう、と思いながら呼び鈴を鳴らすと、ゆっくりとドアが開いた。
「こんな夜遅くに呼び出してしまってすみません。どうしても、あなたに渡したいものがあって」
そう言って彼は私を部屋に招き入れた。少し待っていてください、と言われたので私はリビングのソファに座って彼を待つ。
「お待たせしました。左手を出してもらえますか」
「いいけど…」
言われた通り左手を出すと、薬指にキラリと輝く指輪を通された。
「これって…?」
「俺と結婚してください。貴方を一生幸せにすると必ず誓います」
まさかのプロポーズをされた。小さい頃からの長い付き合いだった彼とは、恋人になって何年か経っていたが、結婚を前提にしてくれていたことに感動した。
「はい、もちろん。喜んで…」
神様へ。あなたが私たちを巡り会わせてくれたおかげで、今でも私たちは幸せです。これからも、一生お互いに幸せでいられるように、見守っていてください。
テーマ「神様へ」
桜が咲く頃、花曇りの空が多かった中で、今日は雲ひとつない快晴だ。暖かいを通り越して暑さすら感じる昼下がりに、私たちは散歩をしていた。
「今日はどこへ行くのですか?」
「うーん…決まってないけど、春を感じに行く!」
すごく大雑把な私の答えに苦笑するも、彼は繋いだ手を離すことなくついてきてくれた。少し歩くと見えてきたのは、菜の花畑だった。青い空の下に咲く黄色い花のコントラストが美しかった。さらに歩くとその他にも、花壇に咲いている色とりどりの花や、満開を迎えた桜の花など、様々な花の色や、風に乗ってくる香りを楽しみながら、歩みを進めていく。
「新しい場所に来たら、こんなにも春を感じられるなんてね〜」
「今まで寒い場所にいて、季節の変化をあまり感じなかったから、すごく新鮮ですね」
手を繋いでルンルン気分で歩いているとかなり時間が経ったのか、あるいはずっと動いていたからか、お互いに汗をかき始めていた。
「暖かいとは思っていたけれど、少し暑いかもね…」
「そうですね、アイスでも買って帰りますか」
充分に春の訪れを感じて満足した私たちは、コンビニへ入ってアイスを買いに行ったのであった。
テーマ「快晴」
"山のあなたの空遠く、幸ひ住むと人のいふ。"
小さい頃にそんな詩を習った事があったが、遠くの空へ向かわないと本当の幸せには出会えないのだろうか。少なくとも私は、そうは思わなかった。なぜなら、今の私には愛し合っている彼の存在があって、お互いがいるだけで幸せなのだ。
「ねぇ、幸せってなんだと思う?」
「おや、難しいことを聞きますね。俺にとって、貴方と一緒に過ごす時間は幸せですよ」
彼は微笑む表情を変えることなく、私にそう言った。やっぱり、幸せの形は人それぞれなのだろう。美味しいものを食べた時、好きな人とともに過ごしている時…。そのどれもが、幸せの形なのだろう。それに対して他人が介入したり、評価できるものではない。それでも、お互いに考えていることが同じであることもあるのだ。
「ありがとう。私も、あなたと一緒に居られて幸せだよ」
遠くの空へ行かなくても、気づいていないだけで幸せは身近なところにあるのかもしれない。
テーマ「遠くの空へ」
私は、彼のことが大好きだ。もしかすると、それよりも『愛してる』という言葉の方が相応しいのだろうか。
彼は私のことを、可愛いとか、愛おしいとかよく言ってくれるけれど、そのどれもが私の様々なところを褒めてくれるのだ。私だって、彼のことをかっこいいし、優しいと思っている。なのに、彼のどこがかっこよくて、どういうところが優しいのか、上手く言葉にできない。それでも、好きという想いを伝えたくて、私は思わず彼をギュッと抱きしめる。
「おや、いきなり抱きついてどうしたのですか?」
「…大好き」
困惑した様子の彼に私は、拙いながらも想いを伝えた。なぜあなたを好きになったのか、言葉にできないけれど、こうでもしないといつか離れていってしまいそうな気がするのだ。それでも、察しの良い彼は優しく微笑みながらこう言った。
「大丈夫ですよ。俺も、貴方のことを愛していますから。ずっと傍に居ます」
テーマ「言葉にできない」
暖かくうららかな日差しに包まれた休日。桜は満開の頃を迎え、淡く小さな花が咲き乱れていた。こんな日はお花見をするのに丁度いい。そう思った私たちは、和菓子屋でお団子をいくつか買って、ベンチに座ってお花見をしていた。
「今年は桜の綺麗なところに行けて良かったね」
「本当ですね、ここまで見事な桜を見たのは初めてかもしれません」
私たちはお互いに笑顔を浮かべながら、桜の生み出す幻想的な風景の中で甘いお団子を頬張っていた。すると彼が突然、私の頭に手を伸ばした。何だろう、と思って彼を見ると、
「ふふ、頭の上に花びらが付いていましたよ。可愛らしいですね」
そう言って彼は指で摘んだ花びらを私に見せた。私だってもう大人なんだから、子どもを可愛がるような言い方をしないでよ。と少しムッとした表情をすると、彼はさらにクスッと笑った。桜はすぐに散ってしまうほど儚いけれど、私たちのこんな幸せな時間はいつまでも続いて欲しいなと思った。
テーマ「春爛漫」