Sasha

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7/15/2023, 2:22:19 AM

「わしらは浜松の国衆と、手を取り合って進むんじゃ!」

殿は、興奮して叫びながら、部屋の中をグルグルと歩き回っている。きっとアドレナリンが出まくっているんだろう。

しかしこの後起きることを知っている俺は、迂闊には賛同できない。徳川はこの戦で、コテンパンにやられる。それが史実だ。

この戦の戦死者は、たしか3000人くらいいたはずだ。三方原で武田軍に待ち伏せされた徳川軍は、文字通り惨敗に終わる。その中に俺が加わるのはゴメンだ…

「と、殿!岡崎へはいかが知らせましょうか?」

おずおずと俺は声をかけた。出来れば、何とか出陣を思い止まらせたい。しかしそれでは、歴史への干渉になってしまう。出来ることは、そう逃げることだ。

俺は伝令として、城を出ることにした。

【手を取り合って】

7/14/2023, 6:53:42 AM

「あーあ来週かあ…。」

私は大きく伸びをした。ここは、会社の休憩所だ。

「何が?」

同僚のイシイちゃんが尋ねる。アクティブな彼女と大人しい私では、まったくタイプが違うが、不思議とウマが合うのだ。

「いや、来週結婚式なんだよね。友達の。出費はかさむし、旦那はイケメンだし、イマイチお祝いするモードになれないんだよねえ…。」

「人の幸せを素直に喜べない人は、劣等感が強いらしいよ。」

「え、何それ!?」

私は思わぬ鋭い言葉に、胸をズシリと射抜かれたように感じた。

「劣等感?そりゃまあ、確かにあるけど…。でも友達も悪いんだよ、なんせイケメンの旦那ができて、優越感のかたまりみたいになってるんだから…。」

「まあまあ。そんなんほっときなよ!飲みに行こ!」

彼女は何かというと飲みに誘う。

「わかった。じゃあ仕事終わったらね!」

私は思わず約束をして、制服に着替えた。制服があるのは嫌だったが、今以上は太れないという縛りが出来て、助かる部分はある。

結婚式前にあまり太りたくはないが、この制服が入るサイズなら、パーティードレスも入るはずだ。

【劣等感、優越感】

7/13/2023, 2:51:36 AM

僕にはこれまでずっと、みんなに隠してきたことがある。それは、僕が20代の頃に犯した犯罪のことだ。

僕はまだ若く、人を傷付けるということがどういうものか、分かっていなかった。感情のままに動くことが、どういう結果をもたらすのかについても…

あの夜、僕は真っ暗な闇の中を、パトカーの後部座席に乗って走った。手には冷たい手錠がはまり、両側には屈強な警官がいた。

拘置所のことはよく覚えていない。次の記憶は、裁判所で衝立を隔てて、被害者の証言を聞いている場面だ。

僕の顔も見たくないのだろう。それは、そうだ。僕が犯した犯罪に、自分ながら反吐が出るような嫌悪感を覚えている。

【これまでずっと】

7/11/2023, 12:50:27 PM

その一件のLINEは、今も私のスマホの中にある。彼がもう、この世にいない者たちの仲間になったとしても。

プロフィール写真が消えた今になっても、私が存在する限り、彼は存在する。

彼の肌の温もり、汗ばむ肌、声、軽やかな足さばき…私はいつでも目の前に彼を再生できる。

そして、今夜も永久に既読がつくことのないメッセージを眺めている。

【一件のLINE】

7/10/2023, 11:11:08 AM

目が覚めると、そこは小高い丘の上の草原だった。色とりどりの花が咲き乱れ、大気には白い霧がかかっている。

草原の間を、柔らかな曲線を描いて小川が流れる。眼前にはまぶしく白い光の存在がふたつ、輝いている。

光の存在にいざなわれ、私はいつしか大樹の下にいる。私は確信した。彼らは、天使だ…


「生涯にわたって、私はあなたを支える。」右の光が言う。

「あなたが望むとき、いつでも私はそばにいる。」左の光がささやく。

そのとき、背後にもう一人光の存在がいることに気づく。

「あなたはすべて許されている。」

私は至福の感覚に包まれる。

しかし別れの時は訪れ、気がつくと私は、草原の上で白い薔薇の輪の中に横たわっていた。

あれは夢か?しかし夢ではない証拠に、手のひらには握りしめた手の感触が残っている。

【目が覚めると】

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