NoName

Open App
7/31/2024, 2:07:09 PM

一人でいることのメリットは、何だろうか。

他人への気遣いが不要なこと。
自分のやりたいことや、好きなタイミングを選べること。
興味本位が出来ること。
大体の事柄の責任が自己完結すること。

そんな事を頭の中でつらつらあげていると、中学生時代の一人散歩の思い出が浮かんできた。

最近の私はどうも、過去の記憶に惹かれやすい。

「それはきっと、ノスタルジーな夏だから」と意味もなくカッコつけて言いたいところだが、ノスタルジーが消し飛び、エモさも消し炭になる、ここ最近の酷暑は一体何なのだろうか。昔の風情ある夏を見習ってほしい。…けれど、清少納言の「夏は夜…」も京都の暑さがヤバすぎて、日中はマジ無理すぎるからという解釈が出回っていたような…。大昔も「夏は無理」だったのだろうか。
…脱線した。

過去の出来事にフォーカスがいくのは、興味の矢尻が過去を指しているからとでも思っておこう。

一人散歩は、中学一年と二年の十一月にしていた。
十一月にしていた理由は、
一つ、涼しい。
二つ、大きな試験や行事が無かったから。(文化祭が無い学校だった)

休日の早い時間に起きて、尚且つ気分が良い時にだけ一人散歩をしていた。

携帯電話を持っていない年齢だったが、親には「ちょっと出かけてくる」とだけ言って、少ない小遣いを持っていけば何も問題はなかった。

ちょっと出かけてくる──そう言って、向かう先は片道9キロの隣町。道中、興味本位で横道にそれたりすることもある為、だいたい2時間〜3時間の道のりだ。

地図も使わず、勘だけを頼りに歩いていく。

住宅街を友達の家に向かうフリをして歩き、車の通りが多い割に建物がないだだっ広い大通りは、大通り唯一のコンビニへ向かうフリをする。子供の一人歩きと思われないように、その場その場に合わせた行動を心がけていた。心の中はいつも「地元の子ですが、何か?」である。

9キロの道のりの中には、心惹かれるものが多くあった。
夕暮れ時に見ると美しい麦畑。涼しい木陰の小道。変わりどころでは、高速道路の入口などもあった。
勿論、高速道路へ進入することはないが、眼下に走る車の行く先に興味の目を向けたことは、一度や二度では足りない。
車があれば、東京まで行けてしまう道なのだから。
「大人になれば東京に行くのだろうか」
そんな事を呟き、真っすぐ伸びる道路の先に、未来の道があると信じていた。

一人散歩は、ブラブラ歩くだけが目的ではない。
散歩が持つ本来の目的は、地元にない本と巡り合う為である。

隣町には、無名の小型書店と個人経営の古本屋が数軒あった。

地域密着型の小型から中型の書店には、それぞれカラーがある。店主の好みや地域の年齢層などによって、大型書店とは取り扱う本が違ったりする。その為、古本屋に置かれた本のラインナップも普段目にしないものがあったりする。
地元から少し離れただけで、珍しい本と出会えることは少なくないのだ。
お小遣いが少ない私にとって、こういった古本屋はまだ見ぬ未知の本との出会いの場だった。

本屋を一通り楽しみ、財布に余裕がある時は、公衆電話に十円を入れて、家に電話をかける。

「今、〇〇駅にいるよ。今から帰るね」

電話を受けた母親は「出かけるっていうから近所かと思ったのに、何でそんなところにいるの」と笑っている。
自宅の最寄り駅と隣町は路線で結ばれておらず、電車を使うならば遠回りすることになる。
その為、隣町は車で行く場所であった。
電話の終わり際「気を付けて帰っておいで」と言ってくれる。

帰りも勿論歩きだ。

帰りの目印はいつも、某市にあるマンション。
それが見えている限り帰れる自信があった。

秋の日暮れはつるべ落としというが、本当に日が暮れるのが早かった。

早く帰らなくてはいけないのに、帰り道の半ば、夕暮れ時にだけ見れる絶景があった。
それは、9キロの道のりの半ばにある麦畑。

地平線の彼方にたなびく紫の雲に、黄金色の夕日。黄昏時の麦畑は、黄金の海に姿を変えていた。
風が吹くたびに、音を立てて黄金のさざ波がたつ。
金色に染まる景色の中で、夕日が沈んでいく。
その見事な輝きと、筆舌に尽くし難い金と紫の絶景に、私は何度息を呑み立ち尽くしただろうか。

何時までも見ていたい景色だが、黄金の元では黒い影が長く伸び、迫りくる夜をその内に隠している。
見惚れている内に、街灯に明かりが灯り始めた。

夕日が姿を消してしまうと、紫から藍の空に変わり、いつの間にか星が瞬き始める。

美味しそうな夕飯の香りがする住宅地をいくつも抜ける時、思っていたことがある。

「帰る場所があるから、遠くに行けるんだ」

一人散歩のメリットは、
自分の気持ちに素直に歩けることと、大切な何かを悟れることだと私は思っている。

だから、一人でいたいと思う時は、大人になった今も一人散歩をするようにしている。

────────────────────────

だから、一人でいたい

7/30/2024, 2:53:39 PM

宮沢賢治の物語で好きなものはたくさんあるが、中でも一等好きなのは「注文の多い料理店」だ。

このお話に出会ったのは、幼稚園の時。
旅先の蓼科高原のロッジ(父親の勤めていた会社が保有していた別荘)でテレビを観ている時に偶然かかった。
アニメーションではなく、紙芝居タイプの番組で、動かない絵に物語のナレーションがついているだけのシンプルな作りだったと思う。

何故、「思う」という言葉を使うかというと、当時の記憶を探るに登場人物たちが動いて見えていたからだ。
しかし、かつてルドルフとイッパイアッテナも動いて見えていたが、大人になって紙芝居だったと知り驚いた経験がある。その為、自信はない。

「注文の多い料理店」は当時の私にとって、素晴らしい物語だった。
蓼科高原で体験したことよりも、「注文の多い料理店」が旅先の印象として残ってしまうくらいに。

幼い時の私は、一度見たものを何度も頭の中で再生することが出来たので、何回も何回も繰り返し頭の中で物語を味わっていた。いつしか沢山の記憶の山に埋もれ細部が霞んでしまっても、物語を楽しんだ喜びだけは残り続け、今なお星のように輝き続けている。


さて、宮沢賢治といえば、雨ニモマケズや農民芸術概論綱要など素晴らしい言葉の数々を生み出しているが、私が好きな言葉は「注文の多い料理店」の序文にある。本当は序文全てが好きなのだが、中でもというところを引用する。

───────────────────────
これらのちいさなものがたりの幾いくきれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

『注文の多い料理店』序 宮沢賢治

───────────────────────

賢治先生が拵えてくれた「すきとおったほんとうのたべもの」を幼少期の澄んだ瞳をしていた時に食べることが出来たのは、今でも幸運だと思っている。


────────────────────────
澄んだ瞳

7/29/2024, 2:57:20 PM

コロナ禍になる前の話だが、
大型台風が関東に上陸するというニュースを見て、
私は気が気でなかったことがある。

何故ならば、推しのイベントが台風に直撃する可能性があったからだ。

手に入れたチケットを片手に、SNSで情報収集をしていると、運営のアカウントがイベント開催を発信していた。

大型台風は、夜から明け方のうちに関東を抜けるという予報だ。運営側は予報に賭けたのだろう。
予報通りであるならば、イベント当日は台風一過となり交通機関もそこまでマヒしていないはずだ。
しかし、もし台風が長引けば、会場までの足が無いためイベント参加を断念しなくてはいけない。

参加できない場合は、チケットのお金は払い戻しをすると運営側は発信している。

払い戻しの対応をしていただけるのは、とても有り難いことだ。とても誠実な対応だと思う。
しかし、イベントに参加したい気持ちの溜飲を下げるには少々足りないのである。
欲しいのは、お金ではない。
推しと同じ空間に居られること、推しを生で見られること、普段では決してありえない──特別な喜びが欲しいのだ。

台風よ去れ!或いは、温帯低気圧に変わってしまえ!

私はチケットを握りしめ、スマホに映る台風の予想進路図にありったけの念を飛ばした。

私の念がきいたのだろうか。
或いは、あの台風が来るという時、他にも大型イベントが重なっていたので、そこに参加する人たちの想いが空に通じたのか──翌日、台風は姿を消していた。

私はチケットを大切に鞄に入れると、水没ギリギリの橋をいくつも越え、イベント会場に向かった。

会いたいと思う気持ちは、嵐をも消し去り
会いたい人に会える喜びは、嵐をも越える力となる。

ヲタクというのは、なかなかパワフルな存在だ。

まだ参加はしたことがない──というか、チケットが即SOLD OUTになってしまって参加できたことがないアーティストのライブは雨が多いという。

SNSを見る限り、雨を乗り越えるのもファンの中では慣例となっているようだ。

私もいつかソレを体験してみたいものだが、チケット戦争に勝てるかどうか。

嵐を乗り越えることより困難なのは、チケット戦争かもしれない。←

────────────────────────
嵐が来ようとも

7/28/2024, 1:02:55 PM

お祭り…。

小学生の時、夏祭りは楽しみの一つだった。

近所に公園が3つほどあったのだが、同じ日に夏祭りをするものだから夏祭りをハシゴすることもあった。

夏祭りで忘れられないエピソードと言えば、ラムネ早飲み大会だろうか。


夏祭り会場は、家から近い小さな公園だった。
小さいながらブランコなど遊具のあるエリアと、グラウンドのエリアに分かれている公園で、グラウンドの方が主会場となっていた。

2階建ての盆踊りのやぐらを囲むように露店が並び、中心の櫓から四方に向かって赤い提灯が吊るされていた。
まだ日が高かった為、提灯に灯りは灯っていなかった。
ジリジリとした日差しが、Tシャツから伸びる腕やキュロットスカートを履く素足を焼いている。

蒸し暑い会場内は、焼きトウモロコシや焼きそば、たこ焼き、綿あめど、美味しそうな匂いが代わる代わる生温い風に乗ってやってくる。
ユラユラと揺れる提灯と呼応するかのように、子供の笑い声も弾けている。

くじでもひこうかと会場内を歩いていると、学校の友人に会った。
終業式以来会っていなかった友人だったので、なんとなしに話をしていたら、ラムネ早飲み大会のエントリーチケットを手渡された。
参加予定だったが、用事が出来てしまった為代わりに出て欲しいという。
祭りをブラブラするだけの予定だったが、無料で炭酸が飲めるなら良いかと友人からチケットを受け取った。

ラムネ早飲み大会は、盆踊りの櫓の一階部分で行われる。
男女混合の年齢別で、トーナメント戦ではなく、純粋に4人の中で誰が一番に飲み終わるかだけを競うものだった。
勝者は名前を言っておしまい。
至って単純なイベントだ。

私の試合の時は、誰が居ただろうか。
記憶は曖昧だが、知らない男の子ばかりで女子は私だけだった気がする。

イベントスタッフさんにチケットを渡し、指示に従って櫓の階段を上る。
櫓の中には長机があり、ラムネが用意されていた。
ビニールの封は切ってあるが、ラムネのビー玉は嵌まったままだ。
スタートの合図と同時に自分でビー玉を落とさなくてはいけない。

司会者の女性がマイクでスタートの合図を切ると、私は勢いよくビー玉を押し込み、口の中にラムネを流し込んだ。

シュワシュワとした口当たりに、周囲の男の子達は息継ぎをしながらラムネを飲んでいるのだろう。時折カランという音が周囲から響いてくる。

傾け過ぎず、窪みにビー玉を引っ掛ければビー玉は邪魔をしてこない。
その知識は無かったのだが、ビー玉を揺らしている内にそこに引っかかったのだろう。
ビー玉に邪魔されることなく、スルスルとラムネが口の中に入ってくる。

当時、我が家はオ◯ナミンCブーム真っ只中だった。
ブームの火付け役は母親だったのだが、夏バテ防止になるからと1日1本飲んでいた。
オ◯ナミンCより炭酸が弱いなと思いつつ、一気にラムネ飲み終え、空ビンを長机に置く。

2位くらいかな?と思い周囲を見ると、男の子達はまだラムネを飲んでいた。

司会者の女性がやってきて、長机の前に出てくるよう指示された。
「お名前は?」とマイクをこちらに向けてくる。

そこで初めて私は、イベントを観る人達の視線に気がついた。
ラムネ早飲み大会の会場である櫓は、小学校低学年の身長と同じ位の高さがある。
大した高さではないが、会場を一望することが出来る。
記憶の中では大した人数がこちらを見ていたわけではないのだが、当時の私は衆目のある中でマイクを向けられるという状況が耐えられなかった。

マイクに向かって吐き捨てるように名前を言うと、ピョンっと櫓から飛び降り、脱兎の如く会場の外へと逃げ出した。

櫓から飛び降り、会場を走り抜ける時に包みこんでいたザワザワとした音は今でも忘れられずにいる。

夏祭りの中で、1等恥ずかしい思い出だ。

良い子は、櫓から飛び降りてはいけないよ。
かつて恥ずかしい思いをしたお姉さん(審議)と約束だ。

7/27/2024, 1:39:15 PM

「フィボナッチ数列…フラクタル…黄金比…。この世界は本当、PCの様に数式で成り立っているね。いや、PCの方がこの世界を真似たのか。いずれにせよ、天才プログラマーがこの世界を作ったというのは変わりないね」

──世界は面白いねぇ。

他人事のように呟き、読んでいた本をパタリと閉じ机の上に置いた瞬間──眩い光に包まれた。

カラフルな色が飛び交う目を擦っていると、頭上からしゃがれた声が聞こえた。

「この世界に興味がおありかな?」

目を細め、声がした方へ顔を向けると、神御衣に身を包んだ──ハゲた髭面の爺さんが雲に乗っているのが見えた。
ご丁寧に後光のエフェクト付きだ。

白い空間の中を漂うその姿は、万人が思い浮かぶ「神様」のイメージそのままだった。

なんてベタで、あり得ない光景だろうか。
脳の冷静な部分が「ハゲって光るんだ…後光背負ってハゲ隠しのつもりなんだろうけど、頭のテカりヤバっ。電球じゃん。えっ、何ワット?」と現実逃避を始めた。

口をポカーンと開けフリーズしていると、雲に乗ったハゲ…神様は首を傾げた。

「お主、世界のことを知りたいのではないのか?なんでボーッとしとるんじゃ?ワシ、制作者じゃぞ?チャンスじゃぞ?…なんじゃ、思わせぶりな事を言うから出てきてやったというのに。なんも言わんのか。出てきて損したわい」

最近の若いもんは、板っペラにあれこれ聞くばかりで面と向かって教えを乞おうともせん。
神様は、しゃがれ声でまだブツブツと文句を言っている。
その姿は──雲に乗っていることを除けば──偏屈な爺さんに見える。

偏屈爺さんは文句を言っている内に、自身の中で不満を募らせ拗らせたのだろう。

「呼ばれ損じゃわい!」

顔を真赤にして突然怒鳴り声をあげた。
偏屈爺さんが乗る雲も、沸騰したかのような蒸気をあげている。
その姿は、とてもヒステリックだ。

怒鳴り声を食らった耳が痛い。
正直、関わるのは面倒くさそうだ。
しかし、聞き捨てならない発言があったのでこれだけは言っておかなくてはいけない。

「…呼んでません」

あなたが、勝手に、やって来ただけです。
冷静に一言一言、力を込めて言ってやると、偏屈爺さんは「確かに…言われてみればそうじゃな」とケロリとした顔で言った。
ピーピーと蒸気を上げていた雲も、綿あめのような雲に戻っている。

「でも、お主質問ないんじゃろ?」
ならば、ワシ帰るぞ。
神様はおざなりに言うと、薄っすらと透け始めた。

「あの、一応…質問あります」

「なんじゃい」

「この世界を作るにあたり、デバッグとかはどうやったんですか?デバッグに掛かった時間はどれほどですか?現在のような世界になることは、想定内なのですか?」

立て続けに質問すると、神様はニヤリと笑った。

「それは…秘密じゃよ。知りたくば解き明かしてみよ」

そう言うと、目を開けていられないほどの眩い光が辺りを照らし──再び目を開くと、そこは元居た部屋だった。
机の上には、神樣らしき人物に会う前に読んでいた本が置いてある。

本の隣にあるスマホを開くと、時間は5分ほどしか経っていなかった。
スマホを切り、息をスッと吸う。

「思わせぶりな事を言っておきながら、結局なんも教えないってなんだ!!詐欺かっ!!」

天井に向かって叫ぶと、しゃがれた笑い声が遠くから聞こえたような気がした。

────────────────────────
神様が舞い降りてきて、こう言った

Next