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「フィボナッチ数列…フラクタル…黄金比…。この世界は本当、PCの様に数式で成り立っているね。いや、PCの方がこの世界を真似たのか。いずれにせよ、天才プログラマーがこの世界を作ったというのは変わりないね」

──世界は面白いねぇ。

他人事のように呟き、読んでいた本をパタリと閉じ机の上に置いた瞬間──眩い光に包まれた。

カラフルな色が飛び交う目を擦っていると、頭上からしゃがれた声が聞こえた。

「この世界に興味がおありかな?」

目を細め、声がした方へ顔を向けると、神御衣に身を包んだ──ハゲた髭面の爺さんが雲に乗っているのが見えた。
ご丁寧に後光のエフェクト付きだ。

白い空間の中を漂うその姿は、万人が思い浮かぶ「神様」のイメージそのままだった。

なんてベタで、あり得ない光景だろうか。
脳の冷静な部分が「ハゲって光るんだ…後光背負ってハゲ隠しのつもりなんだろうけど、頭のテカりヤバっ。電球じゃん。えっ、何ワット?」と現実逃避を始めた。

口をポカーンと開けフリーズしていると、雲に乗ったハゲ…神様は首を傾げた。

「お主、世界のことを知りたいのではないのか?なんでボーッとしとるんじゃ?ワシ、制作者じゃぞ?チャンスじゃぞ?…なんじゃ、思わせぶりな事を言うから出てきてやったというのに。なんも言わんのか。出てきて損したわい」

最近の若いもんは、板っペラにあれこれ聞くばかりで面と向かって教えを乞おうともせん。
神様は、しゃがれ声でまだブツブツと文句を言っている。
その姿は──雲に乗っていることを除けば──偏屈な爺さんに見える。

偏屈爺さんは文句を言っている内に、自身の中で不満を募らせ拗らせたのだろう。

「呼ばれ損じゃわい!」

顔を真赤にして突然怒鳴り声をあげた。
偏屈爺さんが乗る雲も、沸騰したかのような蒸気をあげている。
その姿は、とてもヒステリックだ。

怒鳴り声を食らった耳が痛い。
正直、関わるのは面倒くさそうだ。
しかし、聞き捨てならない発言があったのでこれだけは言っておかなくてはいけない。

「…呼んでません」

あなたが、勝手に、やって来ただけです。
冷静に一言一言、力を込めて言ってやると、偏屈爺さんは「確かに…言われてみればそうじゃな」とケロリとした顔で言った。
ピーピーと蒸気を上げていた雲も、綿あめのような雲に戻っている。

「でも、お主質問ないんじゃろ?」
ならば、ワシ帰るぞ。
神様はおざなりに言うと、薄っすらと透け始めた。

「あの、一応…質問あります」

「なんじゃい」

「この世界を作るにあたり、デバッグとかはどうやったんですか?デバッグに掛かった時間はどれほどですか?現在のような世界になることは、想定内なのですか?」

立て続けに質問すると、神様はニヤリと笑った。

「それは…秘密じゃよ。知りたくば解き明かしてみよ」

そう言うと、目を開けていられないほどの眩い光が辺りを照らし──再び目を開くと、そこは元居た部屋だった。
机の上には、神樣らしき人物に会う前に読んでいた本が置いてある。

本の隣にあるスマホを開くと、時間は5分ほどしか経っていなかった。
スマホを切り、息をスッと吸う。

「思わせぶりな事を言っておきながら、結局なんも教えないってなんだ!!詐欺かっ!!」

天井に向かって叫ぶと、しゃがれた笑い声が遠くから聞こえたような気がした。

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神様が舞い降りてきて、こう言った

7/27/2024, 1:39:15 PM