桜散る…。
不合格もこの言葉を使うが…さて、どうしよう。
…どうしようか…(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
────────────────────────
ソメイヨシノが散っている。
散る花弁は風に身を任せ一時の舞を人々に魅せながら、別れを告げている。
「また来年、桜咲くその日まで」
別れを惜しむ花吹雪に紛れて、不合格通知の紙吹雪も舞っていく。
異なる吹雪が願うはただ一つ
桜咲く。
酷暑の夏を越え、酷寒の冬を越え
再び迎える雪解けの春、麗しい芽が出ますように
夢見る心…。
夢見る=空想
空想=現実にはあり得ない事、
現実とは何ら関係のない事を、
頭の中だけであれこれと思いめぐらすこと。
ふと、夢見る機械は人か否かという話を思い出した。
夢見ることが出来るならば、その機械は限りなく人と言えるだろう。
何故ならば、「夢見る」の前に必要とされる大前提──「心」が存在しているのだから。
昨今はAIの成長が著しい。
人のように時間的要素に縛られることなく、半永久的に存続し続け、学び続けていくことがAIの強みだ。
そうなると、太古から人の願いの一つに不老不死というものがあるが、AIはそれを体現しうる存在なのかもしれない。
今はまだ人から学習をしている段階だが、いつの日か、夢見るAIが誕生する日が来るかもしれない。
その時、AIはAIとして扱われるのだろうか、それとも人として扱われるのだろうか。
そもそも人は存在しているだろうか。
ディストピアとユートピアの間で夢見る人間達から学び続けたAIは、どのような心で夢を見て、どのような現実を見ることになるのだろうか。
空想は尽きない。
届かぬ想い…。
昨日の物語と既視感ある感じですな。
(゜゜)…どうしよう…。
昨日が「神様へ」
今日が「届かぬ想い」
…。
♪神は言葉ばかり 人の餓えも儘ならず
…。
歌っている場合じゃないや。
…。
暗めにするか…明るめにするか…。
────────────────────────
最近研究所の周りで猫を見かける。
「あっ、また猫がいる」
お昼休憩の最中ぼんやり窓の外を見ていると、花壇の近くで一匹のクロネコが日向ぼっこをしているのが見えた。
最近よく研究所の周りで見かける猫だ。
首輪もしていないところをみると、多分ノラだろう。
「ごはんとかどうしてるんだろう?」
近年は餌付けに関しての取り扱いが難しいので、君子危うきに近寄らずという人も増えているかもしれない。
食べられる物を求めてひもじい思いとかしているのだろうか。
自由に見えがちだけど、ノラ猫も一苦労だなぁ。
ぼんやり窓の外のクロネコを見ながらそんな事を思っていると、猫に近付く影があった。
博士だ。
手にはペット用品店にあるようなフードボウルを持っている。
博士は猫に近付くとそっとフードボウルを置いた。
午後の日差しを受けて、フードボウルの中身がキラッと反射する。
どうやらあのフードボウルの中身はお水のようだ。
研究所の周囲は緑豊かで、住宅地とは離れた場所にある。研究所敷地内ということもあり、この後ご近所トラブルになるということはないだろう。
それでも、異臭を発生しない水をあげることだけに留めているのは、博士なりの配慮なのだろう。
動物が好きな博士の事だから、本当はキャットフードとかもあげたいのを我慢しているかもしれない。
クロネコは博士の置いたフードボウルをチラリと見ると、花壇から離れ、フードボウルに近付く──ことなく研究所の敷地内から出ていってしまった。
博士の配慮や想いはクロネコには届かなかったようだ。
お呼びでないと無視されたフードボウルを回収して項垂れる博士の後ろ姿は、哀愁が漂っていた。
「あの人から手紙が届きましたよ」
穏やかな日差しが差し込む病室に妻のやわらかな声が響く。
点滴の刺さった方とは反対の手で、妻の持ってきた手紙を受け取り差出人を確認する。
どこにでもあるようなエアメールだ。
差出人は、腐れ縁の幼馴染からだった。
片手では手紙が破れてしまう為、妻に頼んで封を切ってもらうと、中から出てきたのはこれまたシンプルな便箋だった。
広げると細々とした──見慣れたアイツの字が並んでいる。
読み始める前にそっと妻に目配せをする。それだけで全てを悟った妻は「談話室に居ますね」と一言残して病室を後にした。
出来た妻をもらったなぁと他人事のように思う。
自分は本当、幸せ者だ。
手の中にあるアイツからの手紙に目を通す。
そこには序盤からグチグチとした嫌がらせを宣うアイツがいた。
素直に淋しいって言えばいいものを。
実にアイツらしい回りくどい言だ。
有り難く受け取りやがれだと?
ハイハイ、確かに頂戴いたしましたよ。
コレで満足か?
ガラクタだらけね。
人生なんざそんなもんさ。その中にうちの妻みたいな宝石を一つでも見つけられれば大成功なんだよ。羨ましいだろう?
ハンカチ、キーキー噛んで羨ましがれってんだ。
俺にとってオマエは、腐れ縁の幼馴染。厄介な寂しがり屋で、気の合う──悪友。それ以上でも以下でもない。
ガラクタじゃないだけ有り難いだろう?
自慢してもいいぜ。ガラクタじゃないって。
面白いモノ…、あぁ見つけたよ。沢山。
話してぇよ、オマエに。
オマエが奢ってくれるなんて雪が降るかもしれねえこと、体験してえよ。
でも、悪いな。
帰れねえかもしれねえんだ、俺。
いや、帰れねえかもじゃなくて帰れねえんだ。
偉い先生曰く、この体もう保たねえんだと。
日本には戻れないんだと。
妻も俺も、もう腹は括っているし、決めたんだ。
残りの日々を静かに過ごすこと。
今まで言わなくてすまない。
すまない、すまない、すまない。
ゴメンな。
コレは俺の最後の我儘なんだ。
鼻の奥がツンとして、拭っても拭っても次から次へと涙が溢れてくる。
あぁ、覚悟を決めていたのにどうしてどうしてこんなに辛いのだろう。
パタリパタリと手紙に涙が落ちていく。
そのせいでアイツの名前が滲んでしまった。
滲むアイツの名前に、記憶の中のアイツの姿も薄れていくようで俺は嗚咽を漏らして泣いた。
神様へ
俺の命を差し上げますから
寂しがり屋のアイツが
悲しむことなく
絶望することもなく
温かなひだまりの様な世界で生きていけますように。
もし可能ならば、残していく人達をあの世から見守る権利を俺にください。
神様…。
快晴…
(゜゜)快晴?
…。
…困った。
快晴という言葉に合うキャラがいない…。
ラボ組→基本屋内
屋上組→屋外だが、彼らの性格的に快晴は似合わない…
思考組→夜の世界
さーて、どうしたものか。
────────────────────────
「ここは若い子達にお任せしては?」
開口一番博士は言った。
「いや、無理です」
即答したのは、屋上組の彼女だ。
眼鏡の奥の瞳が学生らしからぬ冷たさを帯びている。
「俺達、陽キャじゃないんで」
彼女の援護射撃に回ったのは屋上組の男子──通称、俺だ。
彼もまた、彼女とは違う冷めた目をしている。
二人とも学生なのに何処か大人のようで、大人ではない。とてもアンバランスな子供だ。
「だからといって私達というのも…」
困り顔で博士と学生の間に立つ女性──助手は言った。
気遣い屋なのでこの状況は辛そうだ。
彼らは、ラボ組、屋上組と呼ばれる登場人物たちだ。灰色の空間にいるのは彼らだけで他に人影はない。
「思考組と呼ばれる人たちは出番なしとばかりにこの場にいないし。屋内にいる私達より、君たち学生さんのほうが快晴って言葉は合うと思うよ」
博士が穏やかな口調でさり気なくプッシュをかける。
「イメージを勝手に押し付けるのは、大人としてどうなんでしょうか」
大人のような冷静さで学生服の青年が、博士の言葉を跳ね除ける。
「大人として正しいあり方を私達子供に見せていただきたく存じます」
青年の後に続いた学生服の少女も大人顔負けの口ぶりだ。
「えー…この子たち目がマジだ」
助手が素の口調で言葉を漏らした。
学生二人の目は助手の言う通り、マジな目をしている。これ以上の会話は平行線を辿る一方で不毛だろう。
博士もそれを察したのか、苦笑を浮かべると、彼らへ最終確認を行った。
「あー…。本当にそんなに…嫌なのね…」
「「はいっ!!」」
二人は大きな声できっぱりと返事をした。
「「わー、いいお返事だー」」
博士と助手の声が仲良くハモった。
「「では、後はよろしくお願いします」」
そう言うと学生二人は、灰色の空間の一部を裂き、ヒョイと跨ぐと姿を消した。
残されたのは、博士と助手の二人。
二人は灰色の空間の中、困り顔で向かい合った。
「…たまには君一人で出演というのはどうだろう?」
博士の発言に助手は目をまんまるにすると、ワタワタと慌てた。
「あの、ここに来て急に梯子を外さないでください博士っ!!」
「だって、快晴って何?僕と快晴って何?」
「わかりましたから、2回も言わないでください。そうですね…。花壇のお手入れ…とか?」
「それ既に沈む夕日の時にやっちゃってるんだよぉ〜…」
確かに以前、いや、つい最近の文章だ。
同じシチュエーションのおかわり(時間経ってない)は如何なものだろうかと思わなくもない。
「…お花見とかします?」
時期的にはありかと思ったのだが、博士にとっては地雷だったのか、顔が青ざめている。
「平日にお花見したら、コイツラ仕事舐めてんのかとか思われちゃいそうだし。だからといって休日にお花見したら、部下の大切な休日を奪うって、今どきじゃあパワハラやらなんやら言われそうで無理だよぉ…」
博士もなかなかの気遣い屋だ。
「あっ、そういうの一応考えてくれているんですね」
顔をパッと明るくして助手が言う。
「そ、そりゃあ。き、君には長く、その、働いてもらいたいし。なるべく良い環境は、その、提供したいんだよ。しょ…所長として」
照れからなのか、顔を赤くしながら博士は言った。
青くなったり赤くなったり忙しい博士である。
「ありがとうございますっ。…何だか照れちゃいますね。あはは、なーんて」
助手も助手で博士と同じくらい顔が赤い。
「…」
「…」
顔の赤い博士と助手が二人して俯いて黙り込む。
いち早く気持ちを切り替えたのは、助手だった。
「と、とにかく。快晴で何かしましょう」
「…うん」
博士は赤い顔のまま、助手から目を逸らし小さく頷いた。
そのまま暫し俯いていたが、そっと動くと顎に手を添えた。
どうやら博士の思考が始まったらしい。
さて、どんな提案が来るだろうか。
助手として、サポートしなくては。
助手が意気込んでいると、博士と目があった。
「あのさ、もう今日はコレで良いんじゃないかな。僕たちは快晴が似合わないって話だけで」
「えっ、博士何言ってるんです?」
「あのね、この行数まで来ると打つのにラグがあって大変なんだよ。カクカクして打ち辛いんだ。だから、今日は終わろう」
「まさかのメタ発言」
「僕たちも帰ろう」
「あっ、博士待ってください。私、ここ何処かわからないのでって、ちょっと、置いていかないでください」
博士が切り裂いた空間に助手の姿が消えていく。
誰もいなくなった空間には、雲一つない空だけが広がっていた。