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1/23/2024, 11:58:41 AM

「こんな夢を見た。」って、夢十夜ではないか。
なんともまぁ、文学的なテーマだこと。

「こんな夢を見た。」の一文から始まる夢十夜は、夏目漱石によって書かれた──十の不思議な夢を綴る物語だ。

それがテーマとは、恐れ多いというか何と言うか。

さて、どうしたものか。

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こんな夢を見た。

朱色の鳥居を潜ると辺り一面、金雲に包まれた。

キラキラ輝いてしょうがないその雲を掻き分け境内へと進むと、狛犬が毬を転がして遊んでいた。

その側では尾の長い金の鳥が優雅に闊歩している。

どうやら、神社に鎮座している彫刻達が意思を持って動いているらしい。

そんな事を思いつつ、境内わきにある古びた五重塔へ向かう。
この五重塔は開放されていて中を見学することが出来るらしい。
何処で仕入れたかもわからない知識であったが、実際に五重塔の前まで行くと扉が開いている。

五重塔は長い年月たっているのか、朱色が所々剥げている。竣工時はさぞや色鮮やかだったのだろう。
そんな在りし日の事を偲びつつ、五重塔の中へと入った。

中へ入った私は肩透かしを食らった。

歴史的なものがあると思われた五重塔の中には、獅子舞がおみくじを引く機械がポツンと一台置かれているだけだった。
チンドンチンドンと場違いな音が何とも滑稽だ。

どれ、運試しでもなんて思う気力も起きない。

「なんじゃコリャ」と鼻で笑いながら、
私は早々に五重塔を出た。

五重塔から外へ出た瞬間、ドンっと大気を震わせる大きな音が鳴り響いた。雷鳴によく似たその音は、五重塔からだ。

何事だと五重塔の方を振り返ると、空を覆うほど大きな龍が、五重塔を突き破り空へ昇っていく最中だった。
墨で描かれたような立派な鱗が目に焼き付く。
大胆でありながら、暈しなどの繊細さは一流の絵師によるものと似ている。
生憎龍の顔は拝めなかったが、きっと美形であったに違いない。
そんな事を思ったのは、随分経ってからだ。

目の前ではバラバラと木片を撒き散らしながら五重塔が崩れていく。
口をあんぐりと開けてその光景に釘付けになっていると、龍は上空の雲に消えていった。

龍が消えると同時に、崩れてしまった五重塔は、逆再生のような動きをし始めた。周囲のバラけた木片が見る間に組み上がり形になっていく。
古びた五重塔があった場所には、黄金の五重塔が出来上がっていた。

かつて学生の時分に見た夢である。

あの世界は、この世とあの世の間であったのではないか。そんな事を思っては、あの龍の鱗の生々しさを思い返している。

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さて、この夢を作り話と思った人はどれだけいるだろう。
嘘のような真の話でありながら、夢の話。
掴みどころのないこの感覚は何とも面白い。

1/22/2024, 11:42:44 AM

今日のテーマは、タイムマシーン。

これは、マシーンがネックですな。

タイムトラベルでもなく、タイムスリップでもない。
タイム「マシーン」ですものね。

マシーン。…マシーン。

タイムマシーンというと、漫画だと、ドラえもん。
映画では、バック・トゥ・ザ・フューチャーのデドリアンがパッと浮かぶ。

時間軸の流れとは、常に一方方向だ。
そんな「時の仕組み」をなきものにするのがタイムマシーン。
過去へも未来へも自由自在に行ける魔法の機械だ。

しかし、時間とは本来干渉してはならないものなので、タイムマシーンを使うと歴史改変やら改ざんやらが起きてしまうのが、物語でのセオリーだ。

人生誰しも、あの時あの道を選んでいたらどうなっていたのだろうと空想する時がある。

選ばなかった道を進んでいたなら、今より幸せになっているかもしれない。と思うから、後悔するのだ。
選ばなかった道が、自分の死に繋がっていると思う人はあまりいないだろう。
今も生きているから、他の道の自分も生きている。

果たして、本当にそうなのだろうか──

時間を行き来出来るタイムマシーンがあったなら、答え合わせが出来るのだが。
タイムマシーンが出来るのはまだまだ先だろう。

そんな魔法のような乗り物が存在しない今、なるべく後悔せず生きるにはどうしたら良いものか。

今日生きているから、明日も生きているとは限らないという世界ならば、今を生きているということは、正しいルートを通っているからとも言えるかもしれない。

おやおや、こう思うと案外生きる選択肢をしっかり取っている自分が浮かんでくるではないか。

普段何気なすぎて気付かないが、命を守る選択肢を私達は取っている。

病気にならないように、事故に合わないように、危険な目に合わないように、沢山のセンサーがフル稼働しているから、生きていられる。

過去へ行くことは出来ない、未熟なこの体ではあるが、未来へ進むことは出来る。
例え今がどんなにどん底であろうと、未来は変えることができる。

この体というMachineを使って、どんな未来へ進んでいこうか。

そうして歩んだ遠い未来に、過去へ行くことのできるマシーンが登場するかもしれない。

その時、そのマシーンに乗る人は理解するだろうか。
未熟で沢山の間違いをおかしながらも、懸命に未来へ進もうとした人たちがいたことを。

1/21/2024, 11:47:53 AM

海に沈むのは久しぶりだ。

沈もうと思って、下半身まで浸かったことなら何度もある。
それでも最後までしなかったのは、空からの飛来物が嫌だったからだ。

我が物顔でやってきて、海を──この世界を荒らしていく。
それだけに留まらず、言葉に含まれた毒はこの世界を長く蝕む。
自浄作用が効かないほど蝕まれた海は、本体をも蝕み、本体の生きる世界にまで悲劇を起こす。

波打ち際に立つと、海へ誘うかのように波が足元をさらう。

一歩、一歩と進めば、懐かしくも忌々しい彼処へと辿り着く。
何年も行くことを忌避していたあの場所。
座るものが居なくなった椅子が一脚だけある──本来であれば彼女がいるべき場所。

今更行った所で、海の藻屑で荒れ果てて目も当てられないことになっているに違いない。
そんなわかりきった事を確認した所で、どうなるというのだろう。
ただ絶望しに行くだけではないか。

足元の波が、おいでおいでと手招きしている。
佇み、足を踏み出さないでいると声を掛けられた。

「久しぶりに潜るのでしょう。途中まで一緒に行きましょう」

俺のそばにいたドリームメーカーはそう言うと、俺の手を掴み、海へと進んでいった。

いつもであれば憤慨することだが、強引なその行動が今はどこか嬉しく思う。
海を忌避する気持ちは、まだ克服出来ない。

海へ潜ると視界は、瞑色に包まれる。
夜の空より、僅かに明るいその色は、暖かくもあり冷たくも感じる。

「この海は、本体の記憶も溶けていますからね。ほら」

そう言ってドリームメーカーは何かを掴む動作をすると、俺の前で手を広げてみせた。

そこには、自分の思いを殺して周囲の意見に従った結果、自分の無能さを嘆く本体の残留思念があった。

自分の思いを無碍にした本体は、自分には力がなく、才能もない。人として出来損ないだから、細やかな望みすら叶わないと学んだ。
「人として足りないものを得なければ」と思い込み──正しく使われれば個人の成長へと繋がるはずのその言葉は、何を間違えたのか、本体の自己否定へと繋がった。

自分の全てを否定することは、魂を否定することだ。魂の否定は、生きることへの否定へと繋がる。
生きることを否定する魂に、この世界は無情だ。
生きたくない。人生は辛い。そう思えば思うほどそれを肯定する現実がやってくる。

人を信じては裏切られ、ようやく掴んだ幸せも瞬く間に奪われる。
何故ならば、本体が心の底で「人生は辛いことばかり」と信じているからだ。
現実もその通りになる。

──愚かだ。ただ、自分たちは本体に気づいて欲しかっただけだ。自分の思いを無碍にすると、上手くいかないのだと。わかって欲しかっただけだ。

「私達の役割の一つとはいえ、ヒントのみしか出せないのは辛かったですよね」

ドリームメーカーの言葉に俺は静かに頷いた。

本当は助けたかった。殴ってでも間違った道を進んでいるぞと止めたかった。しかし、魂が望むことに俺達は逆らえない。
唯一出来たのは、彼女を、本体の歪んだ思考から逃がすことのみだった。

「着きましたよ」

ドリームメーカーの言葉に顔を上げると、懐かしいあの場所へ繋がる道にいた。

「貴方の答えがこの先にあります。さあ、行きましょう」

俺は、懐かしいあの場所へ向かうため、重い足を持ち上げ一歩踏み出した。

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1/20/2024, 12:26:55 PM

潮騒が響いている。

年中夜の空間に今日も今日とて、
無表情を貫き通す傘の御人が海を眺めている。

かつて彼は、海に降り注ぐ言葉を愛でていた。
幼い彼女の先生代わりというのもあったが、
本質的に言葉というものに興味があったからだろう。
思考の海の管理に勤しんでいた。

海漁りする自分より熱心に、海からの拾い物をしたり、分類分けをしたり、検索しやすいよう工夫を加えたりと、実に働き者だった。
どちらが良い言葉を見つけられるか競っていたあの日々が、今となっては懐かしい。

本体の暴走が起きて暫くすると、彼は冷めた表情をすることが多くなった。
あれほど熱心に管理していた海も管理しなくなってしまったし、自分との拾い物競争もしてくれなくなった。

止むことなく届く言葉で荒れる海にも、彼は表情一つ変えず、ただ見つめるばかりだった。
そして、自分が気付いた時には──どこから作り上げたのか──傘を持ち、空からの言葉を嫌うまでになっていた。

彼は、この世界で最も本体に近いところに存在している。

一番の被害者は──彼だったのだと知ったのは随分後になってからだった。


「やあ、こんばんは」

傘の御人に声をかけると、凪いだ目に僅かに光が灯った。

「この時間にやって来るとは何事だ?ドリームメーカー」

「カードの御人に拾い物の一部を譲って欲しいと言われましてね。折角だから、拾いたてのものを差しあげたほうが良いかと思いまして。こうして、やって来た次第です」
海漁りさせてくださいね。

軽い口調でそう言うと、いつもならば「勝手にしろ」とか言ってくるのに返事がない。
不思議に思って彼の方を見ると、思い詰めた顔をしている。

「どうかしましたか?」

「…お前は、この海の底がどうなっているか知っているか?」

「知っている…としたら、どうします?」

敢えて遠回りの言葉を選ぶと、
彼は俯きボソリと呟くように言った。

「海の底は今、どうなっている?」

「それは、貴方自身が見なくてはいけないことです。ねぇ、思考の海の管理人さん」

名前を呼ぶと彼の肩が僅かに震えた。
口を開いたり閉じたりしている。
言うべき言葉を躊躇っているのか、
或いは沢山の思いが、言葉が、
彼の邪魔をしているのかもしれない。

「ねぇ、たまには自分と勝負しませんか?」

ドリームメーカーの言葉に思考の海の管理人は、
疑問符を浮かべた。

「拾い物競争しましょう、海の底で」
ドリームメーカーはそう言うと、
海を指差し、ニッと笑った。
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ドリームメーカーと思考の海の番人もとい管理人

1/19/2024, 2:20:15 PM

地獄のカラオケ大会を終えて
聡美くんとは、会わんようにした。 

岡 聡美くん。俺の歌の先生。

合唱部の部長さんをしている聡美くんなら
俺の歌のスキルいうやつも上がるやろ思て。
地獄のカラオケ大会が始まるまで
カラオケ屋で色々アドバイスもろてたんよ。

あんな、聡美くんに初めて俺の歌を聞いてもろた時、
彼なんて言うたと思う?

「終始裏声が気持ち悪い。以上です。」

凄ない?容赦無いやろ。

年上のブラック企業にお勤めの男にこの言いよう。
ホンマ、肝の座った子やで。

でも、聡美くんはそれだけじゃないねん。

その後にくれたアドバイスがめっちゃ的確やってん。
聡美くんに教えてもろたら次のカラオケ大会、
歌ヘタ王にならんで済むって心から信じられたんよ。

そうそう、カラオケ大会で歌ヘタ王になるとな、絵心死んどる組長直々の墨入れがプレゼントされる。
マジいらん。
せやから、歌ヘタ王だけは絶対避けたいねん。

俺の期待通り、聡美くんはなんのかんの俺にアドバイスをくれた。
俺に合う歌まで調べてきてくれはった。
ホンマ有り難かったわ。
俺のこと考えてくれてはるんや思たら、
嬉しくて堪らんかった。

聡美くんは、先生いうてもまだ中学生。
育ち盛りやったんやろな。
カラオケ屋行くといっつも炒飯頼みよんねん。

他も頼みいうても、結局炒飯ばっかなんよな。
なんか、いつも落ち着いてて、精神年齢大人な感じなのに、子供なんやなぁって妙にしっくりきたりな。
なんやろ、子供のようで大人。大人のようで子供。
不思議な子やねん。

聡美くん、自分の前ではあんま表情変わらんけど、
あ、でも、自分の仲間にギャーギャー言われてた時は、泣いてはったなぁ。
泣き虫なとこあんねん、あの子。

自分のことでは、二度だけ、激しい感情を表してくれたことあってな。

丁寧な口調がデフォなのに、口悪うなんねん。
そんなとこも、かわいいくてな。
口悪いのにかわいいってどゆこと?
もう、わからん。

なんやろ、聡美くんという存在をめっちゃ気に入っている自分がいつからか、いたんやろな。

でも、自分、ブラック企業にお勤めの身やから。
自分が聡美くんのそばにいることは、
聡美くんにとって良くない。

せやから、地獄のカラオケ大会後、
会うことをやめた。

これが、聡美くんのためになるんやから。
自分はそばにいたら迷惑になるから。
そう自分に言い聞かせて。

でもな。

偶に開きたくなんねん。聡美くんのLINE。
連絡取って、また「カラオケ行こ」言いたなんねん。

まぁ。聡美くんが青春謳歌している間は
会えへんけどな。

…会いたいなあ。

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「カラオケ行こ」より成田狂児

昔から関西の方と御縁があるので挑戦してみましたが、記憶違いの言葉があったらごめんなさい。

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