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1/18/2024, 2:27:32 PM

天井高くまで届く書棚に書き物机が一つ。
こじんまりとした図書館といった風情の空間で、
中性的な顔立ちをした人物が書き物をしている。

興が乗らないのか、数行書いては、天井辺りを見つめ、また書き物に戻るといった事を繰り返している。

ふと、何かに気づいたのか、書く手を止め前方の空間へと目を向けた。



おや、貴方はどちら様です?

ふむ。よく覚えていないけれど気付いたら此処にいた、ですか。

おかしいですねぇ。此処は、本体でも簡単には来られないようになっているはずなんですが。

此処ですか。
大切な書物を保管する場所兼私の職場です。

後ろの書物たちは、端的に申し上げますと、日記に近いものたちです。

申し訳ありませんが、中身をお見せすることは出来ません。

ああ。怒らないでください。

貴方は、隠したい事や人に話したくない事などはありませんか?えっ、無い?本当ですか?

誰にも嘘を付かず、常に正しいことを心掛けてきたから、隠すべきものは無い。当たり前だろう、ですか。

成る程、貴方は公明正大な方であるようだ。

そうでしたら、尚の事この書物達をお見せすることは出来ません。

貴方は、ご自身の成されてきたことは全て正しく、一つの間違いもないと信じていますね?
そして、それは自分が出来るから他人が出来て当たり前とまで信じていらっしゃる。

ああ。成る程。
私、貴方の正体がわかってしまいました。

かつて本体が呼び寄せてしまったものが、まだ残像として残っていたなんて。

まったく──しつこいですね。

申し訳ありませんが、此処に貴方の居場所はありません。貴方は貴方の世界へお帰りください。

中性的な顔立ちをした人物が声を張ると、
空間がグニャリと歪み、公明正大な人物は姿を消した。

………。

…あぁ、良かった。以前よりだいぶ力が戻っているようです。

ふふふ。公明正大な事を言いつつ、他者への気遣いができない。実に、歪なものですね。

中性的な顔立ちをした人物は寂しげに呟くと、小さく溜息をついた。

常に正しくありなさい。
確かに立派な言葉だ。
では、人のためにつく嘘は悪なのだろうか。
正しくあろうとするならば、人を傷つけても良いのだろうか。

両刃の剣だ。

だからこそ、さっきのような歪なものが現れたりするのだ。

ふふふ。少し攻撃的過ぎますかね。
カードの御人のように詩的にいきたいんですけどね、私も。

中性的な顔立ちをした人物は、力無く笑った。

カタカタ。

不意に本棚の方から音が鳴り響いた。

本棚の一部がドアとなって、開いている。

おや、起きてしまいましたか。
まだ、朝ではありませんので寝ていてください。

後で楽しい話でも持っていきますから。

ええ、おやすみなさい。

ドリームメーカーはドアに向かって
やさしく声をかけた。

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「ドリームメーカー」と「???」

1/17/2024, 1:12:21 PM

木枯らし?

真冬の最中に…。えっ…。

秋のイメージなのですが…記憶違いしてる?

手元の辞書を引いてみたところ
木枯らし=晩秋から初冬にかけて吹く風
とのこと。

季節が戻るお題。面白いですね。

さて、どうしましょうか…。

…。
今日は、彼らのお話はお休みして、
雑談にしましょうかね。

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「木枯らし」という文字を見ると「冬の星座」という音楽が頭の中で再生される。

学生時代歌ったよ、という人もいるかも知れない。
私もその口だ。

知らない方のために歌詞を一部引用しておく。

木枯らしとだえて さゆる空より
地上に降りしく 奇しき光よ

数小節だけでも美しい情景が広がる歌詞だ。
詩を構成する言葉一つを取っても美しい。

さゆる空=空が冴え渡ってすっきり見えること
降りしく=敷き詰めたように一面に降る
奇しき=不思議な、神秘的な

歌詞全文を通して、言葉が美しいので
「冬の星座」を知らない方は
是非検索してみてほしい。

言葉の宝石箱のような歌詞が
美しい冬の夜空へ誘ってくれること請け合いである。

1/16/2024, 10:54:43 AM

この世界にある美しきもの。

それらを見つけ、「美しい、美しい」と愛でる。

そんな──貴方の心が、美しい。

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さて、夜も更けて来ましたし、自分の時間がやってまいりました。
どうも。私、ドリームメーカー(夢制作人)。
またの名を「記憶管理人」と申します。
お初の方はどうぞお見知りおきを。
初登場は昨年の8月28日、傘の御人にお茶を振る舞われる人物として登場しました。
まぁ、名前だけの登場だったんですけど…。
最近やっと、カードの御人ともお話しすることが出来ました。
初登場から、再登場までに何ヶ月もかかるって酷いと思いません?

まあ、自分の性質が原因ともわかっているので、仕方ないのですが。

私、思考の海から言葉を拾い集めて物語を作ったり、本体の記憶の管理をしております。

思考の海は面白い場所でして、傘の御人いわくゴミだらけなんて言われてしまいますが、ほらこれ。

幽き(かそけき)─意味は、今にも消えてしまいそうなほど、薄い、淡い、あるいは仄かな様子を表す語。美しい言葉でしょう?

さっき、思考の海から拾い上げた言葉なんです。拾い上げた瞬間、なんて美しい言葉だろうと、ほうっと思わず息が漏れてしまいました。

喜び勇んで傘の御人に見せつけましたら、
「何だその言葉の残滓は」と言われてしまいました。

どうやら彼には、この文字がちゃんと見えなかったようです。
彼にとって、海に落ちてしまったものはゴミなのかもしれません。
こんなに美しい言葉が見えないなんて悲しいですよね。

かつて、海に落ちたものは、この世界に吸収され、知識へと昇華されていくというサイクルでした。その為、たとえ海に落ちたものだとしても彼にも読めたんですけどね。

だけど、少し変化していることもコレで確信しました。

以前は拾い上げたものを見せても、彼は文字の形はおろか、何も見ることはできなかったのですから。

彼にとって私は奇人だったでしょうね。
海から、見えない何かを漁るヤバい人に映っていたに違いありません。
まぁ、彼は理性的な人物ですから、私に何かを言ってくることはありませんでしたが。
私は私のお仕事をしているという認識だったか、または、何にも興味を持たなくなってしまっていたか─。
何となくですが、後者な気がします。

理性的であり過ぎるが為に、感情を押し殺すことに長けてしまったのが、今までの彼ですから。

やはり、あのクリスマスプレゼントの存在は大きかったようです。

これからココはどの様に変化していくのでしょうか。

願わくば、美しいものへと変化していきますように。
そんなことを私は思っているのです。

1/15/2024, 1:56:53 PM

カードがハラリ、ハラリと落ちていく。

落ちるカードと共に子供の声が響く。

「この世界は、二面性を隠そうともしない」
ハラリとカードが落ちる。
そのカードには「二面性」という文字が入っていた。

「平和な国もあれば戦火に苛まれる国もある」
またもカードがハラリと落ちる。
くるくると木の葉のように落ちるカードには「戦争と平和」の文字が見えた。

「富む者あれば、貧困に喘ぐ者がいる」
ハラリと落とされたカードには、「富と貧」と書かれていた。

「幸福を享受する者がいる一方で、不幸な目にあうものがいる」
同じ命でも平等ではない。冷めた口調でそう言うと「幸福と不幸」の文字が書かれたカードをハラリと落とした。

「今この一時にだって、生まれくる命、去る命が存在する」
足元に大量のカードを落とした子供は、
「生と死」と書かれた手元のカードを裏返したり、表にしたり、クルクルとカードを弄ぶ。

「まるで、このカードと同じだ。裏表あるのが、この世界なんだ」

子供が独り言のように呟くと、どこからか拍手の音が鳴り響いた。
それと同時に空間が歪み、一人の人物が現れた。

「カードを持つ御人は、詩人のようですね。カードとこの世界の共通点ですか、興味深い」

そう言って現れた人物は、中性的な顔立ちをしている。実際、性別はないのだろう。

「〈ドリームメーカー〉さんがここに来るなんて、珍しいですね。どうしました?」

「何、ここのところこの世界も緩やかな変化が見られるので、視察ですよ。時間が来たら仕事には戻りますけどね」

ドリームメーカーの仕事は、思考の海から拾い上げた物で物語を作ることだ。そうすることで思考の海が浄化される。この世界には欠かせない人物だ。

「それ程大きな変化は起きていませんよ。今もこうして暇つぶしをするくらいですから」

足元に散らばったカードを指さしながら、カードの子供は笑った。

「暇つぶし、ですか。自分には少々、イラつきやセンチメンタルと言った感情を感じたのですが」

「気の所為ですよ。これは、自分の暇つぶしなのですから」

「そうですか。ですが、そろそろその仮面を取っても大丈夫ですよ」

ドリームメーカーの言葉に子供は、無表情になった。

「…貴方が貴方に戻っても、もう問題は起きません。そういう変化がこの世界に起きているのですよ」
貴方もわかっているでしょう?

子供の姿をした人物は静かに微笑んだ。

「あなたに隠し事は出来ませんか」

「伊達に思考の海を漁っていませんから」

ドリームメーカーは屈託なく笑った。

1/14/2024, 10:59:48 AM

どうしてだろうな。

悩んだり、困ったりしていると

「他人との会話」「テレビ」「ネット」「本」など
何気ないものから、言葉のヒントを得られる。

それは寸分の狂いもなく
今、自分が必要としている言葉であるから驚きだ。

ずっと昔──物心付く頃からそうだったので、
どうして言葉のヒントを得られるのか、全くわからない。

まるで、見えない存在が手を引いて導いてくれているような。
そんな、非現実的なことを信じてしまいたくなる。

その手はいつも、自分を守ろうとしてくれる。
どうしてなんだろう。

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「お前の事など、こちらは熟知しているんだよ。バカ本体」

年中夜の海を見つめる男は、ボソリと呟いた。

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