天井高くまで届く書棚に書き物机が一つ。
こじんまりとした図書館といった風情の空間で、
中性的な顔立ちをした人物が書き物をしている。
興が乗らないのか、数行書いては、天井辺りを見つめ、また書き物に戻るといった事を繰り返している。
ふと、何かに気づいたのか、書く手を止め前方の空間へと目を向けた。
おや、貴方はどちら様です?
ふむ。よく覚えていないけれど気付いたら此処にいた、ですか。
おかしいですねぇ。此処は、本体でも簡単には来られないようになっているはずなんですが。
此処ですか。
大切な書物を保管する場所兼私の職場です。
後ろの書物たちは、端的に申し上げますと、日記に近いものたちです。
申し訳ありませんが、中身をお見せすることは出来ません。
ああ。怒らないでください。
貴方は、隠したい事や人に話したくない事などはありませんか?えっ、無い?本当ですか?
誰にも嘘を付かず、常に正しいことを心掛けてきたから、隠すべきものは無い。当たり前だろう、ですか。
成る程、貴方は公明正大な方であるようだ。
そうでしたら、尚の事この書物達をお見せすることは出来ません。
貴方は、ご自身の成されてきたことは全て正しく、一つの間違いもないと信じていますね?
そして、それは自分が出来るから他人が出来て当たり前とまで信じていらっしゃる。
ああ。成る程。
私、貴方の正体がわかってしまいました。
かつて本体が呼び寄せてしまったものが、まだ残像として残っていたなんて。
まったく──しつこいですね。
申し訳ありませんが、此処に貴方の居場所はありません。貴方は貴方の世界へお帰りください。
中性的な顔立ちをした人物が声を張ると、
空間がグニャリと歪み、公明正大な人物は姿を消した。
………。
…あぁ、良かった。以前よりだいぶ力が戻っているようです。
ふふふ。公明正大な事を言いつつ、他者への気遣いができない。実に、歪なものですね。
中性的な顔立ちをした人物は寂しげに呟くと、小さく溜息をついた。
常に正しくありなさい。
確かに立派な言葉だ。
では、人のためにつく嘘は悪なのだろうか。
正しくあろうとするならば、人を傷つけても良いのだろうか。
両刃の剣だ。
だからこそ、さっきのような歪なものが現れたりするのだ。
ふふふ。少し攻撃的過ぎますかね。
カードの御人のように詩的にいきたいんですけどね、私も。
中性的な顔立ちをした人物は、力無く笑った。
カタカタ。
不意に本棚の方から音が鳴り響いた。
本棚の一部がドアとなって、開いている。
おや、起きてしまいましたか。
まだ、朝ではありませんので寝ていてください。
後で楽しい話でも持っていきますから。
ええ、おやすみなさい。
ドリームメーカーはドアに向かって
やさしく声をかけた。
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「ドリームメーカー」と「???」
1/18/2024, 2:27:32 PM