Amane

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2/6/2024, 11:03:32 AM

時計の針

カチ…カチ…カチ……。
目が冷めてしまった。一定のスピードで耳をくすぐる時計の音がやけに気になって、目は冷めていくばかりだ。今は何時か確認しようとしたが、アナログの古臭い時計は硬い音を鳴らすばかりで、僕に時刻を教えてくれない。仕方なく重い体を起こして、スマホを手にする。暗い部屋でスマホの明かりだけが眩く光る。
「あれ…?」
おかしい。見間違いだろうかと目を擦るがたしかにそこには21:20、と表示されていた。僕が布団に入ったのは、午前0時すぎ。スマホが壊れたかと思い、よろけた足でリビングまで戻った。電波時計は、21:25……。カレンダーは……?

『2019.07.22』

「は……?」
五年前の夏。そしてその隣には赤いインクで、
『青澄と花火大会』
思い出した。7月23日、ああ。あすみ、青澄。

いつの間にか夜が明けていた。少し白髪の少ない母さんが、
「珍しく早起きじゃない。青澄ちゃんと花火大会楽しみだったんでしょ。」
と、ニヤニヤしている。俺はTシャツと短パンに着替えて家を出た。

青澄は鳥居の前で浴衣姿で待っていた。
「あ、すみ……。」
「何、どうしたの。深刻そうな顔して。」
花火大会まで、二人で屋台を見たり下らないことを話して、暇をつぶした。
「青澄。ついてきて。」
彼女の手を引っ張って、走る。
「え、え、どこ行くの?花火始まっちゃうよ。」
俺は、そのまま西中に入り、階段を登って屋上に足を踏み入れた。

ドンッ

花火はちょうど始まったらしい。
「すご……。」
青澄の目に花火が反射して、きれいだ。





青澄の喉元に両手を当てた。
「えっ。」
ぐっと力を込め、青澄の細い首を抑えつける。青澄はなにか言いたそうだったけど、無視して徐々に力を強める。そのうち青澄の全身の力が抜け、人形のように青白くなった。

青澄のみじめな姿に、笑みがこぼれた。

あの日も、青澄を殺した。ここから突き落として。いつも青澄といるとみじめだった。辛かった。だから殺した。でも、誰も信じてくれなかった。僕は殺さないって、青澄が自殺したんだって、馬鹿みたいに言う。ずっと後悔してた。なんで、もっと直接的に殺さなかったんだろう。そしたら、僕は人を殺せないような小心者じゃないって、みんなわかってくれたのに。だから神様がもう一度チャンスをくれたんだ。

ありがとう。幸せいっぱいです。

2/5/2024, 12:53:47 PM

溢れる気持ち

「好きです。付き合ってください。」
彼は今日もオーソドックスな告白を受けている。当然答えはノー…
「……いいよ。」
「えぇ!?」
思わず声に出ていた。盗み聞きしていたのがばれて告白した女子は走っていってしまった。
「お前、趣味悪いぞ。」
腕を組んだ彼が眉をひそめて、そう言った。相手はもちろん、この私。
「ハ、ハハ。スミマセン。」
ぎこちなくなってしまった。
「ふ、なんだそれ。」
笑ってくれてよかった。瞬間、グワッと地面が揺れるような気がした
「やっぱり不思議だ。神谷といると地球が傾くような感じがする。」
「お前、やっぱ変わってんな。」
……言ってしまおうか。彼といる長い期間に、私が抱いてしまった感情を。なぜだがそんな気になった。
「神谷、好き。」
「は?」
神谷は口を開けたまま呆然としている。
「神谷は、私のこと異性として見てないでしょ?」
自分を諦めさせるためでもあった。
「そうだな。異性としては見てないかも。」
神谷は正直だ。そんなところも、好きだ。
「人として、見てるよ。お前が女だろうと男だろうと好きになってたと思う。」
理解ができなかった。でも、顔、耳、首とどんどん真っ赤に染まっていく彼を見て、いても立ってもいられず強く抱きしめた。

その時だった。地面が強く揺れて、大きく傾いた。90度ほどだろうか。私達は、建物の壁により掛かるようにしてなんとか耐えた。立ち上がると、地面と平行に雪が降っていた。校舎の壁に雪がつもり始めていた。


溢れんばかりの青春の情熱を、この地球は支えきれなかったみたいだ。

2/4/2024, 12:03:30 PM

Kiss

俺は潔癖症だ。だから、死んでも人とキスなんかしたくない。歴代の彼女ともキスをしたことはない。
でも、そんな俺にもキスしたいと思える相手ができた。彼女はけして美人ではないが、その天使のような微笑みに俺のハートは見事に撃ち抜かれてしまった。

そして、その時が来た。
夜景をバックに沈黙が流れる。最高のシチュエーションだ。君の顎に手を添えて、顔を近づける。その時だった。

うぇっ。

いつも優しげな彼女の顔が歪んだ。

「ご、ごめんね。」

そう言って顔を背ける彼女を見て、今までの彼女に土下座したくなった。

二度とキスはしないと誓った。

2/3/2024, 12:26:49 PM

1000年先も

「この星の人は長生きだよね。」
君はくすんだ空の下でポツリと呟いた。イソスタで知り合った彼女は、少し変わった人だ。
「私、この星とよく似た遠い星から来たんだよ。」
彼女はよくそう言っていた。冗談だと思って笑うと悲しそうな顔をするから、僕はいつも謝る。

そんな君は、100年とちょっとで呆気なく逝ってしまった。自殺とか、他殺とかじゃない。老いて死んだんだって。その時やっと、僕は君の言ってることがわかったんだ。

彼女の葬式は、1時間が10時間のように感じるほど重くて、足の感覚がなくなってしまった。シワシワの彼女は安らかに眠っていた。

1000年先、僕が死ぬ時、彼女にやっと追いつける。
その時まで、絶えず君を想うだろう。

2/2/2024, 11:12:05 AM

勿忘草

グシャ
「俺がこうゆーの嫌いだって知っててやってんの?」
足元に小さな青い花が散らばって、彼の高そうな靴の下敷きになった。
「最悪。靴汚れたじゃん。」
眉間にシワを寄せて、靴の裏を覗き込んでいる。

チャンスだ、と思った。すかさず彼の頭を抑えその顔面に自分の膝を運ぶ。鼻血を出して倒れ込む彼に、思わずシャアッ!とガッツポーズをしていた。
「お、お前、何してんだよ!」
「あんた、その靴誰の金で買ったかわかってんの?」
目の前で倒れ込むこの男に金を貢ぎ、執着していた事実が受け入れられない。
「この花の花言葉知ってる?」
「んなの、知らねーよ!」
顔を真っ赤にして立ち上がろうとする彼の顔面に花束を投げつけようとしたが、やめた。
「『私を忘れないで』。」
少し沈黙が続き、彼が私の頬に手を伸ばしながら言う。
「なんだ、やっぱりまだ俺のこと……。」
「……なんて、死んでも言うかバーカ!!!」
手を跳ね除け、最後に平手打ちを食らわせた。

春の似合うこの花が、きっとニセモノの愛を忘れさせてくれるだろう。

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