Amane

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時計の針

カチ…カチ…カチ……。
目が冷めてしまった。一定のスピードで耳をくすぐる時計の音がやけに気になって、目は冷めていくばかりだ。今は何時か確認しようとしたが、アナログの古臭い時計は硬い音を鳴らすばかりで、僕に時刻を教えてくれない。仕方なく重い体を起こして、スマホを手にする。暗い部屋でスマホの明かりだけが眩く光る。
「あれ…?」
おかしい。見間違いだろうかと目を擦るがたしかにそこには21:20、と表示されていた。僕が布団に入ったのは、午前0時すぎ。スマホが壊れたかと思い、よろけた足でリビングまで戻った。電波時計は、21:25……。カレンダーは……?

『2019.07.22』

「は……?」
五年前の夏。そしてその隣には赤いインクで、
『青澄と花火大会』
思い出した。7月23日、ああ。あすみ、青澄。

いつの間にか夜が明けていた。少し白髪の少ない母さんが、
「珍しく早起きじゃない。青澄ちゃんと花火大会楽しみだったんでしょ。」
と、ニヤニヤしている。俺はTシャツと短パンに着替えて家を出た。

青澄は鳥居の前で浴衣姿で待っていた。
「あ、すみ……。」
「何、どうしたの。深刻そうな顔して。」
花火大会まで、二人で屋台を見たり下らないことを話して、暇をつぶした。
「青澄。ついてきて。」
彼女の手を引っ張って、走る。
「え、え、どこ行くの?花火始まっちゃうよ。」
俺は、そのまま西中に入り、階段を登って屋上に足を踏み入れた。

ドンッ

花火はちょうど始まったらしい。
「すご……。」
青澄の目に花火が反射して、きれいだ。





青澄の喉元に両手を当てた。
「えっ。」
ぐっと力を込め、青澄の細い首を抑えつける。青澄はなにか言いたそうだったけど、無視して徐々に力を強める。そのうち青澄の全身の力が抜け、人形のように青白くなった。

青澄のみじめな姿に、笑みがこぼれた。

あの日も、青澄を殺した。ここから突き落として。いつも青澄といるとみじめだった。辛かった。だから殺した。でも、誰も信じてくれなかった。僕は殺さないって、青澄が自殺したんだって、馬鹿みたいに言う。ずっと後悔してた。なんで、もっと直接的に殺さなかったんだろう。そしたら、僕は人を殺せないような小心者じゃないって、みんなわかってくれたのに。だから神様がもう一度チャンスをくれたんだ。

ありがとう。幸せいっぱいです。

2/6/2024, 11:03:32 AM