突然の別れ
君の機嫌は、君ん家の観葉植物でわかる。
今日はやけに元気だったから、部屋にいるんだと思った。だから、プリントの束を置いて帰った。
「〜〜ちゃん、行方不明だって……。」
ママから聞いた。
僕との思い出に君がいる気がしてた。君の頼りは僕だけだと思っていたんだろう。
今も探している。もうはっきり思い出せない。もっと写真撮っとくんだったなぁ。でも、君は写真嫌いだったからなぁ。
「あ。」
桜色に染まる川に君を見た気がして、足をすべらせた。
ルール
廊下を全力疾走したり、
赤信号で渡ってみたり、
駆け込み乗車をしたり、
ルールを破る快感を知ってしまった私はもうこの社会で生きてはいけない。
父のように命を奪う快感を覚えたとき、人間としての私は死ぬのだろう。
彼の心などわかりたくもなかった。
だから、殺した。
はずなのに。
この胸を打つような喜びはなんだ?
包丁を持つ左手が震えている。
証拠は念入りに消した。
私は、私の快楽のために犠牲を厭わない。
誰かが私を殺すまで、私は誰かを殺し続けるだろう。
何もいらない
バイト先で怒鳴られた。
「君がいれば、他に何もいらない」なんてこと思わないし、言うつもりもない。
欲しい物があって、それを手に入れるには金が必要で、だから働いている。
やりたいことをするにはやりたくないこともしなければいけない。例え、やりたくないことの方が遥かに多くとも。
そうして、明日もなんとなく生きてしまうのだろう。
「そんな生き方つまんなくない?」
と笑う君に腹がたった。
快晴
よく晴れた夏の日だったと思う。
先生が黒板の漢字を間違えた。
先生、あのね、私は気づいてるよ。先生の様子がおかしいことくらい。先生に何かあったことくらい。先生の薬指に指輪がないことくらい。
「せんせー、どうしたの。」
「あ、佐倉さん。どうしました?」
「隠しても無駄だよ。指輪どこやっちゃったの。」
「あー……。佐倉さんは鋭いな。」
「でしょ?だから、ちゃんと言わなきゃだめだよ!」
「お察しの通り、離婚しました。」
「そー、なんだ。」
「何ですか、その反応。気づいてたんじゃ?」
「気づいてたよ。てゆうか、知ってた。」
「……どういう意味ですか。」
「教えな〜いっ!」
パパ、あのね、私は気づいてたよ。
相手が既婚者だってこと、知ってて付き合ってたんだよね。天国のママ、なんでそんなやつと結婚したの?
先生。私、パパより先生が好きなの!だから、証拠いっぱいとっておいたの!指輪の人なんて忘れて私を見てよ。お願いだよ。
先生の困ったような笑顔は、逆光であんまり見えなかった。
沈む夕日
夕日なんてひきこもりの俺には縁のない話だと思っていたけれど、薄いカーテンがオレンジ色に染まるのを見て思い出される景色があった。
小さい頃夢中になった「ぼくのなつやすみ2」。プレステのゴツいコントローラーを握りしめ、テレビ画面に齧り付くようにしていた。やっとの思いでグレートオオキングを倒して辿り着いたトッテン山からは夕日が沈むのが見えて、ぼくがとても小さく見えたのを覚えている。
押入れをあさっていたら、カーテンもすっかり夜の色に染まっていて少し寂しかった。