《窓から見える景色は、いつもと同じ
何処か変わるとしたら、山の色が深緑色から
黄色や赤に変わること。
それから、田んぼの苗の色が黄緑色から、
黄色に変わること。
それから……なんだろうか?
いつもと同じ時間に起きて、仕事に行って仕事して
帰って来て、ご飯食べて寝る。
毎日毎日……365日ずっと同じの繰り返しを32年
景色が変わっても、私は変わらないまま15年
好きではない仕事に行っている。
やる気なんか、はなっから無いけれど。
生きるための目的だけで仕事に行っている。
あー…。
つまらない人生だ。》
ガリガリガリガリ…
Campusノートに、鉛筆で乱暴になぐり書きをする。
日頃想っていること、不満、楽しい事を
こうやって、雑に書いていくのが僕の日課。
パソコンでも、スマホでも無く
Campusノート。
理由は、データが綺麗さっぱり吹っ飛んで全滅。
あの時は……膝から崩れ落ちた。
〆切が、近かったのに…。泣
学校新聞の一部に、小さく僕の日記が掲載されている。
新聞部の僕が、〘編集日記〙と云う名の日常に感じていることや、周りの人から聴いた話をまとめて書いた、
言わば公開日記である。
今日のインタビューの相手は……姉である。
姉も、僕が持ち帰ってくる学校新聞を読むのが好きらしい。今日の冒頭の内容は、姉の日頃の不満と苛立ち。が主なテーマだ。
続きを書こうと思ったが……段々瞼が下りてきて
眠りそうになる…どうやら睡魔には勝てないようだ。
……寝みぃ。
僕は、あくびを1つしてから続きを書こうと思っていたが…どうにも出来ない。瞼が下がり…鉛筆を持った利き腕が…………zzz
はっ…!
止めだ止めっ!!もう寝よう。
僕は、開かれたノートをそのままにし
ライトに手を伸ばしパチッと音を立てて明かりを消した
『夏に恋はしたくはなるけど…。
秋に恋はしたくないのよねぇ〜。』
カラン…。グラスに入っている氷が
まるで、<そうだよね、したくないよね。>って
話しているみたいに、カノジョが持っている
グラスが音を鳴った。
「えっ…?何で?」
ピアノの生演奏が聴けるBARに、たまには
呑みに行かない?と、LINE電話で誘われた私。
特に予定も入っていなかったから二つ返事で応えて
一緒に、此処へ来た。店内の中は薄暗く、奥には小さいステージにスポットライトに照らされた
存在感のあるピアノが一台置いてある。
ソファーもテーブルも、演奏者の事が視えるようにと
ステージの方に向いて設置されていた。
私は、この落ち着いた雰囲気のあるBARには、
初めて来たから物珍しくて、キョロキョロと
店内を見てしまった。
その様子を見ていた、BARのマスター?さんが
クスッと微笑んで、カウンター席を挟んだ
場所から、こう教えてくれた。
《あそこのピアノは、誰でも自由に弾けるように
してあるんですよ。》
その声は、渋く心地良い声。
「誰でも…自由に?」
私達は、誰もいないカウンター席に座りながら
マスターに聞いた。
《えぇ。何でも巷で噂されているらしいのですが…
ここのピアノを弾くと、何年も会えなかった待ち人に会えたとか…。恋が実ったとか…。色々と。わたしも
何年か前に、BARに呑みに来たお客様の話から噂を知ったのです。……実は…このピアノは…今は亡き妻がピアニストでしてね…想い出が多くて捨てられなくて妻と出会う前からわたしは、このBARをやっていたので…
此処に妻のピアノを置いたのです。側にいてくれている様な気がしましてね…。それと…妻は人が弾くピアノの音を聴くのが好きな人でしてね。だからね、わたしは
妻が、このピアノを弾いてくれた人に有難うって
御礼をしてあげているのかな?って。だから、誰でも自由に弾けるようにしてあるのです。》
マスターは、カクテルを作りながら
優しい顔つきだけど、少し寂しそうな瞳で
教えてくれた。
素敵な話だ…。私は、話しを聴きながらこう思った。
しかし…左隣の席に座るカノジョは違ったみたい。
カノジョは、ウイスキーと氷が入ったグラスを握りしめながらワナワナと震えだした。
『夏に恋はしたくなるけど…
秋に恋はしたくないのよね〜。
何でかって言うと〜。付き合っていたカレシが…
実は、ゲイだったのぉぉぉ。家で…イチャコラしていた
最中にワタシが家に帰って来て!それで遭遇して
大喧嘩よ!家庭内戦争勃発よ!!
しかも!相手の名前が!春夏秋冬の〘秋〙に
恋愛の〘恋〙って、書いてシュウですって!
腹が立ったから、名前聞いてやってわ!
もう!その場で荷物を持って、家の鍵をカレシ投げつけて!……あっ。訂正…元ね元カレシに投げつけて
家を出てやったわ!』
………これが、誘ってきた本当の理由か。
私とマスターは、カノジョの勢いに
圧倒と呆気にとられながら話を聞いていた。
《お連れ様…。お酒を飲むと怒り上戸になるタイプ?》
「いいえ…。どちらかと言うと、ご機嫌にお酒を楽しむタイプの方です。こんなに感情むき出しになるのは
珍しいぐらいです。余程…頭にきたのだと思います。」
私達は、カノジョには聞こえないように
コショコショと声を小さくして話をしていた。
一方カノジョは、グイッとグラスのお酒を飲み干すと
同じのを下さい!と、注文をしていた。
腹が立つ〜!と、文句も付け加えて。
この店内の中で、良かったことは私達とマスターだけだった事。それでも大人として、常識として
とりあえず、カノジョを落ち着かせないと…。
どうしようか…?カクテルを一口飲みながら
考えていた時に、ふと背後から気配を感じた。
…?私は、振り返って店内を見回したが誰もいない。
あれ…?誰かいたような…?
私の様子に気がついたマスターが、
《どうしましたか?》と、注文されたお酒をカノジョに渡しながら聞いていた。
お酒を受け取ったカノジョも私の方を見ながら
『…?どうしたの?』と同じ事を聞いてきた。
私は、2人の方に顔を向き直しながら話た。
「…??ねぇ。誰かいた様な気がしたんだけど…」
『えっ!?ナニナニ?…もしかして怖い系?』
お化け系のものが苦手なカノジョは、ヤメて〜!
と、両耳を手で塞いでいた。
その様子を見ていたマスターは、変な事を私に聴いてきた。《どの辺りから??……もしかして……あそこ?》
マスターは、私の後ろに指さした。
私達は、指した方側に顔と身体を向けるとマスターの
指は、ピアノに向けていた。
私が、何かを答えようとする前にマスターは
《妻も…お連れ様の話を聞いていたのでしょうね。
妻わね…ムシャクシャしている時や悲しい時があったら必ずピアノを弾いていたのですよ。だからきっと
今も、ピアノが弾きたいはずです。しかし…残念な事に、わたしは音楽がカラッきし出来ないのですよ》
寂しそうに答えたマスターは、グラスのコップを指紋が残らないように布でピカピカに磨きながら呟いていた。それは、まるで弾きたくても弾けない自分に諦めなさい。と言うきかせているみたいだった。
その話を聞いて、私はコレだ!と感じた。
2人の女性と1人の男性の為に、今
私ができること…してあげられることが1つ有る。
私は、マスターの方に身体を向き直し
アルお願い事をした。
「マスターさん!お願いがあります。私に、
あのピアノを弾かせてください。」
『《えっ?》』
マスターも、カノジョも驚いた声を上げていた。
突然のことで、驚いた2人を他所に私は
返事を待たずに、カウンター席から立ち上がり真っ直ぐにピアノに向かって歩いていった。
カツカツと、私が履いている深紅色のヒールの音がステージ場に響き渡る。
私は、ピアノの前まで来ると履いていた
ヒールを脱ぎ捨てた。大切なピアノに傷をつけたく無かったのが理由だ。
私は、カウンター席にカノジョとマスターに一礼をしてからピアノ椅子に座り、ピアノの鍵盤に触れる。
奥様…。ピアノを弾かせてくださいね
心の中で呟くと
私は、両手を鍵盤の上に置き演奏をし始めた。
曲は、ショパンの雨だれ
何故、この曲にしたかと言うと、店内の壁にはショパン
の曲が額縁に入れてあり飾られていたのだ。
亡き奥様が、一番好きな曲たちなのだろうなと勝手な想像。
ピアノを弾きながら、チラリとマスターの方に目を向けるとマスターは静かに涙をこぼしていたように視えた。
私は、鍵盤に視線を戻し演奏を続けた。
一方カノジョの方は、グラスを片手に
私が演奏する姿を見ながら一口呑んでいた。
そして、顔だけマスターの方に向けてこう言った。
『上手でしょ?あの子…。JAZZBARで
演奏しているプロのピアニストなのよ♪』
「…えっ!?」
『彼女、今…スランプ中?らしくてね。ピアノが
全然弾けないんですって。だから、ワタシがこのBARに連れてきたんです。ワタシの男事件を餌にね。笑
……けど、安心しました。あの子が楽しそうにピアノを弾けているから、きっとスランプも乗り越えられると思います。
あっ……この話は、あの子には秘密ですよ?
恥ずかしいので』
カノジョは、人差し指を立て口元でお静かにのポーズを
していた。
わたしも、同じポーズをし軽くウインクをして返した。
そして二人は、静かに演奏を聴き入っていた。
穏やかな時間の中で…
後日、BARのホームページで不思議な事が起きるBARの名前の由来が書いてあった。《音縁》由来
それは、亡き奥様が考えた
『音』楽で皆の『縁』が繋がり合いますように。
と、願いが込められていたことが判明した。
自分の命を投げ打ってでも、
どうしても、生きてもらわなくてはいけない。
『大事にしたい』人…いや人達がいる。
それは………。目の前に凛と座っている女性
彼岸花の花の色の様な美しい色の羽織
そして、美しく綺麗で漆黒の色の長い髪
右目には、2つの泣きぼくろ
小柄で華奢な身体
民を大事に想う優しい心は、殿譲りだ。
俺は………朝霧蔵之進の助 鬼丸は
竹田宮重春の次女 ハル様に恋心を抱いている。
(※命燃え尽きるまでに登場)
想いは……告げてはいけない。知られてはいけない
何故ならば、弱みとして握られ。殿や姫様の命が
狙われるかもしれん。この想いは俺の胸の中に閉まっていれば良い…。今日もハル様や殿が笑って
生きていれば……俺はそれだけで良いのだ。
_________________________
あの日も、先の戦が終わり疲れ切った身体を引きずるように歩いていた。あと一つ山越えをすれば国に帰れる。山越えをする前に、小休憩しよう。と小さな小料理屋に入った時だった。店の中が怒涛の声と騒ぐ男を取り押さえようとしている人達で賑わっていた。
『これは、何事か?』近くで食事をしていた客に声をかけた。客は「あの男が酒によって騒いでいるんだよ。」
と、苦い薬でも飲んだような顔をして指をさしていた。
指をさした方に顔を向けると騒いでいた男は、
赤い顔をしていた。随分長い間呑んでいたようだ。
なりふり構わず、騒いでいて周りの客は迷惑そうにしていた。止めたくても暴れている状態だ。
これは…良くないな。そう思った俺は、
その男の方に向って歩いていった。
「おっ…おい!兄さん」
突然のことに驚いて声をかけた先程の男。
もちろん後ろから、声が聞こえていたが構わず進んだ
騒いでいた男の元へたどり着くと、男は
《…なんだぁ?おめぇさんは??》
と、俺の顔をジロジロと見てきたが気にせず俺は、
騒いでいる理由を尋ねた。
すると、男は悔しそうにこう叫んだ。
《……金が無くて家族を幸せにできねぇ!そんな時に城の使いが来たんだ!沢山の金銭を持って!突然のことで動揺したさ!そうしたら、使いの者が言ったんだ!娘様と正典様との祝言を、この金銭で無かったことにしてほしいと!!正典様は、隣の国のハル様と婚儀をあげると。ワシもチヨも金銭に困っていた時に
金銭が手に入る話が来た。これには勿論喜んだ!!
そして、受け取った!ワシもチヨも初めから正典様との婚儀に反対していたんだ、そんな人とは相応しくないと…城には良い話が一つも聞かぬと…なのに…
娘は………娘は!!泣きながら言い返してきた…。
そして…家から出て行き帰ってこなかった!!》
その男の話を、その場にいた皆が静かに話を聞いていた。男は、一つ深呼吸をし話を続けた。
《しばらくして……家に知らせが来た……
娘は…シン…は…沼地で死んでたんだ…。。
沼地のその近くで遊んでいたガキ共だ…。娘とは顔見知りで、着ていた着物で…髪飾りに見覚えがあって…
すぐに家に知らせに…。帰ってきた娘に
どんなに声をかけても二度と目を覚まさなかっ…た…。
………。あの時……金銭を受け取らなかったら……。》
男は、その日を思い出しているのだろう。
今度は、ボロボロと泣き崩れた。
金銭を受け取った喜びと娘を失った後悔が、まだ
男の中に深く深く沼の底のようにズブズブと入り込み
抜け出せないでいた。
(……この男の話は、何かしらの手段で
必ず殿の耳にもハル様の耳にも届くだろう…。
民を想うお優しい方達だ。
きっと、胸を痛くするだろう…。)
俺は、ボロボロと泣いている男の肩に
そっと手をかけ、男の側を離れ何も食べずに店を出た。
※それから先の話は、「命燃え尽きる」の物語へ続く
_________________________
________
竹田宮家の殿が、信田家へ文の返事を書いた。
〘一人の娘の命が、この世から消えてしまったは
事実真か?。ハルにも、同じ事をするのか?
そして…民が育てた稲作を全て取り上げるのか?
もし、同じ事をするのであれば
民を苦しめるのであれば
この話は、全て無かったことにする。〙…と。
父上は、我に文の内容を確認させた。
書いては文を破り、書いては文を破りを繰り返し
ようやく納得がいったようだった。
「…変か?」
父上は、納得がいった文を書いたのだが
やはり何処か不安だったのだろう。我の顔をジッと見つめていた。
『…いいえ。』
我は、微かに微笑みながら応えた。
(この文を届けてしまったら…きっと戦になる。
そうしたら、民たちはどうなるんだろう…?
田や畑…それに城は…?みんなは…?
……やはり正典様と…)
文を見つめていると我の考えを見抜いたのだろうか?
父上は、
『ハル……。好きでもない男子(おのこ)と
祝言を挙げることはない。父上は反対だ。
それから…戦になったら朝霧と遠くへ逃げなさい。
あの男なら、お前を…』
筆を片付けながら、父上はポツリと言ったが。
そこから先は話さなかった。
「……その先は…?」
文から目を離し父上を見つめ我が尋ねても、
父上は何も答えなかった。
何も答えてはくれないなら、これ以上は
聴くこともないな…。我は、まだ日が落ちていない空をジッと見つめていた。
―同じ時に、空を見つめていた人がもう一人。―
鬼丸は、殿に呼び出された時のことを思い出していた。
その日は、武具の手入れをしていた時に殿に呼び出されたのだ。使用人と共に早足で向かっている最中に、考えていた事は、
(殿や姫様のところにも例の話が来たのだろう。
……これは、あの男の話を出すときかもしれないな。)
今まで、この話を隠していたことを打ち明ける事が出来る。話さなかったのは、今では無いと思ったからだ。
殿の元へ着くと、そこには姫様も居た。
……相変わらず美しい。
そんな事が、一瞬頭に浮かんだ。
殿は、俺が着いたら直ぐに
文の話を説明し文も確認させてもらった。
どう思う?尋ねられた時に俺は
男の話を簡単に話を短くして説明した。
二人は、驚いた顔をしていた。
そんな事があったのか…!と、言いたげな表情だった。
それから、こうも付け加えた。
城の話は、悪い話しか聞かない。その話は無かったことにした方が良い。と
この国を何よりも大切に思っているなら、全てを奪われる危険があるならば、その話は無かったことにしたら良いと考えたのだ。
殿は、ようやく返事を書く決心がついたらしく
さっそく、文の用意を頼んでいた。
殿は、俺にこういう命令もしてきた。
命が燃え尽きるその時までハルを護れと命令をした。護れなかったら殺すとも言われた。
もし……ハル様の小さな手を繋ぎ、小柄な身体を抱きしめ
遠く遠く離れたところ迄、連れ去ってしまったらどんなに良いものか…。
しかし…俺の手は、汚れている大勢の命を奪い怨まれている俺の手で汚してはいけない。
……男に抱かれたことの無いであろうその小柄な身体を抱きしめてしまったら…力が強い俺は…ハル様を壊してしまうのでは無いか?
それが、どんなものよりも
怖がらせてしまうことのほうが…俺は怖かった。
『「……だから言えぬのだ…
我には、俺には……この先も、そして何よりも
大事にしたい人だからこそ…この恋心は
知られてはならぬのだ…例え、命が燃え尽きるその時までも。」』
空を見つめている場所は、違えども
想っていることは、ちゃんと繋がっていることを
知っているのは天の神様だけかも知れない。
私は、『夜景』が好きではない。
イルミネーションも好きではない。
プロジェクションマッピングも好きではない。
プラネタリウムも好きではない。
理由は、人間の手で作った物だから。
たかが、コンセントに挿し込んで
電気が点いているだけなのに、何故人は
それを見て美しいと喜ぶのだろうか?
自然に作られた。自然のものが一番美しいと思う。
唯一無二の存在で、十年後…いや下手したら来年には
消滅し、二度と見られないかもしれないのに。
私、作:ロキはいつも思う。
電飾を見て感動した事が、生まれてこの方
一度もないのだ。
たかが、電気の明かりなのに…って思うから
感動する人の気持ちが理解が出来ないのだ。
嘘でも、わぁ綺麗。とか、おもったり言おうとするけど
実際に自分の目で見ちゃうと、何とも思わないから
すごく冷静に、そして冷めた目で夜景を見ちゃうよね。
夜景の面白さが私には……分からない。
「おネェちゃん、おそらが
エーン、エーンってないてるね。」
上から下まで、全身が真っ黒の服に身を包んだ
姪とアタシ。アタシの世界一、可愛い可愛い4歳の姪が
窓の外を眺めながら、こう言った。
『そうね……。アタシの代わりに
泣いてくれているのかもね』
アタシは、姪の隣に座り込み
姪の目線に合わせて、小さく呟いた。
その呟きに姪は、視線を外からアタシの方に向けて
アタシの顔を覗き込み不思議そうな顔をしていた。
アタシは、不思議そうな顔をしている姪のほっぺたを
優しくツンツンっと、突いて微笑んであげた。
姪は、くすぐったいのかクスクス笑っていた。
あなたは、今もこれからも笑っていなさい…。
アタシは、そう想っていた。
チラッと、後ろを振り返ると親戚達が
コソコソと、アタシたちの方を見ながら
何やら話し合っていた。
まあ…。この見かけじゃ何か言われるか…。
ふぅ…。と、小さなため息をアタシはついた。
アタシの格好…。それは
男なのに、女物の礼服を着て薄いメイクいること。
周りの目は、アタシのことを
化け物でも見ているかのような、冷たい目だった。
嫌味も言われ、恥ずかしいとも悪態をつかれた。
死んだ父も母も、アタシには近づかなかった。
けれど…。お姉ちゃんだけはアタシの味方だった。
事ある弧度に、あなたは、とても綺麗よ!と褒め
アタシが泣いている時は、泣かせた奴に文句を言い
嫌なことを言われた時は、
私の可愛い可愛い子に嫉妬しないで!と、言い。
アタシが、女の子の格好が好きなのと告げた時は
次の日に、お姉ちゃんの服を着させられ手を繋いで
女物の服屋と化粧品を買いに行った。
周りの視線に怖がっていたアタシに、
自分のサングラスと帽子を被せ、視線を遮ってくれた。
どんな時でも、味方だったお姉ちゃん。
そんな、お姉ちゃんが嬉しそうに
結婚と妊娠をした事をアタシに報告をしてきた日。
アタシが一番最初に思ってしまった事がある、それは
「アタシ…一人になるんだ…」と、哀しくなったこと
また、お姉ちゃんの旦那さんに冷たい目で
見られるんじゃないか…?と、恐れた事だった。
しかし、旦那さんと初めて会った日に
旦那さんから言われた事がある。
それは、『あなた事は、お姉さんから聞いている。
可愛くて優しくて綺麗な自慢の子よ。臆病な一面もあるけど、人を傷つけない。世界で一番愛しているの!』
あなは、愛されていますね…。旦那さんは
嬉しそうに、お姉ちゃんと見つめ合って
こう、話してくれた。
アタシは、あぁ。この人はアタシのことを否定しないで
くれるんだ。アタシは、それが何よりも嬉しかった。
お姉ちゃんに、赤ちゃんが生まれた時には
赤ちゃんをアタシに見せながら、
ほら、あなたのおネェちゃんよ〜!と笑顔で話していた
アタシは、よろしくね。と、小さな手と握手をした。
何もかもが、暖かく幸せな日々だった。
あの日が来なければ……。
来なければ、暖かい日々は永遠に続くはずだった。
あの日も、雨だった。
朝から、ずっと降り続いていた。
アタシと姪は、病院に向かう為タクシーに乗っていた
何が起きているのか何もわかっていない姪は
呑気に鼻歌を小さな声で歌いながら、大人しく
アタシの隣に座っていた。
アタシは、今朝に来たメールを素早く確認していた。
『娘と一緒に、富士槍大病院へ向ってくれ。頼む』
お姉ちゃんの旦那さんからのメール…
……お姉ちゃんに、何かあったの??
アタシは、不安で不安で仕方が無かった。けど…
アタシが不安になっていたら、姪に気付かれてしまう
そう思ったから、変わらずいつも通りに姪に接していた
タクシーが、病院についた時
アタシは、お金を払い。すぐ姪を抱きしめて
一目散に、お姉ちゃんの所へと早足で向かった。
途中、看護師さんやナースステーションに立ち寄り
病室への道を尋ねながら速歩
もうすぐ、病室に着く!アタシは突き当りを右に
曲がろうとした時に、見覚えのある人が廊下にいた。
「あっ…!ぱぱだ」
姪は、嬉しそうに声をかけた。アタシは抱きしめていた姪を降ろして、一緒にカレの所へと歩いていった。
何があったのか?聞こうとしたら
カレは、アタシの耳元で
姪に聞こえないように…そして囁くように話してくれた。
『妻が……車同士の追突事故に…
巻き込まれ……ついさっき…息を…。』
アタシは、「なぁに?冗談でしょ?
アタシのことを、お姉ちゃんと仲良くからかっているんだ〜!』と、笑ってみせたが。
カレは、静かに涙を流しながら首を横に振った。
お姉ちゃんの遺体を見るまで
アタシは、コレが現実だと思いたくなかった。
……お姉ちゃん…??
アタシと…今度ランチへ行くのよね??
お買い物をしようねって約束したよね??
小さなこの子を置いていくの??
旦那さんを置いていくの??
アタシを……置いていくの?
けれど…静かに眠っているお姉ちゃんを見た時に
あぁ…現実なんだなって実感が湧いた。
ボンヤリと虚ろな目で、お姉ちゃんを見ていたら
カレが、手続きがあるから娘を頼む。
泣き腫らした目で、頼んできた。
アタシは、頷くと姪に
おネェちゃん、のどが渇いたのだけれど
ジュースで買いに行かない?
姪に、そう聞いたら可愛い声で行く!と返ってきた。
アタシたちは、自販機が置いてある場所へと
向かっていった。
その間、泣いたらダメ…泣いてはダメ…
呪文のように心の中で唱えていた。
ジュースを買って、二人で仲良く飲んでいて
飽きないようにと、持ってきていた絵本を読んであげたりお絵かき帳でお絵かきをしたりしていたら、姪はいつの間にか眠ってしまった。
夢の中で、ママに会えると良いな…。
アタシは、姪の髪を優しく撫でて願った。
止まない雨が降り続けている窓の外を眺め
ボロボロと静かに涙を流しながら
小さな小さな声で鼻歌を歌っていた。
曲は、ジュディ・ガーランド 虹の彼方に
アタシが、泣くのは…涙を流すのは…
これが、最初で最後。